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中高生達との良い映画作りの時間を過ごせた…!『ワイルドツアー』三宅唱監督を迎えトークショー開催!

2019年5月5日

山口情報芸術センター(YCAM)で実施されている植物図鑑を作るワークショップを物語の起点に、10代の若者たちが自然に触れ成長する姿を描く『ワイルドツアー』が、5月4日(土)より関西の劇場でも公開。5月5日(日)には、大阪・九条のシネ・ヌーヴォに三宅唱監督を迎え、トークショーが開催された。

 

映画『ワイルドツアー』は、三宅唱監督が、ほぼ演技経験のない10代の中高生たちとともに脚本や演出を考えながら撮影を重ねて完成させた青春映画。山口情報芸術センター(YCAM)が実施する映画制作プロジェクト「YCAM Film Factory」によって製作された。山口県山口市にあるアートセンターでおこなわれている「山口のDNA図鑑」というワークショップに進行役として参加している大学1年生の中園うめ。このワークショップでは、参加者が自分たちの暮らす街を歩きまわり、どんな植物が生えているのかを調べていき、採取した植物からDNAを抽出し図鑑を作成する。うめは中学3年生のタケとシュンとともに「新しい種」を求めて近くの森を探索していく。

 

上映後、三宅唱監督が登壇。お客さんとの質疑応答を中心に大いに盛り上がった。

 

本作の制作にあたり、三宅監督は、YCAMに8ヶ月も滞在。YCAMは、メディアアートを作るための施設。美術館とも違い、様々なジャンルのアーティストを呼び、作品を作り、場合によっては街の人も交ざって新作を制作する機能を持つ。以前は、音楽家が滞在することが多かったが、5年前から映画制作プロジェクトが始まった。ドキュメンタリー作家が街に住み制作することはあるが、劇映画の監督の滞在は比較的珍しい。監督自身も興味があったが、YCAMはそれ以上に十分な環境を用意してくれた。

 

制作にあたり、三宅監督は、野山に行けば、恋に落ちることもあるという流れまでは設定。キャスティングを募り、応募してきた人全員がそのまま出演していく。そこから、キャラクターややりたいことを肉付けしていき、個々のエピソードの中で起きている細かなことについて、アイデアを出し合った。主要な3人のキャラクターについて「本人達は毎回撮影に入る前に、”俺と全然違ぇよ”と言いながら始めていました」と明かす。クライマックスシーンでも照れていたが「ある時から、そこで照れる方がカッコ悪いと彼らなりに気づいて、彼らで自分自身のハードルを上げていってくれた。僕は特にアドバイスしておらず、僕がOK出したら、もう1回やらせてくれとお願いされた」と驚くほどに成長。自分自身を演出している姿は頼もしかった。

 

恋愛を題材にした今作だが、三宅監督は「恋愛は正解や間違いがないから、歳が違っていても彼らと僕がフェアに話せる。共同制作しやすい題材ではあったので、意見を出しやすかったかもしれませんね」と語る。監督自身は「この状況で落ちない奴はいない、と思っている」と打ち明けながら「恋することで、相手の良いところを発見していく。映画作りは、演技や風景でいいところを発見すること。発見の積み重ねとして恋がある」と述べた。本作を振り返り「恋の物語であるが、好きなものを発見すること。彼らにとって初めての映画作りは映画そのものへの発見も出来たかな」と懐かしんだ。

 

なお、本作は多様なカメラを用いて撮影された。三宅監督は「手元に映像があることで何が起きるのか。iPhoneでやれることは全部やってみよう」と挑戦していく。被写体となった中高生達にかめらを向けながら「ワイルドネスな部分はあまりにも速度が速く変化していく。それに追いつくためにiPhoneのカメラだったら、繊細かつ大胆な姿を捉えられるのではないか」と考えた。もちろんiPhoneだけでは撮れない画として「通常のカメラを据えて演技することでしか捉えられない人間の姿もある」と受けとめ、総力戦で野生の風景を捉えるために取り組んでいる。だが、あくまで、監督の目的は「彼らが中心にあります」と軸はブレていない。また「境界を超えていくような映画にしたい」という意図があった。だが「全ての境界を超えられるわけではない。映像の中に人間は入ることはできない」と理解しながら「越えられない壁がこの世の中にはあるんだよね」というメッセージの設定は考えており「壁を超えるだけでなく、いくらでも楽しむことが出来る」と思いを込めている。

 

67分の作品となった本作だが、三宅監督は、最初からのこの尺にしようと考えていた。撮影期間は昨年2月の1ヶ月間だが、全て週末のみで撮影。10日前後の撮影で夜は撮影できないので、1日の撮影時間は限られており「カメラを回す量よりも、その場で彼らとの良い映画作りの時間を過ごすことが最優先。予め尺の短さは予想していました」と解説する。

 

前作『きみの鳥はうたえる』と『ワイルドツアー』は「どちらも映っている人達と楽しく作ること」が大きなテーマとして設定していた。「映画作りをどこまで満喫できるか。どれだけの人と協力できるか。明確な違いは自分の中でもある」と述べ、『きみの鳥はうたえる』と『ワイルドツアー』におけるカメラと役者の距離感を挙げる。意識して距離を変え、演出方法は厳密には全く違っており『ワイルドツアー』は「実は、正攻法で劇映画を作っている。中高生と真面目に演出を考えることから始まり、彼らも撮影では一緒に演出を考えモニターを見て気づいていった。具体的な映画撮影の手順に則っている」と説く。また『きみの鳥はうたえる』は「普通ではない作り方をしたいなと思っていたのでヒヤヒヤものでした」と伝え「両作品で楽しんでもらえたら」と願っている。

 

これまでの映画製作を振り返り、三宅監督は「脚本があり撮影を始める時、脚本以上におもしろいことが目の前で沢山起こる。それをどうにか撮りたいと思うんですが、脚本に書いていないので、映画になかなか取り込めない」と、映画作りのジレンマを告白。そこで「目の前で起きていることにスポーツのごとく反応しながら、映画を作れればいいな」と考えていた。今回、滞在していく中で「自分がゼロの状態から街で起きていることにリアクションしながら映画を作れないかなと思っていたので、取り組めてよかった」と満足している。今後について「事前に脚本を書き、脚本通りに普通に映画を撮ることが今の自分のモチベーションです」と真摯に未来を見据えていた。

 

映画『ワイルドツアー』は、大阪・九条のシネ・ヌーヴォと京都・出町柳の出町座で公開中。また、6月1日(土)からは、神戸・元町の元町映画館でも公開予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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