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同じ時代を生きる人達に想いを馳せて…『ナディアの誓い – On Her Shoulders』玉本英子さんを迎え公開記念トークイベントが開催!

2019年3月23日

2018年ノーベル平和賞を受賞した人権活動家で国連親善大使のナディア・ムラドさんへの密着取材を行ったドキュメンタリー『ナディアの誓い – On Her Shoulders』が、3月22日(金)より、大阪・梅田のテアトル梅田で公開。3月23日(土)には、アジアプレス・映像ジャーナリストの玉本英子さんを迎え、公開記念トークイベントが開催された。

 

映画『ナディアの誓い – On Her Shoulders』は、2018年ノーベル平和賞を受賞した国連親善大使ナディア・ムラドさんに密着したドキュメンタリー。23歳のナディアはイラク北部のコチョ村で母と兄弟姉妹たちと幸せに暮らしていたが、ISIS(イスラム国)による少数民族ヤジディ教徒の虐殺によって、母親と6人の兄弟を殺されてしまう。少女や女性たちは戦利品として売買や交換の対象となり、捕らわれたナディアは3カ月性奴隷として扱われたが、なんとか脱出に成功し、ドイツに逃れた。2015年12月の国際連合安全保障理事会の場で、ISISの虐殺や性暴力に関する証言を行ったナディアは、ヤジディ教徒の希望の存在となった。普通の生活に戻ることを望ながらも、まだ捕らえられている同胞や世界中の性暴力被害者のため、表舞台に立ち続けることを決意したナディアの揺るぎのない決意をカメラが追っていく…

 

上映後、玉本英子さんが登壇。今回は、これまでに取材した際の写真や映像を通して、ヤジディ教徒やISからの迫害、ナディア・ムラドさんの故郷について伝えていった。

 

イラクの北西部にあるシンジャルは、ヤジディ教徒の多くの方達が暮らしてきた心の故郷。ヤジディ教徒は、クルド人から構成されており、クルド人の95%以上はイスラム教徒、数%(イラク国内では60万人)がヤジディ教徒と云われている。シンジャルには10万人が暮らしていたが、周辺をISに支配され、襲撃された。だが、ISに迫害されてきただけではない。歴史的には、オスマントルコ時代から虐殺されており、トルコの南東部に暮らしてからシンジャル等に逃れてきた。フセイン政権時代には、移住化政策が執られ砂漠地帯に追いやられたり、ヤジディ教の聖地が破壊されたりと様々な迫害を受けており、イラク社会で偏見にされられ差別されてきた。多くの教徒は貧しく、男性はクルド人自治区やバグダッドに出稼ぎに行き建設労働をされている方が多い。女性は10代後半に結婚する方が多く、小学校を卒業出来たら良い方で、高校進学が多くないのが現状。ナディア・ムラドさんは中学を卒業しており、玉本さんは「読み書きが出来たので、世界の舞台でもスピーチが出来た。クルド語が話せたが学校ではアラビア語を勉強する。映画では、ナディアさんは日常会話はクルド語だが、国際舞台ではアラビア語が多かった。だから、彼女はヤジディ教徒達を代弁する重要な人物になっていきました」と解説する。では、なぜ、性奴隷になったり虐殺されたりしなければいけなかったのか。ヤジディ教徒には神様が存在し、さらに崇拝する孔雀天使が存在する。孔雀天使は、イスラム教徒の極々一部では、神様に破門された悪魔と呼び、ヤジディ教徒は悪魔崇拝をしていると勝手に見なされた。

 

玉本さんは2004年からヤジディ教徒を取材しており、2010年にシンジャルを訪れ、新聞記者達に話を聞いて様々なところに連れていってもらい、様々なことが勉強になった。シンジャル市内は安全な街だったが、2014年6月にイラク第2の都市であるモースルが襲撃され、モースルに近かったシンジャルにISが攻めてくる。と噂になった。ISが襲撃する2カ月前に若者達が毎日銃を持って警備していたが、玉本さんも、ISによる襲撃の規模は予想だにしなかった。8月3日にシンジャルと周辺地域をISが襲撃。若者達は銃を持って応戦したが、組織的なISの襲撃には到底及ばず。シンジャルを守っていたクルド兵も逃げてしまい、ヤジディ教徒達は見捨てられ、安全なクルド人自治区に逃げようとしたが、道路がISによって封鎖された。逃げ場を失った数万人の人達は、近くのシンジャル山に逃げ込んだが、岩山で緑がなく、食料や水もなく9日間もなんとか生き延びたが、赤ちゃんやお年寄りが亡くなった。一方、町や村でISで捕まった人達は数千人もおり、ナディアさんもその中の一人。ISは男と女に分け、男達にはイスラム教への改宗を命令。多くの男性は改宗せず銃殺され、女性や子供は戦利品として扱われ、ISの支配地域に連れていかれ、奴隷としてISの戦闘員に買われていった。ナディアさんはモースルで監禁されていたが、地元のイスラム教徒の方に助けてもらった。玉本さんは「イスラム教徒の方とISは全く違う人達です。誤解のないように知って頂けたら」と訴求する。なお、ヤジディ教徒の女性達は一度買われるだけでなく、転売されていくことが多かった。飽きたら、LINEのようなツールを用いてモノのように他の戦闘員に転売していった。ナディアが暮らしてきた故郷であるコジョ村は、シンジャルから車で南に20分のところにある人口2000人未満の小さな村。玉本さんは、昨年10月にコジョ村を取材した時、ナディアさんの家がISに襲撃されたままの状態だったことを確認。村人にナディアさんについて聞くと「人に凄く親切で、勉強のできる子だった」と評判だった。

 

現在、ISの掃討作戦もかなり進んでおり、600m四方程度の小さなエリアにISに残っている。多くのヤジディ教徒達はシリアから解放されているが、まだ2000人以上の方が行方不明。ISに連行されていたので、空爆によって亡くなった、とも云われている。イラク軍によるIS掃討作戦によって、シンジャルからいなくなったが、ヤジディ教徒達は村に帰れない。家を破壊され、周辺にはイスラム教徒の方がいるなかでは、イスラム教徒を信頼出来なくなっている。多くの方は国外に逃れており、2000人が既にドイツに逃れ、それ以上にオーストラリア等に難民として行っているが、現在も生活に困窮している。玉本さんは「ナディアさんがノーベル平和賞を受賞して良かっただけでは終わらない。現在も厳しい状況に置かれており、拉致された女性達は現在もトラウマに苦しんでいる。虐殺され性奴隷にされたヤジディ教徒達を思い起こして頂きたい。同じ時代を生きる人達のことを、他人事ではなく、自分達に近い存在として考えて頂けたら」と訴え、トークイベントは締め括られた。

 

映画『ナディアの誓い – On Her Shoulders』は、大阪・梅田のテアトル梅田で公開中。また、4月6日(土)より、神戸・元町の元町映画館でも公開予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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