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『タレンタイム~優しい歌』特別講義 ~ヤスミン・ワールドの作られ方―才能・物語・時~シアターセブンで開講

2017年6月17日

6月17日(土)より大阪・十三のシアターセブンで、2009年に他界したマレーシアのヤスミン・アフマド監督の長編映画であり遺作となった作品『タレンタイム~優しい歌』が上映されている。上映初日には、京都大学准教授であり京都大学東南アジア地域研究研究所/混成アジア映画研究会代表の山本博之さんを迎えて「特別講義 ~ヤスミン・ワールドの作られ方―才能・物語・時~」と題してトークショーが行われた。

映画『タレンタイム~優しい歌』は、今は亡きヤスミン・アフマド監督の最高傑作と云われ、8年の時を経て、待望の劇場公開となった作品。音楽コンクール「タレンタイム」(才能の時間=タレントタイム)が開催される高校で、ピアノの上手な女子学生ムルーは、耳の聞こえないマヘシュと恋に落ち、二胡を演奏する優等生カーホウは、成績優秀で歌もギターも上手な転入生ハフィズを嫌っていた。コンクールに挑戦する生徒たちの青春を描きながら、マヘシュの叔父に起きる悲劇や、ムルーとの交際に強く反対するマヘシュの母、闘病を続けるハフィズの母など、民族や宗教の違いによる葛藤を抱えた人々の様子を通して、多民族国家としてのマレーシア社会を映し出す…

トークショーのゲストである山本博之さんはお客さんと共に作品鑑賞後に、プレゼン形式のトークショーを開始するということから、さながら大学の講義を聴講するような雰囲気で始まった。

山本さんは、高校生の頃、マレーシアに1年間ホームステイした経験がある。現地の家庭に滞在し、現地の高校に通い、現地のタレンタイムに参加した経験もあった。山本さんは、マレーシアが他民族・多言語・多宗教にも関わらず、人々がどのように上手く折り合いをつけてきたのか興味を抱いた。「その理由を世界中の人が知れば、世界は争いが少なくなるんじゃないか」と思い、マレーシアの研究を志した。現在は大学でマレーシアや東南アジアの社会や文化等を教えている。数年前にヤスミン監督の映画に出会い、コレだ!と直感。論文を執筆し学会で発表するよりも「ヤスミン監督の作品を、より多くの人に紹介した方がずっと意味がある」と思い、研究会を発足したり、自主上映会を開催したりして、今日に至る。

そもそも、マレーシアは、東南アジアの中心に位置する他民族・多言語・多宗教の国。原住民系と移民系のの民族に大きく分けられる。原住民系はマレー人、元々東南アジアにずっと前から住んでいた人々。移民系は中国系とインド系、4世代以上前に中国・インドから来た人々の子孫にあたる。マレーシアを理解しておくべき前提条件として試験と冠婚葬祭がある。マレーシアでは高校卒業時に全員が受ける全国統一試験がある。試験結果によって、大学進学の資格や奨学金を受けられる。「試験結果が駄目だったら、自分で卒業後の進路を探さないといけない。将来の道が大きく変わる、誰もが通らないといけない厳しい試験」と山本さんは説明する。また、冠婚葬祭では特にお葬式・法事が重要とされている。宗教が違う人は共に弔えない。

ヤスミン・アフマド監督は1958年生まれ。イギリスの大学で心理学を学び、その後はマレーシアに帰り広告代理店に入りTV CMを製作していた。45歳から長編映画をつくるようになり、毎年1本のペースで制作。6作目に『タレンタイム』を制作し、7作目の準備をしていた頃に亡くなった。7作目は、ヤスミンさんの祖母が日本人であることから、日本を舞台にした作品を作ろうとしていた。

山本さんは、ヤスミン監督の作品について3つのテーマを軸に話していった。1つ目は[TALENT 才能]。本作の出演者は演技を専門している人達は少なく、ほとんど映画初出演の新人。山本さんは「ヤスミン監督は、心を打つ物語は演技によって作られないと考えている。演じる人たちの個性や経験、すなわち才能が発揮されると心を打つ物語となる。自分の役割は、一人一人の個性や経験、才能を引き出すことで、自分のことをストーリーテラー、物語の語り部だと言っている」と述べる。「他の作品では、リハーサル時に、本読みしながら、出演者自身が普段喋っている言語に台詞を直していく。頭で考えて演じさせない。個性や才能、経験を引き出していくと意図しないところで、物語が生まれる」とヤスミン監督の考え方を説く。

2つ目のテーマは、[TIME 時]。山本さんは「時は流れていき、止められないし遡らせれない。すなわち、運命やタイミング」と定義する。「ヤスミンワールドで、時を象徴する役割を担うのが月。月は太陽の光を受けて輝き、満ちたり欠けたりする。私達はいつもスポットライトを浴びて輝いているわけではないが、時々スポットライトを浴びることがある。もしスポットライトを浴びる番が来たら、その時は準備ができていなくても舞台に出て精一杯輝きなさい」とヤスミン監督の言葉を伝える。「死後、名前を忘られてもいい。作った物語だけは忘れずに、様々な人が語り継いでほしい」と亡くなる直前のヤスミン監督の言葉を告げた。

3つ目のテーマは、[TALE 物語]。山本さんは「ヤスミン監督は遊び心や悪戯心があり、固定概念の裏をかく」と分析。過去作から、映画館で記念写真を撮るシーンでは女の子の方が力強いことや、夕食の支度シーンでのソファに座って大笑いしている家政婦さんと隣でご飯を装っている主人と奥さんを例に挙げる。「違和感を感じるが、見ていて可愛らしく、それもありかなと思えてしまう。現在のマレーシアの常識ではないかもしれないが、あってもおかしくはないかもしれない。ヤスミン監督は、もう一つのマレーシアを映画の中に多く取り入れた」と感じている。

ヤスミン監督はマレーシアの多様性を取り戻すために作品で表現した。マレーシアは、マレー系、インド系、中国系から構成された多民族国家。山本さんは「異なる民族が同じ家族の中にいる設定。家族という括りにすれば違和感がない」とヤスミン監督が民族の違いについて問いただしている、と解説。「マレーシアは多民族で多宗教で多言語社会。映画で多民族の多言語が出てくるのは珍しい。マレーシア政府としては、マレーシアの原住民系が多く関係する国産の映画を推進したい。台詞の中にマレー語が8,9割以上ないとマレーシア映画と認めない政策を20年ぐらい継続してきた」と説明。「マレーシア人監督による、マレーシアを舞台にマレーシア人が演じるマレーシアの物語でも、英語や中国語やタミール語が半分ぐらい入っていれば、マレーシア映画と認められず、マレーシアで公開される機会がほとんどない」、つまり「マレーシアの実生活では多民族の状況でも、映画では単一民族単一言語の世界がずっと続いていた」ことになる。今作では「台詞に複数の言語が混ざっている。字幕では、英語とマレー語はそのまま、中国語とタミル語は()を付け、手話は≪≫を付けている。一つの文の中で他の言語を混ぜ込んでいる場合もある」と注釈。作品への検閲について「厳しいが、スクリーンからの見聞だけが対象になる。一部の箇所をカットし余白を作ることで、観客には分かってもらいながら、検閲官には別の印象となる映像を見せられる。検閲を通して観客に物語を伝えることを試みている」と分析し、ヤスミン監督は観客の想像力に賭けている、と説く。物語の全部を説明する映画に慣れている人にとっては説明足らず、フラストレーションが残る、余白だと思えれば楽しめる。物語が多層に重なっていくのがヤスミン監督の特徴であり、どの層を受け止めるかは観客次第。

最後に、山本さんは「演技への個性と才能を引き出す環境を整えている。様々に制約がありながら、制約を意識して表現する。その工夫によって、何層にも織り込まれて余白の多い物語が生まれる」と、ヤスミンワールドの作られ方をまとめ、トークショーを締め括った。

映画『タレンタイム~優しい歌』は、6月17日(土)より6月30日(金)まで大阪・十三のシアターセブンで上映。6月17日(土)~6月23日(金)は13:55~、6月24日(土)~6月30日(金)は14:30~にて上映。また、6月24日(土)より7月7日(金)まで京都・烏丸の京都シネマで上映。6月24日(土)~6月40日(金)は12:50~、7月1日(土)~7月7日(金)は14:45~にて上映となっている。
【追記】
上映期間の1週間延長有。7月1日(土)と7月2日(日)は16:50~、7月3日(月)~7月7日(金)は18時40分~にて上映予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する
映画好き。映画ライター講座を受講し
関西の映画情報サイトを中心に執筆