僕と同じ場所に生きている人の姿を撮りたい…!『愛の小さな歴史』越川道夫監督と瀬戸かほさんを迎え舞台挨拶開催!
癒えない悲しみを抱える女性が小さな古本屋の店主の妻となるも、彼の幼馴染と惹かれ合っていく様を描く『愛の小さな歴史』が関西の劇場で公開中。12月14日(土)には、大阪・十三の第七藝術劇場に越川道夫監督と瀬戸かほさんを迎え舞台挨拶が開催された。
映画『愛の小さな歴史』は、『海辺の生と死』『アレノ』など男女の濃密な時間を描いてきた越川道夫監督が、新たに取り組む「誰でもない恋人たちの風景」シリーズの第1弾。癒えることのない悲しみを抱えながら、漂うように生きてきたユリがたどり着いたのが、小さな古本屋だった。ユリはその店の主人であるトモさんの妻になる。亡くなった前妻のことを忘れられないトモさんは、彼女のことを毎日思い出しながらも、今ではユリなしの生活は考えられずにいた。一方その頃、トモさんの幼なじみのリュウタは亡くなった父の遺品からある詩集を発見する。そんなリュウタとユリはお互いに惹かれ合い、そして求め合うようになる。ユリがリュウタとの関係を続けることは、ユリがトモさんのもとを去ることを意味していた。主人公ユリ役をモデルなどでも活躍する瀬戸かほさんが体当たりで演じるほか、トモさん役を『焼肉ドラゴン』の宇野祥平さん、リュウタ役を『新宿スワン』の深水元基さんがそれぞれ演じる。
上映後に、越川道夫監督と瀬戸かほさんが登壇。映画宣伝・配給に長年携わってきた越川監督は「第七藝術劇場は、配給のお仕事で多くの作品でお世話になりました。自分の作品で舞台挨拶をするとは…」とあいさつをしながら感慨深くなっていた。
越川監督自身は「自分を職業監督である」と把握しており、今回、キングレコードからR18+指定のセックスと恋愛をテーマにしたラインで撮りませんか?とオファーを頂く。これまでに『アレノ』や『二十六夜待ち』が人間の多様な部分も含めて描いており「結果的に成人指定となったので声を描けて頂いた。自分に何が出来るか考えながら作り始めた映画です」と振り返る。自身について「僕は特別な人ではなく、僕と同じ場所に生きている人の姿を撮りたい」と考え監督業を営んでおり「僕たちの姿を映画を通して観れないものか」と日常的な表現を大切にしてきた。
瀬戸さんにとっては大きなチャレンジとなった今作だが「脱ぐことが決定であれば、全てを賭けて演じるしかない」と正直な気持ちで挑んでおり「中途半端な気持ちでは作品を残すことは一番避けたかった」と語る。他にも、泣いている状態で宇野祥平さんが笑わせようとしているシーンについて「本当にビックリしました。おもしろかったですよね」と回顧していく。越川監督は「僕が考えたんだよね」と告げ「台本には、”笑わせようとする”と書いてあり、何を以て笑わせるか、宇野君と考えようと思っていた」と明かす。瀬戸さんは笑わない設定だったが「宇野君が後で『僕らは本当にもう駄目なんだなぁ、と思った』と言っていたので、良かった」と満足している。瀬戸さんの演技について「最初は緊張していたと思います。2日目から堂々としていた。後半は何も言う必要がなかった」と太鼓判を押している。
瀬戸かほさんと宇野祥平さんと深水元基さん、三者の雰囲気が世界観を作り上げている本作。瀬戸さんは、宇野さんについて「凄く笑わせて下さった。明るい空気にしてくれる。現場ではしっかりとしてリードして下さった」と感謝している。また、深水さんについて「『新宿スワン』のイメージが強く、芝居で下手したら”この野郎!”と言われるかと思っていたんですが、近所の美味しいラーメン屋さんを教えてくれた。繊細な方だと感じました」とイメージが変わった。越川監督は台本に皆が合わせていく作り方を長年実践しており「台本を出発点にして現場で超えていくものが生まれてこないと嫌だ」と捉えており「机上では考えつかない。スタッフも含め生身の人間達が顔を突き合わせて作品を作っている。台本に書き込みながら、撮影を終えると違うものが出来上がっている」と冷静に受けとめている。だが「書いたものは消してしまう。考えて台本に書いているが、撮り終えるとすぐに消している。消しながら自分達がやったことを思い出して、翌日の撮影について考える。撮影が全て終わった時、僕の台本には何も書いていない」と独自の手法を説く。その結果として「書いた痕跡だけが残る。皆と一緒に作ったことが映っている」と作品の仕上がりには自信がある。完成した作品を観て、瀬戸さんは「葡萄を食べているシーンが好きですね。ユリが素直に無邪気に楽しんでいる。人である前に生き物として楽しく生きている感じが好きですね」とお気に入りのシーンを挙げた。
最後に、瀬戸さんは「自分にとって思い出深い作品になっています。大阪の観て頂けたことを嬉しく思います」と伝えていく。越川監督は「僕の好きな大和屋竺監督の作品に葡萄を食べるシーンが出てくる。深水君と瀬戸にあぁいう映画が似合う格好いい俳優になってほしい思いを込めた手紙のようなシーン」と添えた上で「第七藝術劇場はずっと一緒に仕事をしてきた劇場です。多様な映画が上映されている劇場です。今作に限らず映画が如何に多様であるか観て頂ける映画館です」と思いを託し、舞台挨拶は締め括られた。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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