45日間撮影し、監督が納得できる作品が出来上がった…『形のない骨』安東清子さん、髙田紀子さん、熊谷太志さん迎え舞台挨拶開催!
苦難に満ちた女性の日々描く『形のない骨』が、10月6日(土)より、大阪・十三の第七藝術劇場で公開中。公開初日には、出演の安東清子さん、髙田紀子さん、熊谷太志さんを迎え、舞台挨拶が開催された。
映画『形のない骨』は、地方都市で暴力的な夫や嫌味な姑らと暮らす女性の苦難に満ちた日々を描き出す。地方都市の郊外に暮らす34歳の良子。画家の夫、姑、小学生の息子との暮らしは周囲からは穏やかに見えたが、良子にとっては絶望の日々だった。画家としての創作意欲を失い、ヤクザまがいの男に自分の描いた贋作を売る夫からの執拗な暴力。追い討ちをかける止まることのない姑からの刺々しい嫌味。良子が心を通わせるのは弟の圭人と、息子の宏だけだった。そんなある日、良子はある事件によって夫を失ってしまう…
上映後に、安東清子さん、髙田紀子さん、熊谷太志さんが登壇。安東さんは「本日が大阪での初上映。今日を迎えられ、劇場でお話しできる機会を頂いたことを心から感謝しております」とご挨拶。髙田さんは「皆様が抱いた御感想や御意見を御家族や御友達と語り合って頂けたら」とお願い。熊谷さんは「東京での初日舞台挨拶も台風が接近している中だったので、僕が嵐を呼ぶ作品となっていた。今回も僕のせいかな」と今日の台風接近を気にしていた。
本作の制作時には、オーディションを兼ねたワークショップが開催され、その後も長期間の演技練習が行われた。本作で本格的な演技が初めてだった安東さんはワークショップで演技を学ぶ。以前は、演技は、自身の性格とは180度違う役を演じることだと思っていたので「自分が出来るだろうか」と不安になりながらワークショップに参加。最初に、お芝居は自分の人生の延長線上に役を捉えていくことだと初めて学び、印象に残った。監督の小島淳二さんは資生堂のCMなど東京で活躍している。だが、CM制作時にはプロデューサーの要望等も受け消耗することもあった。本作は当初、小島監督の自腹で撮影。キャストらは「一体、いくら使ったんだろう」と不安だった。だが、監督主導で制作することで、監督が思った通りに映画作りが実現。小島監督は佐賀県出身であるため、福岡県のいい場所を沢山知っており、撮影は福岡で行われた。
なお、本作の撮影期間は45日間。自主映画の撮影で1ヶ月半もかけることは珍しい。45日もかけた理由について、熊谷さんは「監督は1日3シーンしか撮らないと制約を決めた。CM制作現場では予算と納期が決まっている。映画では同じことをしたくなかった」と説明。この手法について「正直に言えば、ありえないほど贅沢な撮り方。監督が納得いくまで撮影したかった」と理解を示す。舞台となった家は、空き屋で6ヶ月程度お借りした。安東さんは「ワークショップの後、1ヶ月の練習があり、この家で衣食住を共にした。家族が過ごす日常の場面を監督が与えたことで、家族の一体感が出来たのではないか」と捉える。完成した作品を観て、熊谷さんは「自分がスクリーンの中にいる!」と衝撃を受けた。髙田さんは「グッとくるシーンで音楽が流れ、涙が出る程感激しました」と振り返る。安東さんは「初めての映画だったので、最初は客観的に見れない。自分はこんな表情をしながら演じていたのか、と驚いた。想像以上に凄い顔をしている時がある」と印象に残った。
各々が演じた役について、安東さんは「稽古を始める前に役を知ったが、想像していなかった。台本を読み、良子の感情や生き方に気持ちがついていかなかった」と告白。その差を埋めるために「最終的に寄り添い良子の目線になって物事を考えてみることが必要」だと考えた。アプローチを続けた結果として「稽古中は自分で感じることがなかった感情が本番で沸き起こり、良子を演じられた」と解釈している。髙田さんは「当初は姑として良子に対しとげとげしく意地悪だったが、楽しんで演じていた。後半以降、段々と心が壊れていくが、自分もこうなっていくのではないか、と考えながら芝居を行った」と役を乗り切れた。熊谷さんは、圭人役を頂いた時に生い立ちの説明も頂いた。圭人について「劣等感が染みついてしまう人生を歩んできた人。指示を受けて出来る役ではない」と捉える。物事の解釈について考えてみたり、繁華街を圭人の気持ちで通ってみて感情の変化に注目してみたりした。結果的に「役への入り込みに時間がかかる。カットの声がかかると気持ちが切れてしまうので、圭人のままで佇んだ。愛想が悪くなるので、毎日のようにスタッフにお詫びしていた」と打ち明ける。
最後に、熊谷さんは「大阪は初めてだったが、笑って頂けたので良かった」と安堵の気持ちを示す。髙田さんは、監督不在で責任も感じていたが「なんとか最後まで終わることが出来ました。皆様のお陰です」と感謝する。安東さんは「本作は観て頂く方に委ねている部分も多く、多様な感想をお持ちだと思います。そういった多様性もこの映画の良さ」だと表現し「回数を重ねて頂く度に見方や感じ方が変わってくる作品。『形のない骨』の世界を映画の中で終わらせることなく、観終えた後も様々なことを考えるきっかけの1つにして頂ければ」と伝え、舞台挨拶は締め括られた。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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