黒人コミュニティのリアルを描く映画作家チャールズ・バーネットの特集上映「チャールズ・バーネット エブリデイ・ブルース」が順次公開中!
©1977 Charles Burnett ©2025 Milestone Film & Video for KILLER OF SHEEP
ハリウッド映画とは異なる視点から黒人コミュニティの日常を描いてきた映画作家チャールズ・バーネットの初期代表作『キラー・オブ・シープ』と『マイ・ブラザーズ・ウェディング』の4K修復版が、特集上映「チャールズ・バーネット エブリデイ・ブルース」として全国で順次公開されている。
映画『キラー・オブ・シープ』は、アフリカ系アメリカ人の日常と人間性を描き、アメリカ映画に静かな革命をもたらした映画作家チャールズ・バーネットが1977年に発表した長編デビュー作。ロサンゼルスの片隅で暮らすアフリカ系アメリカ人労働者の日常を、写実的なまなざしと詩情豊かな映像美で描く。ワッツ暴動の爪痕が残る1970年代初頭のロサンゼルス、ワッツ地区。スタンは妻と2人の子どもたちを養うため羊の屠殺場で働きながら、空虚な毎日を送っている。日々の労働と貧困のせいで肉体的にも精神的にも疲れ果てている彼は自分の殻に閉じこもるようになり、妻は孤独を募らせていく。UCLA映画学部の大学院生だったバーネット監督が卒業制作として手がけ、身近な人々を中心とした素人のキャストを集めて地元ワッツで撮影。音楽著作権の問題で長らく公開できなかったが、2007年にアメリカで劇場公開が実現した。2025年に完成した4Kレストア版では、ラストシーンを彩る楽曲が、バーネット監督が当初望んでいたダイナ・ワシントン「Unforgettable」に差し替えられた。1981年の第31回ベルリン国際映画祭フォーラム部門にて国際批評家連盟賞を受賞している。

©1977 Charles Burnett ©2025 Milestone Film & Video for KILLER OF SHEEP
映画『マイ・ブラザーズ・ウェディング』は、チャールズ・バーネットが1983年に手がけた長編第2作を、2007年に再編集して完成させたディレクターズ・カット版。家族と友情、アイデンティティの間で揺れ動く労働者階級の青年の葛藤を悲喜劇として描き、黒人コミュニティ内の階級差や世代間の心理的な隔たり、社会的成功から取り残された若者たちのいら立ちを、日常の隙間から静かに浮かび上がらせる。両親が営むクリーニング店を手伝う30歳のピアースは、将来の見通しが立たないまま漫然と日々をやり過ごしている。少年時代の仲間たちは刑務所にいるか、または既に死んでしまった。弁護士の兄が裕福な家庭の女性と結婚したことで、ピアースは居心地の悪さと劣等感を募らせていく。そんな折、刑務所から出所した親友ソルジャーと再会したピアースは、家族への義務感と親友への忠誠心の板挟みとなり、ある選択を迫られる。

©1983 Charles Burnett ©2025 Milestone Film & Video for MY BROTHER’S WEDDING
特集上映「チャールズ・バーネット エブリデイ・ブルース」は、全国で順次公開中。関西では、関西では、5月30日(土)より神戸・元町の元町映画館、6月5日(土)より京都・出町柳の出町座で公開。
大きな出来事がド派手に巻き起こるわけではない。ただただ冷静にコミュニテイを見つめ、その見つめたままをカメラに収める。その丁寧な姿勢や、優しさに感激しつつ、同時に厳しい現実に怯えてしまう。『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス、『グローリー/明日への行進』のエイヴァ・デューヴァーネイ、『ニッケル・ボーイズ』のラメル・ロスな等、現代アフリカ系アメリカ人インデペンデント作家質に多大な影響を与え、『ANORA アノーラ』のショーン・ベイカーも”真の映画芸術のヒーロー”と称賛している。そんなチャールズ・バーネットの初期2作品が、最新の4Kレストア版として日本で初めて上映される。半世紀という時を経て目にする70年代アメリカのリアルをぜひ見つめてほしい。
『キラー・オブ・シープ』
カリフォルニア大学ロサンゼルス校の修了課題として撮られた本作は、その殆どを素人のキャストが演じた初長編映画である。音楽の権利関係をクリアできず、アメリカでも長年公開されてこなかったが、2007年遂にアメリカでの公開を実現。2025年に4Kレストアが完了し、この度日本初公開する運びとなった。
黒人一家の稼ぎを一手に担うスタン。屠殺場で働く彼は、希望のなさや疲労感、働いても働いても稼ぎが少ないことなどが重なり心を閉ざしていく。笑顔が消えている彼を心配する妻も次第に寂しさを募らせていく。そんなスタンの周りではあまり何も考えずに生きているように見える若者が自由に生きている。お金をせびったり、物を盗んだりとスタンにとってはなかなか厳しい状況。家族をもつスタンも、自由に生きている周囲の男性もその日その日を必死に生きているんだろうけど、仕事と盗みじゃ違う。しかし公民権運動で職業選択の幅が広がったとて、どうしようもねぇよ!となる周りの気持ちも分からなくはない。現実が見れてない時は、大抵そんなものだ。実際、スタンが疲弊している姿を目にしたら、働くとは己を殺すことと言ってしまいたくもなる。とはいえ、現代社会に生きる上でお金が無いと困ってしまうし、ワークライフバランスをキッチリ考えてどんな人でも働きやすい生きやすい環境を作っていくことは大事なのだ。もっとも、この映画はそんな小賢しい話はともかく、当時の現実をそのまま閉じ込めている圧倒的なリアルさと画面の美しさに魅力がある。ガチャガチャとカットを切り替えるのではなく、瞬間をフィックス(固定カメラ)で捉える、という単純だが確実に捉えるのが難しい撮り方で魅せてくれる。
『マイ・ブラザーズ・ウェディング』
チャールズ・バーネットの長編2作目。『キラー・オブ・シープ』はとある黒人コミュニティを丁寧に描いたが、黒人コミュニティにおける階級差の中で、アイデンティティと進む社会の狭間を右往左往する青年の物語。主人公のピアースは実家のクリーニング店を手伝い(手伝っているの言えるのかは微妙)ながら、ただ日々を生きている。弁護士の兄は裕福な家庭の女性と結婚するらしく、家族からの目や家族顔合わせの際の気まずさに居心地の悪さを感じていた。ある日、親友のソルジャーが刑務所を出所し再会する。ソルジャーは相変わらずで、周りからは冷ややかな目で見られているが、昔からの親友を無下にすることもできない。そんな板挟みな状況で、ピアースはある重大な決断を迫られる。
耳が痛い。ピアースほどではないが、34歳にして未だに大人になりきれない私からすると、起きていることや状況は別にしたって自分ごとのように思えてしまった。そろそろ現実に向き合わないと痛い目を見ることは分かってる。でも、今の状況から抜け出せる気がしないし、いつまでも甘えてしまう。それでもダラダラ生きていけそうな気がするけど、いつか急な決断が目の前に現れることもなんか分かる。それをチャールズ・バーネットの言い訳を許さない真っすぐした目線で見せられるので強烈だった。重要な場面でしっかりと話を聞いてもらえる程度にはまともになりたいとは思うものの、いつもそんな事を言っているので叶う気がしない。でも、ピアースみたいにズルズルやっていると全てを失いかねないな、とは思っている。ピアースは自分よりもずっと若いはずなので、いい加減危機感をしっかり感じたいものだ。
fromブライトマン
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

















