東北の海辺を舞台に小さな家族がもたらす大きな愛の映画!『生きる街』榊英雄監督迎え舞台挨拶開催!
東北の海辺の町を舞台に、東日本大震災で夫を失った女性を主人公とする家族劇『生きる街』が3月3日(土)より関西の劇場で公開中。3月11日(日)には、本作を手掛けた榊英雄監督と秋山命プロデューサーを迎えて各地で舞台挨拶が開催された。
映画『生きる街』は、東日本大震災で被災した町に暮らす4人の家族と、周囲の人びとが未来を信じて生きる姿を描いたドラマ。佐藤千恵子は生まれ育った海沿いの町で漁師の夫と2人の子どもと幸せに過ごしていた。しかし、そんな生活も2011年3月11日に一変する。あの日から夫は帰ってこない。千恵子は避難所生活ののち、別荘を借り受けた民泊の営業に乗り出す。しかし、被災のトラウマから子どもを持つことを恐れる娘、何でも震災のせいにして人生から逃げる息子と、家族の心はすれ違い始めていた。そんな千恵子たちの前に、かつて同じ町に暮らしていたドヒョンが韓国からやって来る。ドヒョンの口から、これまで千恵子たちが知ることのなかった夫の姿が語られる…
公開2週目、この日は東日本大震災から8年目を迎え、作品にも注目が集まり、テアトル梅田は満員御礼、立ち見のお客さんも出る状態。榊英雄監督と秋山命プロデューサーは登壇し挨拶後に、本当は劇場に駆けつけかった夏木マリさんからのビデオメッセージがあることを告げる。夏木さんは、スクリーンから「この映画は私達が愛を込めて作りました。とても良い映画になったと思います。作品の根底には震災のお話がありますが、家族や故郷のお話だと思っています。この映画をご覧になって、牡鹿や故郷のことを思い出して頂けたら私達も幸せです」とメッセージを届けた。
映画の成り立ちについて、秋山プロデューサーは「名古屋にダンプのレンタル等様々なことを総合的にやっている山田事業所という会社がある。震災後、すぐに社長が自ら被災地に向かい、東北に震災復興のためにダンプを持っていったり、会社も起ち上げたりするに至った。その方々の思いを僕が受け継ぐことになり榊監督に相談した」と打ち明ける。震災を風化させず皆さんの記憶を喚起させるきっかけにしたく映画の企画を起ち上げたが、榊監督は当初断っていた。
榊監督は「震災にまつわる映画や書籍は多く作られている。今更僕らが何を語る必要があるのか」と慮る。だが、震災以降、2016年3月1日に初めて現地を訪れ「ビックリして何も言葉に出来なかった。しっかりと見て、その記憶を持ち帰った」と回顧。数日後に「今更ながら我々が何を語れるのか分からず、糸口が見えなかった。数日後、長崎の五島列島にあるシェアアパートに住む母親が、毎朝遠くにある印象的な山を見て息子達に思いを馳せているという話を聞き、母の愛を感じた。千恵子さんのように家族に思いを馳せている人がいる」と気づき、映画を撮る勇気を持った。本作をつくるにあたり「母との話に置き換え、一生懸命に撮ったのが今作。僕にとっては、愛すべき母や親子、語りたい家族や居なくなった友の為に撮った映画です」と思いを込めている。
秋山プロデューサーは放送作家として仕事をしており「震災以降、仲間が現地で取材し、人々の変化を近くで見ていた。人も街も震災を乗り越えようとしている」と感じていた。そこで榊監督と話しながら、各々のキャラクターを細かく設定していく。榊監督は様々な未来や希望を考え「象徴として子供を登場させる必要があり、自分の子供に出演してもらった。子供達がどんな場所でも大きくなり成人し、何かを継いでほしい」と願い、本作を撮った。
出演者の方々に対しても、榊監督は「心して様々な意味を以て現場に立って頂いた」と受けとめている。映画の仕上がりについて「どういう作品になっていくのか。目標は決めていたが、完成するまではイメージできなかった」と不安だった。ようやくお客さんのところに届き「改めて、それぞれの街で生きながら誰かに会いたいと感じられる映画にしたいと思って作りました」と実感している。これを受け、秋山プロデューサーは「日常の大切さを描けたらと僕らも思っていた。監督はたまにミラクルを起こす。今回では食事のシーン」と指摘。食事のシーンについて、榊監督は「一番地味だが、何もなかった頃に戻ってほしいと想いを込めた」と振り返る。台本では4行書いてあるだけだが「必要以上に大事なシーン。ご飯がないと映画が成立しなかった。僕らは日常の断片を大事にしながら生きていかないといけない」と気づいた。撮影中、秋山さんは「本当の家族、兄と妹だった。食事のシーンで本当に家族になった」と感じ、お客さんにも伝わっていると願う。
最後に、秋山プロデューサーは「皆さんに観てもらい、皆さんにとっていい映画になってくれれば。自分の映画のように様々な方に話して頂ければ」と期待する。榊監督は「小さな家族の話ですが、大きな愛の映画を撮ったつもり。今日は楽しめたでしょうか。引き続き映画の応援を宜しくお願いします」と心を込め、舞台挨拶を締め括った。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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