Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

  • facebook

わからない謎が潜んだ革新的な作品!映画『わたしたちの家』大阪上映初日特別トークイベント開催!

2018年3月10日

2017年PFFアワードグランプリ受賞作品で、東京藝術大学大学院で黒沢清監督や諏訪敦彦監督に師事した清原惟監督の劇場デビュー作『わたしたちの家』が3月10日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場で公開。公開初日には、清原惟監督と本作の配給を手掛けたHEADZの佐々木敦さんを迎えてトークイベントが開催された。

 

映画『わたしたちの家』は、父親を失った少女と記憶を失った女性がたどる、まったく別々の物語が一軒の“家”の中で交錯する室内劇。父親が失踪して以来、母の桐子と2人暮らしをするセリはもうすぐ14歳になるが、母に新しい恋人ができたことで複雑な気持ちになっていた。一方、目が覚めるとフェリーに乗っていたさなは、自分に関する記憶をなくなっていた。自分がどこからこのフェリーに乗ったかも思い出せない。あてのないさなは船の中で出会った透子という女性の家に住まわせてもらうことになる。父親を失ったセリ、記憶を失ったさな、まったく別々の2つの物語が一軒の同じ家の中で進行していく…

 

第七藝術劇場での上映初日、上映前に「映画『わたしたちの家』上映特別トーク 批評家・佐々木敦の考える《いま「作家」たるもの》」を開催。イベントでは、本作だけでなく映画作家に関することまで幅広い内容となった。本記事では、作品の話題を中心にイベントの模様を紹介する。

 

清原監督は、今回で大阪に来るのが2回目で「違う土地に来た気分。大都会だから、東京と似ていたり違っていたり。パラレルワールドに来たかのよう」とワクワク気分。佐々木さんは、本作に関し配給業務に専念しており、東京では表にほぼ出ていないが、大阪で初めての上映であることからトークイベントへも登壇する次第。なお、批評家の佐々木さんはHEADZの代表として音楽レーベルを運営しているが、今回が初めての映画配給。20数年前は映画館で働いた経験があり、業界に知り合いがいないわけではなかった。

 

佐々木さんにとって、清原監督は武蔵野美術大学での教え子。大学生当時から清原監督が作った映画を観てきた。東京藝術大学大学院の修了制作として『わたしたちの家』を観た時に「過去を超えた作品である。このまま修了作品と終わらせるより、劇場でより多くの人に観てもらいたい」と感じ、映画配給に取り組む。東京ではユーロスペースでレイトショー公開し、試行錯誤しながらお客さんにも恵まれた。

 

本作は、1軒の家の中に2組の家族が住んでおり、2つの時間が流れているパラレルワールドを描く、特殊な構造を持つ作品。清原監督は「芸大に入学して以降、映画の構造に興味を持った。今までに見たことがない新しい映画の構造を作れないか考えながら学び、刺激を受けた」と振り返る。新しい映画とはどういうものが出来るか考えていた時に「複数の全く異なる物語それぞれがリンクしているような物語を一つの映画の中に存在している形が出来ないかな」と思い立ち、実現させるべく、共同脚本の加藤法子さんと二人と熟考。考えていく中で「バッハによるフーガの手法を持ちいた楽曲を聴いている時、複数のイメージが纏まっている構造になっていると気づき、実現したい映画のイメージに近い」と気づいた。また、構造のイメージと同時進行でストーリーを設計する。その際には「それぞれのストーリーがあった上で新しい構造が存在し、1つ1つが豊かなものとして映画が出来上がる」と捉えた。これはパズルのようにも思えるが「似て非なるもの。最後に出来る一枚の絵は存在していない。観た人の心中に存在し、定型ではなく不定形。結末に向かってストーリーが進んでいく映画ではない。パズルのピースが全く噛み合わないイメージがある」と解説する。

 

清原監督の作品に対し、佐々木さんは「細かい要素やストーリー全体に関わること等、様々なところで謎が潜んでいることが多い。謎は全て回収されないことが多く、実現したいことをやったら答えのないパズルになったことがおもしろい」と印象を持つ。今作においては「各シーンに絵の力があり、物語の魅力がある。特殊な構造はあくまで作品への入り口に過ぎない。その先は豊かなアイデアを導入しており、最初は地味があるかもしれないが、強い力を持っている映画だ」と捉え「確信的な作品として多くの人に観てもらうべきだ」と太鼓判を押す。

 

映画をつくるにあたって、清原監督は「まず第一に謎が好き」であり、意識的に謎を散りばめている。わからない状態に魅力を感じ「わからないことが入り口になって考え始められることが大事。自分が生きていく上で世の中はわからないことだらけ。それをわかりたい気持ちで映画を撮っている」と明かす。わからないことがないことは不自然であると考え「自分の人生に対して思っているように、映画もわからないことがあってもいいんじゃないか」と提案。佐々木さんは「ある意味では、映画を作った監督本人が気づいていないような答えが観客から生産されていくことが重要。膨大な答えの可能性に対してどのように開かれていくか。そんな作品が生き残っていく」と期待する。

 

映画『わたしたちの家』は、大阪・十三の第七藝術劇場で3月10日(土)から3月23日(金)まで公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

Popular Posts