1950年代のメキシコシティに暮らす孤独なアメリカ人駐在員が、ミステリアスな青年に恋をする『クィア/QUEER』がいよいよ劇場公開!

©2024 The Apartment S.r.l., FremantleMedia North America, Inc., Frenesy Film Company S.r.l./©Yannis Drakoulidis
1950年代のメキシコシティを舞台に、米国人元駐在員が美しい青年にのめり込んでいく様を描く『クィア/QUEER』が5月2日(金)より全国の劇場で公開される。
映画『クィア/QUEER』…
1950年代、メキシコシティ。退屈な日々を酒や薬でやり過ごしていたアメリカ人駐在員ウィリアム・リーは、美しくミステリアスな青年ユージーン・アラートンと出会い、ひと目で恋に落ちる。渇ききっていたリーの心はユージーンを渇望し、ユージーンもそれに気まぐれに応えるが、求めれば求めるほどリーの孤独は募っていく。やがてリーはユージーンと一緒に人生を変える体験をしようと、彼を幻想的な南米の旅に誘い出すが…
本作は、『君の名前で僕を呼んで』『ボーンズ アンド オール』のルカ・グァダニーノ監督が『007』シリーズのダニエル・クレイグを主演に迎え、1950年代アメリカのビート・ジェネレーションを代表する作家ウィリアム・S・バロウズの自伝的小説を映画化。自分を保てないほど一途に相手を求める主人公リーをクレイグが新たな魅力で演じきり、2024年の第96回ナショナル・ボード・オブ・レビューにて主演男優賞を受賞。テレビドラマ「アウターバンクス」のドリュー・スターキーがユージーンを繊細に演じ、『アステロイド・シティ』のジェイソン・シュワルツマン、『ファントム・スレッド』のレスリー・マンビルが共演。2024年の第81回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。
©2024 The Apartment S.r.l., FremantleMedia North America, Inc., Frenesy Film Company S.r.l./©Yannis Drakoulidis
映画『クィア/QUEER』は、5月2日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田の大阪ステーションシティシネマや難波のなんばパークスシネマ、京都・三条のMOVIX京都、兵庫・神戸のシネ・リーブル神戸や尼崎のMOVIXあまがさき、奈良・橿原のユナイテッド・シネマ橿原で公開。

QUEERという言葉は、最近では、LGBTQのQとして、ノンバイナリーからパンセクシャルまでを含んでいる流動的な性を示すことばである。だが、本作の原作を書いたウィリアム・S・バロウズが用いた頃では、もともと、”奇妙な、おかしな”という意味があり、それが転じて男性同性愛者を意味する隠語、あるいは差別語であった。それゆえに、原作小説が日本で最初に出版された時のタイトルは『おかま』。今なら、出版できなかっただろう。
ウィリアム・S・バロウズは、ビート・ジェネレーションを代表する作家の1人。最盛期にはジャック・ケルアックやアレン・ギンズバーグらと共に支持を受けたが、2人とは違い、ニュー・ウェーブSFの星と評価された。『クィア』の後には、デヴィッド・クローネンバーグ監督がオリジナル作品として製作した『裸のランチ』を書くことを考えると本作の意外なストーリーテリングには納得である。『クィア』では、バロウズの自伝的小説であり、メキシコのバーで若者をナンパする元ジャンキーなおじさんであることを体現していた。今回、ルカ・グァダニーノ監督が手掛け、ダニエル・クレイグがバロウズに寄せた振る舞いを見せることで、クィアとして見事に演じている。ミステリアスな青年に惹かれ、情事を重ねていく展開は、ルカ・グァダニーノならではのセンスが伴った美しさがあるが、その先は、欲望を求めて物理的にも精神的にも奥地へと引き摺り込まれていく。最終的には、予想だにしていないような展開が待ち受けており、驚かされるばかり。そして、『裸のランチ』にも繋がるのだから、興味深い世界観がある作品である。
なお、本作の劇伴は、『ボーンズ アンド オール』『チャレンジャーズ』に続いてトレント・レズナーとアッティカス・ロスが手掛けており、ロマンティックなテイストが漂っていた。特に、エンドクレジットで流れる最後の楽曲「Vaster Than Empires」は、監督が敬愛するブラジルのカエタノ・ヴェローゾがトレント・レズナーと共演したもので、バロウズが亡くなる3日前に書かれた日記にある最後の文章から引用した歌詞をベースにして作られており、愛に満ちている。
また、それだけでなく、ビート文学を体現するが如く、ニルヴァーナの「Come As You Are」が、本作の2人が出会うシーンで用いられており、格好良さが伴った美しきメロディに痺れてしまう。
さらには、本作冒頭は、シネイド・オコナーによるニルヴァーナのカバー「All Apologies」で始まっており、既に亡くなっている方々が活躍した時期は違えど、同じ時代を生きたからこそ故につながっていることを気づかさせてくれる。監督が音楽にもどれだけ愛情を込めて製作しているか存分に伝わってきた。インテリジェンスな笑いと共に喪失感も漂わせるバロウズの小説を映画化し、音楽が存分に寄り添っている本作の世界観を是非とも劇場で堪能してみてはいかがでしょうか。

- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!