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共演者とは、お話の中の関係性を大事に…『美晴に傘を』升毅さんと渋谷悠監督を迎え舞台挨拶付き先行上映会開催!

2025年1月13日

喧嘩別れした息子の葬儀に出席しなかった父親が、四十九日前に訪れた息子の妻と娘に戸惑いながら亡き息子へ思いを馳せる姿を描く『美晴に傘を』が1月24日(金)より全国の劇場で公開される。1月13日(月・祝)には、大阪・心斎橋のkino cinéma心斎橋に升毅さんと渋谷悠監督を迎え舞台挨拶付き先行上映会が開催された。

 

映画『美晴に傘を』は、自然豊かな北海道の小さな町を舞台に、家族の再生の物語をつづったヒューマンドラマ。北海道で暮らす漁師の善次は、ケンカ別れしてから一度も会っていない息子の光雄をがんで亡くしてしまう。東京で執り行われた葬儀にも出席しないまま四十九日を迎えようとしていたある日、光雄の妻である透子が娘の美晴と凛を連れて訪ねてくる。突然の訪問に戸惑い上手く接することができない善次だったが、彼女たちを通して亡き息子に思いを馳せていく。自閉症で聴覚過敏を持つ美晴を守るのに必死な透子と、守られてきた世界から外に踏み出したいと願いながらも、不安を感じると夢の中に逃げ込んでしまう美晴。小さな町の人々とも交流するなかで、3人は自分自身の内なる声に耳を傾けはじめる。息子を亡くした漁師の善次役で升毅さんが主演を務め、息子の妻である透子を田中美里さん、自閉症の孫娘である美晴を日髙麻鈴さんが演じた。劇団牧羊犬を主宰し、短編映画で国内外から高く評価されてきた渋谷悠さんの長編初監督作である。

 

 

上映後に升毅さんと渋谷悠監督が登壇。貴重な世界初上映の機会に和やかな空気が伝わってくる舞台挨拶が繰り広げられた。

 

最初の上映を大阪のお客さんに観て頂けることに、升さんは「めっちゃ嬉しいですよ」と喜んでいる。北海道で撮影された本作だが「私的には、心のふるさとでもあり、第二のふるさとでもある大阪なのは本当に嬉しい」と話し、早朝からのキャンペーンを楽しんでいるようだ。演じた漁師の善次という役柄について「俳優人生50年目にして2回目の漁師役なんです。かつては何人かで船で沖に出て網漁をする漁師の役を演じた。実際は、漁をしている画はほとんどなく荷揚げと荷降ろしだけだった。今回はウニ漁で演じさせてもらった」と述べ「実際の撮影は、一昨年の9月に本編全てを北海道の余市で撮った。ウニ漁は7月が最盛期、僕だけ先に7月に行って数分間のレクチャーを受けてすぐに海に出た。上手に撮って編集して頂いているが、船を操縦できるわけがないので、どんどん潮に流されて浅瀬に行ってガリガリっと…すると、遠くの船から監督らが”そっちじゃない、そっちじゃない、戻って、戻って”って…勝手なことを言うなよ、できへんちゅうねん…!」と振り返り、大変だった様子が伝わってくる。当時について、渋谷監督も「それなのに、画にこだわっちゃって…山と空が映ってほしいなぁ、と思うので、画角を調整したいから”船を戻せないか”と言っちゃうんですよね。操縦しているのは升さんであって”これは暗礁する、暗礁する…!”とか言いながらやっていました」と思い返していた。

 

善次、というおじいちゃん役を演じ、升さんは「一皮むけば、あんなもんですから」とほんわかと話しながらも、素朴な雰囲気を醸し出す演技について「料理もろくに出来ない善次さん。マルシンハンバーグにマヨネーズをかける人なので。でも、子供が小さい時に作っている。本来なら、玉子焼きとおにぎりを別々に…だけど一緒にして食べさせていた。子供心にあぁいうシーンになっていた」と説く。ハンバーグとマヨネーズという組み合わせについて、渋谷監督は「整音の段階で、マヨネーズの音は実際より2倍に増やしている。最後とつなげるために整音さんに大きくしてもらっている」と解説。元々は、20年前に舞台向けに英語で書いた脚本で「当時通っていた大学院で詩の修士号を取っていた頃、文学コンテストがありグランプリを取った。いつか、これは何かの形にしようと思っていた。フロッピーディスクにデータを保存し、そこからパソコンを買い替える毎にデータを移し替えて、日本語になり、キャラクターが増えたり消したり、名前を変えたりしながらこういう形になった」と説明した。

 

 

北海道の余市で撮影された本作。一昨年の7月1日だけ、9月に14日間(1日は撮休)で行われた。余市について、升さんは「初めてで、ニッカウヰスキーぐらいしか知識がなく。プロデューサー大川(祥吾)さんが余市出身、余市で映画を撮りたかった。事前に余市について伺ったが”何もないところですよ”と言われた」と明かすが「実際に行ってみたら、とんでもない。何でもある。海も山も自然もある、全てある。全て美味しいですから、全く印象が違いましたね」と気に入った。撮影自体を楽しむタイプであり「如何に時間がなかろうとも、楽しまないで帰る手はない、と思うタイプなので。地元の方が全面協力して頂いた。地元の店に何日か通っている間に打ち上げ候補となり足繁く通った」と満喫しただようだ。渋谷監督にとっては15年もの友人である大川プロデューサーの故郷で撮る意義が重要で「そこ(余市)で僕の初めての長編映画を撮れる、という個人的なストーリーに意味があった。それを通して、大川さんの知り合いの空き家を借りることが出来たり、傘を飛ばすためのクレーン車を持ってきてもらったり。ホームタウンだからこその人の力を貸してくれた」と語った。

 

共演者とのアプローチについて、升さんは「僕は、お話の中の関係性を大事にする。透子と美晴の距離感があるのを失いたくなかったので、プライベートで盛り上がるほど喋らないようにしています」と言及し「田中美里さんとは、年齢の距離と共演経験による距離、(日髙)麻鈴ちゃんとは初めて、孫ほど歳が離れているので、現場で少しづつ接点が生まれるのを活かしていました」と思い返す。二郎を演じた阿南健治さんに関しては「阿南さんが関わってくる関係性ですね。普段でも、こっちから一生懸命に関わらなくても、勝手に関わってくる。無茶苦茶せっかちで」と話すと、渋谷監督も「まだ何も言っていないのに、”OK!そっちね”とかって…という人でしたね。2日目、3日目で阿南さんの真似が流行るぐらい影響力があった。人生で初めて”オーマイガ!”を本当に言う方でしたね。日常会話で言わないですよね、しかも日本語の発音で」とエピソードを重ねていく。とはいえ、升さんは「そこそこの御歳ですよ。でも、あの脚力です。僕の軽四トラックに追いつこうとする勢いで走るんですよ。早過ぎるでしょ」と驚く一面もあった。

 

 

ここで、お客さんからの質問に応えるコーナーに。四十九日における服装について聞かれ、升さんは「善次だったら、息子が託したものだと聞かされたら、逆に、息子に対する違和感、今までの空白以外で別のわだかまり…なぜ息子はそんなことを言ったんだろう、と考えるかな」と一考。渋谷監督も「あの時系列、あの時点で聞かされたなら、きっとモヤモヤとかイライラする。おにぎり以降のタイミングで聞いていたら、違った感情や反応を示しているのかな」と呼応する。本作の構想について聞かれ、渋谷監督は「10年ぐらい前に読んだ『どんぐりの家』という、障がい者の子供を持った親達が重度知的障がい者の人達が働ける施設を作っていくお話の中で、”自分の子供よりも1日でもいいから長く生きたい”と言っていた。非常に切ない気持ちと美しい思いに深く感動した。同時に、仙厓義梵の”この世の最も幸せなことは、人が生まれた順に死ぬことだ”という言葉があり、この二つが一つの作品の中にあったら、強いメッセージになるんじゃないか、と思ったのが10年前。ようやくここで届けることが出来た」と話す。また、お酒を呑むシーンについて聞かれ、升さんは「本物でもいいですけどね、という空気はあったけど、基本的には絶対にそれはありえない。その代わり、終わってからいっぱい吞みました」と告白。そこで、渋谷監督は「その後、使っていた一升瓶をお世話になった人にお礼としてスタッフがプレゼントした。しばらくしてから、人を集めて開けたそうです…誰に謝ったらいいのか分からない…」といったエピソードも明かした。

 

最後に、渋谷監督は「此処で産声を上げた作品だと思っております。その産声をもっと大きな声にして頂けるのは皆さんの感想だと心から思っています。伝えられなかった想いを伝える作品なので、思ったことを伝えて頂けると…」と感謝の思いを伝えていく。升さんは「これまでの経験上、皆さんの口コミがとても力になります。我々も出来る限り様々な場所に行って御挨拶して回ろうと思っています。一緒にこの映画を育てていって頂けたら本当に嬉しいです」と思いを込め、舞台挨拶を締め括った。

 

映画『美晴に傘を』は、1月24日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・心斎橋のkino cinéma心斎橋、京都・烏丸の京都シネマ、神戸・三宮のOSシネマズミント神戸等で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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