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イエスの方舟について否定も肯定もせず、全てにおいて必ず余白を作っている…『方舟にのって ~イエスの方舟45年目の真実~』佐井大紀監督に聞く!

2024年9月17日

報道機関が世間に流布した団体であるイエスの方舟の印象と、彼女達の共同生活の実態を追ったドキュメンタリー『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』が9月14日(土)より関西の劇場でも公開。今回、佐井大紀監督にインタビューを行った。

 

映画『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』は、かつてカルト教団としてマスコミからバッシングを受けた謎の集団であるイエスの方舟の真実に迫ったドキュメンタリー。1980年、東京都国分寺市から10人の女性が姿を消したという報道がなされた。女性達を連れ去ったとされるイエスの方舟を主宰した千石剛賢は、美しく若い女性を次々と入信させてハーレムを形成していると報じられ、世間を騒然とさせた。2年2ヶ月にわたる逃避行の末、千石は不起訴となり事件は一応の収束を迎える。しかし彼女達の共同生活は、45年経った現在も続いていた。TBSに残されていた当時の貴重なフィルムと新たな取材を通して、メディアによって作られてきたパブリックイメージとは全く異なるイエスの方舟の女性達の生き方を映し出す。『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』等のドキュメンタリー映画で知られる、TBSドラマ制作部所属の佐井大紀さんが監督を務めた。

 

「TBSドキュメンタリー映画祭 2023」で上映された監督作『カリスマ ~国葬・拳銃・宗教~』について、イエスの方舟に関するセクションについては良い評判があり、佐井監督自身も手応えを感じていた。取材を深めていく中で「『カリスマ ~国葬・拳銃・宗教~』で出しきれなかった部分の映像を出したい。イエスの方舟は、1本の作品の中で少し触れるだけでは伝えられない団体だな」と実感し「もっと彼女達について知りたい」と次第に思うようになっていく。彼女達が営む「シオンの娘」で食事をする機会を重ねた後に取材の依頼をしており「あなた達とは人間関係も出来上がったし良いわよ」と承諾を得ている。これまでも新聞等の活字メディアによる取材は受けていたが、映像を伴ったことは少なく「会員が集まる集会の現場にカメラが入ったことは初めて。撮影許可を頂けたことが大きい。彼女達の信仰の真髄であり、他にはないパワーやムードがありますね。これは信頼関係を築けたからこそ実現できた」と手応えがあった。

 

とはいえ、取材にあたり「彼女達が聞かれたくないようなことについて伺うことはしないようにしよう」が佐井監督のスタンスだ。『カリスマ ~国葬・拳銃・宗教~』でのインタビュー取材では、決まった質問を投げかけていったが「皆の答えが一緒だった。もしかしたら、質問にはこのように答えよう、と事前に合議している可能性もゼロじゃないな」と感じた。「それなら、一緒にご飯を食べながら、これってこうなんですか、と世間話のように聞きながら、本質をあぶり出していこう」と二度目の取材からシフトチェンジしていき「これなら、より一層にナチュラルに聞きたいことを引き出せる」と確信。今は亡き千石剛賢とのエピソードも聞けるようになり「態度を軟化させた方が僕も尋ねやすかった。彼女達は相当嫌な思いをしているので、ズケズケと入り込まれたくない、という気持ちがすごく強かったですね」と振り返る。

 

通常の取材とは異なるスタンスであったため、同時進行で進めていった編集作業が大変になっていった。基本的には、世間話をしているだけであり「構成を組んで聞きたいことを引き出せるように作り込んでいくことにドキュメンタリーのおもしろさがありますが、僕はあえてそれを排してみたんですよね」と打ち明ける。「普通に一体化してみたら、どういうことが起きるんだろうか」といった期待もあり「それによって、今作には不思議な時間が流れていった」と冷静に捉えていた。編集作業を進めていく中で、深堀りしたいことがあれば電話取材で補っており「やはり電話の方がよく喋って頂ける。カメラが向いてないことは大きく、顔も名前もお互いに知っている立場であるからこそ、どのような人間であるか分かった上で話してくれるわけですよね。個々人の家庭環境やこれまで或いは現在の気持ちまで深く入り込めた」と話し、解像度を上げて取材を深められている。イエスの方舟について否定も肯定もしない、という姿勢で編集しており「100%肯定できるか、といえば出来ない。でも、否定はしない」と説く。「宗教の問題、家族も含めた社会学の問題、報道のあり方に関する問題、女性の自立に関わる問題といった4つの多面的で多層的なものについて、カルトといった1つの切り口で取り上げることは誠実なのか」と考えており「それを求めているお客さんにとっては分からない作品になっている。それは視野を狭めたあなたが決めにかかっているからだろう、と思う。リトマス試験紙のような作品になればいいな、と思っている。最終的に気になることがあるなら俺に言ってこい」と編集作業を幾度も重ねたからこその姿勢がある。

 

完成した本作を観た方々からの反応について「あくまでも聖書の勉強会をしている集団だと見ている人もいる。勉強会等の様子を見てカルトだと感じる人もいる。アンケート活動を見て勧誘だと感じる人もいる。観る人の角度によっても様々」だと受けとめていた。「全てにおいて必ず余白を作るようにしました」と明かし「宗教専門家でもある大学教授は、原理的なキリスト教の形だと仰いました。鈴木エイトさんは、カルト性のないカルトだと仰っていました。宮台真司さんは、社会学的な存在だと言う。金平茂紀さんは、ジャーナリズムの欺瞞が生んだものだと言う。見る人によって答えが変わるように作りました」と述べる。監督自身は様々なコメントを受けとめ「確かにそうかもしれない」と思っており「自分が携わった作品によって様々なことを教えてもらい、監督冥利に尽きる。僕が作った映像が育ってくれていることを嬉しい」といった感覚があり、豊かな時間になっていた。

 

普段はTVドラマの仕事に携わっている佐井さんとしては「取捨選択の連続によってクリエイティブなものが出来上がる。限られた予算と時間の中で何を優先すべきか」と十分に検討した上で制作しており、だからこそ締め切りを定めた上で完成させている。その中で否応なしに表れてくるものを個性として捉えており「自身を客観視して向き合った上で差し引きしていくことが、モノ作りをする人がやらなければならないことだ」と指摘した。だが、本当に満足できる作品が出来上がった時にある達成感は未だに一度もないようだ。しかし、今回はオーソドックスなスタイルで制作しており「情報はしっかりと伝えたい。でも、自分が実現したい演出は貫き通した。やりたいことは曲げなかった」と振り返る。自らの作家性については「人に言われて気づくこと。自分がおもしろいと思うモノを純粋に作り、人に評価されることが一番豊かだ」と考えており「僕の場合、様々なコンテンツを制作してきた中で、自分の実存に対する不安が好きでありテーマだと最近ようやく分かってきた。それが自身の個性や作家性かもしれない」と思うようになった。

 

今後、芸術に携わる方を取り上げたドキュメンタリーを手掛けたい気持ちがあるが「様々な権利関係への対応、そして、携わる様々な仕事との兼ね合いもあり大変ではある。まずはTVドラマ制作を頑張らなきゃいけない」と本音も漏らす。だが、TBSに入社したことでふれられる過去のアーカイブスを以て還元することで「嘗ての自分のような人達が映画館で鑑賞して思い出になるような作品に一生懸命に取り組みたい」と意気込んでいる。なお、『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』がヒットしたタイミングで、『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』の企画書を出しており「TBSが会社としてアーカイブを活かした社会派作品を積極的に取り組んでいく気運と僕が手掛けたいと思っているモノが組み合わさっただけなんです」と冷静な姿勢は変わらない。

 

映画『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』は、関西では大阪・十三の第七藝術劇場で公開中。また、9月27日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都でも公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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