自分の居場所がいつか見つかる、と信じて怯むことなく映像制作の道を進んでください…『かがみの孤城』原恵一監督を迎え大阪芸術大学でトークイベント開催!
部屋に閉じこもっていた中学生が部屋の鏡に吸い込まれ、おとぎ話のような世界へ向かう『かがみの孤城』が12月23日(金)より全国の劇場で公開される。12月13日(火)には、大阪芸術大学にて試写会を実施し、原恵一監督を迎えトークイベントが開催された。
映画『かがみの孤城』は、直木賞作家である辻村深月さんのベストセラー小説を、『河童のクゥと夏休み』『カラフル』の原恵一さんが監督を務めて劇場アニメ化した作品。中学生のこころは学校に居場所をなくし、部屋に閉じこもる日々を送っていた。そんなある日、部屋の鏡が突如として光を放ち始める。鏡の中に吸い込まれるように入っていくと、そこにはおとぎ話に出てくる城のような建物と、6人の見知らぬ中学生がいた。そこへ狼のお面をかぶった少女「オオカミさま」が姿を現し、ここにいる7人は選ばれた存在であること、そして城のどこかに秘密の鍵が1つだけ隠されており、見つけた者はどんな願いでもかなえてもらえると話す。若手女優の登竜門として知られる「カルピスウォーター」のCMキャラクターに起用されるなど注目を集める當真あみさんが、オーディションで1000人以上の中から主人公こころの声優に選ばれた。『百日紅 Miss HOKUSAI』等でも原監督と組んだ丸尾みほさんが脚本、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』のA-1 Picturesがアニメーション制作を担当している。
上映後、原恵一監督が登壇。イベント前日の12月12日は、小津安二郎監督の誕生日であり命日であり「今年は生誕120年。60年前に60歳で亡くなった監督。監督の作品は今も日本国内の若い観客、外国の若い観客に観られ続けている、尊敬され続けている」と述べ、学生に向けて「60年前の映画が未だに輝き続けている。映画はそれだけ素晴らしいものなんだ」とメッセージを送った。
小説を映画化するにあたり「読者を裏切らないものにしたい」と考えており、今作の主人公に準え「僕なんか居場所なんてなかったよ。求めちゃ駄目。居場所なんて無くて当たり前だから。居場所がない、と悩むなんて止めた方がいいですよ」とアドバイス。キャスティングにあたっては「キャラクターが発する声として、どれぐらい自然かどうか。一番シンプルな判断基準になる」と説き「最初から、中学一年生のこころ、という少女に近い年齢の子に演じてもらうことが第一の絶対条件」だと考えた。こころを担った當真さんはアフレコ当時では高校一年生だったが「大変な演技をしてもらったが、彼女は見事に乗り越えた」と受けとめており「アフレコしながら感動することはないが、當真さんのアフレコに関しては、クライマックスでの演技でテイクを重ね、ヒロインになっていく姿が感動的でした」と振り返る。また、アフレコを全て終えて収録ブースに入り、彼女の涙を目の当たりにして感動的だった。なお、7人の子供達について、少女から大人まで年齢の幅があるキャスティングとなっており「アキ役の吉柳咲良は18歳ですが、演技が凄かったですね。怖いぐらい上手い」と感服しており「一番大変な状況に置かれている役だったので、かなり難しい役だと思っていた。でも、見事にやりきってくれましたね」と讃えている。
ここで、学生からの質問を受けることに。アニメ化することについて聞かれ「裏切らない、と共に、お得感も感じてもらいたい。原作には出て来ない要素やビジュアルは映画オリジナル」と挙げ「文章を映像していくのが正しい映画化だとは思わない。物語を豊かにするためには映像ならではの発想を必要」と応える。監督の長いキャリアにおけるお客さんの変化について聞かれ「お客さんが映画を観て想像しなくなっている」と感じており「わざと曖昧にしているシーンについて、『曖昧で分からない』『良くない』と印象を持つお客さんが増えている」と危惧していた。翻って「作り手や出資者も意識して、物凄く丁寧に分かりやすく、疑問を持たない作品づくりをし始めている」と鑑み、断固反対の意思を示し「映画は分からなくて当たり前。持ち帰ってちゃんと考える。鑑賞後は友達と解釈の違いを言い合いする。それが健全な映画の見方だ」と考えている。「かがみの孤城」を映画化したことについて聞かれ「今回の映画化にあたり躊躇いがあった。以前『カラフル』という中学生の自殺を描いたアニメーション映画を作ったので、似てしまうかな」と心配があったが、プロダクション・アイジーの石川光久さんからも背中を押されことも大きく、現在は「やってよかった」とホッとしている。
最後に、映像制作を志す学生達に向けて「全員の夢が叶うことはないです」と現実を示しながらも「だけど、誰かの夢は叶う、ホント。何が違うか、を考えた方が良い。僕は、諦めないことが大事、だと思う」と伝えていく。そして「人を感動させることを仕事にしたいんだったら、苦労は当たり前なんだよ。若い時は修行だから、大変なことは絶対ある。皆が真剣にやっている。先輩達は同じような辛い経験をして自分の居場所がいつか見つかる。それを信じて怯むことなく映像制作の道を進んでください」と思いを込め「もしかしたら何処かで皆さんの誰かと仕事で会うことがあると思います」とエールを送った。
映画『かがみの孤城』は、12月23日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田の大阪ステーションシティシネマや梅田ブルク7、心斎橋のイオンシネマシアタス心斎橋、難波のなんばパークスシネマ、京都・二条のTOHOシネマズ二条や三条のMOVIX京都や七条のT・ジョイ京都、兵庫・西宮のTOHOシネマズ西宮OSや神戸・三宮のkino cinema 神戸国際等で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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