映画をきっかけに”もっと知りたい、もっと調べたい”という気持ちになるのが大切…『牛久』トーマス・アッシュ監督に聞く!
国外退去を命じられた外国人を強制的に収容している、東日本入国管理センターに迫ったドキュメンタリー『牛久』が大阪の劇場でも4月2日(土)から公開。今回、トーマス・アッシュ監督にインタビューを行った。
映画『牛久』は、茨城県牛久市にある東日本入国管理センターに収容された人々の証言を通し、日本の入管収容所の実態を捉えたドキュメンタリー。在留資格がない人や更新が認められず国外退去を命じられた外国人を「不法滞在者」として強制的に収容するため、全国に17カ所設けられている入国管理施設。そのひとつである東日本入国管理センターには、紛争などにより出身国に帰ることができず難民申請をしている人も多いが、彼らの声が施設の外に届けられる機会はほとんどない。日本でドキュメンタリー作品を撮り続けてきたアメリカ出身のトーマス・アッシュ監督が、施設の厳しい規制をくぐり抜け、当事者たちの了解を得て、面会室で驚きの実情を訴える9人の証言を隠し撮りの手法を用いて記録。長期の強制収容や非人間的な扱いで精神や肉体を蝕まれ、日本という国への信頼や希望を失っていく人々の姿を映し出す。
現在、日本における難民認定率は、2020年をみると、わずか1.2%と非常に少ない。では、なぜ彼等は日本にやってくるのか。トーマス・アッシュ監督はその事情について「彼等は、日本を選んでいるわけではない。紛争地帯では冷静に国を選ぶ余裕はなく、入国可能な国に向かうしかないんです。」と話した。監督が東日本入国管理センターに行くきっかけは、通っている教会の友人と共にボランティアとして面会活動をしたことだったという。入管の面会室でアクリル板の向こうから、病気になっても病院に行かせてもらえないと訴える声を聞き、またハンガーストライキをして痩せていく姿を見て「目の前にいる人が死んでしまうかもしれない。何かあったときのために証拠を残しておかなければならない」という使命感を抱き、カメラで撮り始めたという。
映画の中には、収容されている方が「制圧」を受けた映像も含まれている。「こうした映像は、ご本人が入管で受けた暴力について裁判をおこした際に 入管側に開示請求をし、提出されたものです。この映像について、公開するかどうかは、ご本人の意思によります。強制送還されそうになった時のスクリーンショットも、映画の中で紹介していますが、多くの方に伝えてほしいという、ご本人の希望があり公開しました。監督はこう語る一方で、自身の撮影について「収容されている方々が、入管の現状について伝えたいことを話している姿しか撮っていません。映画を観た人にとって、一番衝撃的な映像は入管側が撮った映像だと思います。」と話す。なお、施設内での録音・録画禁止という内部規定はあるが、「入管施設は刑務所でもなければ、彼等は犯罪者でもない。本来は語る自由があるはず。入管側に隠したいことがなければ、録音・録画禁止というルールは存在するはずがない」と訴える。
映画のなかで9人の苗字や国籍、難民申請の理由などは特に触れていない。この点について、監督は「難民かどうか、私達には決められないと思います。難民認定については高度に専門的な調査、判断が必要だと思います」と述べる。「私は、入管への長期収容により収容された方々が精神的にも肉体的にも追い詰められている現状について、多くの方々に知っていただきたいと思いました。映画をきっかけにして、”もっと知りたい、もっと調べたい”と様々なニュースを見たり、シンポジウムや勉強会に参加したりするなど、関心を持ってほしいという。「こういうことがあるよ」と誰かに伝えるなど、たとえ小さな事でも、行動が広がれば、と語る。
すでに海外14ヶ国で上映した本作であるが、日本での劇場公開にあたっては「隠し撮り」について批判的な意見も少なくなかったという。しかし、映画上映後、観客からは「隠し撮りについて心配したが、どうしてここまでやらないといけないか分かった」という意見、「文章だけではわからなかった実情が、映画を観ることで自分の目で確かめられた。映像の力を感じた」「自分達に今、何が出来るのか、」といった声を聞く。監督は続ける。「収容された経験を持つ人々から『日本人はこの問題について何も知らないだけ』という言葉を何度も聞きました。この問題について「知った」人たちは、「知らなかった」時には戻れなくなると思います。この問題を知ったことにより、身近な人権問題、制度について考え、違いを認め合う豊かな社会になってほしいと思います」
- キネ坊主
- 映画ライター
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- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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