Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

  • facebook

2人の人間が向き合わざるを得ない時間は豊かで映画的だ…『ナギダイアリー』深田晃司監督に聞く!

2026年9月24日

平田オリザさんの戯曲『東京ノート』に着想を得て、岡山県奈義町をモデルにした町であるナギを舞台に、別れた夫の姉のもとで、彫刻のモデルを務める建築家の女性の心の変化を描く『ナギダイアリー』が9月25日(金)より全国の劇場で公開。今回、深田晃司監督にインタビューを行った。

 

映画『ナギダイアリー』は、『淵に立つ』『恋愛裁判』などの深田晃司監督が、松たか子さんを主演に迎えて撮りあげた人間ドラマ。第39回岸田國士戯曲賞を受賞した平田オリザさんの代表作「東京ノート」に着想を得て、深田監督自らオリジナル脚本を執筆。「東京ノート」の精神を受け継ぎつつ、岡山県奈義町をモデルにした”ナギ”を舞台に新たな物語を描き、企画の立ち上げから10年の歳月をかけて完成させた。自然豊かな町であるナギで、ひとり創作に打ち込む彫刻家の寄子。ある日、東京と台湾で建築家として活躍する友梨が数日間の休暇をとり、別れた夫の姉である寄子のもとを訪れる。若くして妻を亡くした寄子の幼なじみである好浩、息子の春樹とその親友である圭太など、人々との出会いは穏やかな日常に小さな揺らぎをもたらしていく。友梨は寄子の彫刻のモデルを毎晩つとめるなかで彼女の知られざる喪失に触れ、友梨自身にも変化が起こりはじめる。深田監督とは初タッグとなる松たか子さんが、癒えない喪失を抱えながら彫刻制作に没頭する寄子という複雑なキャラクターを体現。寄子の彫刻のモデルをつとめる友梨を石橋静河さん、寄子の幼なじみで役場に勤める好浩を松山ケンイチさんが演じる。2026年の第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された。

 

平田オリザさんの戯曲「東京ノート」に着想を得た本作。東京の美術館で地方出身の四兄弟が集まる物語だ。四兄弟の中で、長女は地元の広島で趣味の絵描きを嗜みながら親の介護をしており、東京で仕事や家庭がある妹や弟達が年に一度集まることから始まるストーリーが織り成されている。作中では、長女と弟の妻、つまり義理の妹との関係性が描かれているが、離婚することを告げられ、この2人が他人同士となって別れてしまうことを予感させる展開で終えてしまう。深田監督は、今作で「東京ノート」にオマージュを捧げ「義理の妹が離婚した後も、2人が会い続けたらどうなるだろう」と想像し、精神的な続編として作り上げた。

 

2016年8月、奈義町の「教育・文化のまちづくり監」として、文化や教育を軸とした地方創生やまちづくりに深く関わっていた平田オリザさんから、『東京ノート』の映画化を提案され、初めて奈義町を訪れた深田監督。「ここで映画を撮ろう」と決めたが、脚本はほぼ白紙の状態だった。そこで、奈義町に3年かけて10ヶ月間滞在し、サポートを受けながら、取材をしたりロケハンに回ったりしていく中で脚本を書き続けていくことに。奈義町の方々は最初からポジティブであたたかく迎えてもらった。奈義町は、元々自衛隊に協力していた町であり「自衛隊員の方は、基本的に外から来る人達であり、またどこかに赴任していく人達でもあるので、外部から人がやって来ることに慣れている。そして、演習日は、朝から夕方まで砲弾の音が鳴っており、各家庭には防災無線ラジオから朝と晩に情報が流れている」と驚かざるを得ない。それらの描写は、劇中に漏らさず取り入れている。とはいえ、自衛隊に関する施設は日本の各地にあるので「奈義町だけに起こる出来事として捉えたくなかった。架空の町”ナギ”として描いている」と説明する。なお、奈義町には、電車の線路が通っておらず、そこだけは別の町にある無人駅をお借りして撮影したようだ。

 

彫刻家を主人公に据えた本作。当初は「直感的なストーリーとして、芸術家とモデルが向き合う映画にしたい。その中で、2人の女性による関係性を描けないかな」と検討していた。画家とモデルが向き合うだけで4時間もある、ジャック・リヴェット監督の『美しき諍い女』があり「2人の人間が向き合わざるを得ないシチュエーションやその時間は豊かで映画的だな」と好んでおり「画家とモデルを描いたことはあった。今回は、別の様子を描いた作品にしたいな、と思い、彫刻家が直感的に浮かんだ。結果的に、この直感はおもしろかったな」と振り返る。主人公の寄子は、東京の美大を卒業し、地元で芸術家として活動していることについて「彫刻は、都会では携わりにくいお仕事。ナギでは、木も入手できるので、絵空事にならず、説得力を持っている」と解説。また、彫刻は、物語を進めていく中で作品の姿が変化していくこともあり、劇中の作品を全て手掛けた吉田愛美さんと話していく中で「スケッチから入り、粘土で模型を作り、ようやく彫刻に入る。そんなに手間暇かけるのか」と驚愕し「自分なら粘土模型が出来た時点で満足し、作品として発表したくなってしまう。それは、あくまで途中過程。次第に変化してく様子は、人間関係の変化とも結びついていくようであり、結果として、すごくいい直感だった」と振り返る。とはいえ、完成に至るまではいくつものストーリーを捨てたり、当初の内容とは全く違ったエピソードもあったりしており「『恋愛裁判』で描いたアイドル業界と同じように、自分にとってはアウェイの場所。東京生まれ東京育ちの自分にとって、地方での暮らしはなかなか分からない。取材を重ねながら作っていくので、時間を要しました」と明かす。

 

キャスティングにあたり「主人公の寄子を演じるのは誰がいいか」とプロデューサーやキャスティング・ディレクターとディスカッションしていく中で「やっぱり、松さんだよね。松さんにお願いしよう」と意見が一致。「今作では、都会と田舎の対比が描かれていく。都会は、移動手段が沢山あり、映画館を含め、文化施設も沢山ある。一方、奈義町には映画館がないし、鉄道の線路もないし、選択肢が多くない。選択肢の量だけなら、都会が自由で、地方は不自由である、といえる。だけど、そんなに単純ではない。都会ならではの息苦しさがあり、地方独特の自由さがある。結局、それぞれに両面の特性がある」と考えており「都会の人間が地方を描く時、多少なりとも、地方のネガティブな一面を描きがちになってしまう。それはステレタイプで持っているイメージでしかない。松さんは、そこを打ち破ってくれるだろう、と期待感があった。都会の人間がステレオタイプとして考える田舎の人間を上手に崩してくれそうだ、と思った」と述べ、最適なキャスティングだと感じている。また、春樹と圭太のオーディションの最中には「この映画を観てみたい」と思った瞬間があった。川口和空さん藤原聖さんがオーディションに参加し最終選考まで残り、2人に演じてもらっている。劇中の後半で、2人が並ぶシーンを演じてもらった時に「ホントに感動し、早くこの映画を観たい、作りたい、と思った。自分の中では、凄く興奮した瞬間だった。制作前の段階で、あの2人は役に合っていた」と思い返し「ああいう2人を選べることが、オーディションの醍醐味だな」と実感している。そして、奈義町での撮影にあたり、人口が6千人にも満たない中で80人弱の方々による有志が実行委員として集い、小道具探しからロケ地探し、エキストラとして参加していただいたり、毎日あたたかい食事をつくっていただいたりしており「考えられる限り最高のサポートを受けながら映画を作ることができた」と感謝するばかりだ。

 

編集段階となり、深田監督作品ではお馴染みのシルビー・ラジェさんとフランスで取り組んでいる。最初に監督自身で組み上げた後に、ディスカッションしながら仕上げており「友梨と寄子の関係性がすごくおもしろい」と言ってもらえた。「セクシャルマイノリティであるキャラクターが登場する時、それらに特化した描かれ方や社会問題が取り入れられることが多い。だが、当たり前のように登場人物の1人として日常が示されることは、新しい描き方」だと喜んでもらい「友梨と寄子を軸に据えてフォーカスし、その周りに男性達が存在している、といった編集が行われた」と実感している。クイアに関する表現については「様々な描き方があるからこそ、正解がない」と思っており、当たり前のようにそこにいる、といったアプローチを心掛けた。そこで「誰にでも悩みや葛藤があり、それらが映画の中で表象され、背景にも描かれていく。寄子というキャラクターには、クイアだからこその葛藤はもちろんあるが、だからといってそれだけを背負って物語の中に選ばれたわけではない。だからこそ、難しさを要する」と熟考。あくまで「LGBTQ+は、思想ではなく、存在」と提言し「存在するから、当然のようにカメラには映り込むべき。今まで映り込んでこなかったことが不自然であったはずだから、まずは映り込むこと。映画の中で登場することがずっと当たり前に続いていくと、何故このキャラクターはクイアなのか、といった質問自体が意味をなさなくなる瞬間が訪れるかもしれない」と考えている。一方で「好浩の控えめなキャラクターは、フランス人のスタッフにとって、馴染みがない人物像だった」そうだが、だからこそ深田監督は「そもそも、私は好浩と似ている。あなたたちが仕事している監督が、好浩側の人間だ」と伝えたと言う。とはいえ「好浩は、自身とは違う人物である」と認識しており「奈義町で様々な方々と話をしていく中で、奈義町で生きることを決めている人たちが相まって出来ていったキャラクターが好浩。私は、東京生まれ東京育ちの人間であり、地方に生きる覚悟を、今までは軽く見積もっていた。今はどこにだって行くことが出来るし、東京で働きたいなら働けばいい。だが、そんな風に簡単にいえない事情が地方にはあるんだな、と感じた。それらを象徴するキャラクターが好浩であり、だからこそ彼は東京で働く友梨と出会えるとは思ってもいなかった」と解説する。

 

完成した作品へのカンヌ国際映画祭での反応は興味深く「クイアに関する描き方は、静かな時間の中で、ドラマチックでもない。センセーショナルでもない形で、クイア表現や表象が使われることに対して、非常に前向きに受けとめてくれる方が多かった」と振り返る。一方で「私は日本人のコミュニケーションを等身大に描きたい、と思っている。あくまでも、それはフィクショナルであり、虚構化された等身大でもある」と思っており「前々から薄々感じてはいたけど、ヨーロッパの人達にはときには薄味に感じるらしい。彼等からすれば感情表現の乏しい淡々とした芝居にも見えるようだけど…そこが良いじゃないか、と思うし、海外の嗜好に合わせて分かりやすくチューニングし過ぎるのも映画の多様性を損なってしまう。どこまで伝えるか、どこから手放すか、毎回せめぎ合いながら作っています」と真摯に語ってもらった。

 

映画『ナギダイアリー』は、9月25日(金)より全国の劇場で公開。関西では、9月25日(金)大阪・梅田の大阪ステーションシティシネマや難波のなんばパークスシネマ、京都・三条のMOVIX京都や烏丸の京都シネマ、神戸・三宮のkino cinema 神戸国際等、10月10日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開。また、神戸・元町の元町映画館でも近日公開予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

Popular Posts