奈義町の9日間の記憶を家まで持ち帰って思い出していただけたら…『ナギダイアリー』松たか子さんと深田晃司監督を迎え大阪先行上映会開催!
平田オリザさんの戯曲『東京ノート』に着想を得て、岡山県奈義町をモデルにした町であるナギを舞台に、別れた夫の姉のもとで、彫刻のモデルを務める建築家の女性の心の変化を描く『ナギダイアリー』が9月25日(金)より全国の劇場で公開。9月18日(金)には、大阪・難波のなんばパークスシネマに松たか子さんと深田晃司監督を迎え、大阪先行上映会が開催された。
映画『ナギダイアリー』は、『淵に立つ』『恋愛裁判』などの深田晃司監督が、松たか子さんを主演に迎えて撮りあげた人間ドラマ。第39回岸田國士戯曲賞を受賞した平田オリザさんの代表作「東京ノート」に着想を得て、深田監督自らオリジナル脚本を執筆。「東京ノート」の精神を受け継ぎつつ、岡山県奈義町をモデルにした”ナギ”を舞台に新たな物語を描き、企画の立ち上げから10年の歳月をかけて完成させた。自然豊かな町であるナギで、ひとり創作に打ち込む彫刻家の寄子。ある日、東京と台湾で建築家として活躍する友梨が数日間の休暇をとり、別れた夫の姉である寄子のもとを訪れる。若くして妻を亡くした寄子の幼なじみである好浩、息子の春樹とその親友である圭太など、人々との出会いは穏やかな日常に小さな揺らぎをもたらしていく。友梨は寄子の彫刻のモデルを毎晩つとめるなかで彼女の知られざる喪失に触れ、友梨自身にも変化が起こりはじめる。深田監督とは初タッグとなる松たか子さんが、癒えない喪失を抱えながら彫刻制作に没頭する寄子という複雑なキャラクターを体現。寄子の彫刻のモデルをつとめる友梨を石橋静河さん、寄子の幼なじみで役場に勤める好浩を松山ケンイチさんが演じる。2026年の第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された。
今回、上映後に松たか子さんと深田晃司監督が登壇。2016年8月に本作の企画が始まり、足掛け10年でようやく公開となった本作への思いが伝わってくる舞台挨拶が繰り広げられた。
岡山県奈義町で撮影された本作。松さんは「このお話をこの場所で全部撮り切ることができたのは、とても幸せなことでした」と思い返すと共に「滞在していた場所は、私は静河ちゃんとお隣さんで、スープを多めに作ったら隣の人に渡しに行き、ご飯を多めに炊いたら分け合い、日々を生き抜くための助け合いをしながら過ごしたのはとてもいい思い出だな」と思い出していた。現地では自炊もしていたが「現地の方が、毎日美味しい炊き出しを準備してくださった。でも、食べきれない時は、お米を持ち帰って違うものにアレンジしよう、とか。自分に必要なものはどのくらいだろう、と考え探りながら過ごすのはとても楽しかったです。それを静河ちゃんと助け合いながら過ごしていました」と懐かしんだ。現地の方とも沢山ふれあっており「どんな映画になるのか、も想像できないのに、何故こんなに親切にしてもらえるんだろうって思うので、早く奈義町の皆さんにも観ていただきたいな」と願っていた。
10年前から何度も奈義町を訪れていた深田監督。今作の撮影中でも様々な場所を発見しており「奈義町で一番好きだったのが…車の免許を持ってないので、自転車でいつも移動していて、自転車で移動している大人はほとんどいないんだけど…だから、すごい目立って、大体いつも自転車で走り回ってる人、みたいな感じで、町の人に認識してもらっていたんですけど…」と明かしながら「町の中心に役場があるんですけど、その役場の前の道から南に畑の道があるんですね。田んぼの中を通る畦道があるんですけど、そこが本当に絶妙な下り坂になっているんですね。だから、そこで自転車に乗ると、一切漕がずに、かなりの距離で畑の道を走ることができて…あれは本当気持ちいいです」とお気に入りのエリアを語っていく。その経験は作品にも反映されており「生活をしているんですけど、映画を作るためにいるので、あちこちに行ったんですね。この『ナギダイヤリー』という映画には町の人たちも、こんなところあったんだ、といった道も沢山映っているんじゃないか」と受けとめ、奈義町での上映を楽しみにしている。

寄子を演じるにあたり、松さんは「寄子がどういう人か、を前面に押し出すのも何か違う気がする。かといって関係ないよ、と演じるのも乱暴だな、とは思っていた。ただ、静河ちゃん演じる友梨という女性は、様々に思うところあってナギを訪れた。そういう彼女を、こっちにおいで、という風にはしたくないな、と思って彼女を眺めていました」と振り返り「個人的には、出来上がった『ナギダイアリー』を最初に観た時、ヘラヘラしすぎたんじゃないかな…寄子、大丈夫ですかね、と何人かの方に聞いた気がします。ただ、友梨さんが、寄子さんずるい、と言い表してくれるおかげで、自分でも、ずるいな、と思ったり、ヘラヘラしていても生きてはいける、と思ってもらえたらいいな、とか。ちょっと都合よく考えて、成立してくれるかな、と思いながら演じていました」と自身を納得させていた。とはいえ「結局は、自分のイメージだけでは成り立たないんだな」といういったことも学びとして受けとめていたようだ。そんな松さんをオファーしたことについて、深田監督は「ヘラヘラしすぎたんじゃないか、とありましたけど、自分は、そこがとてもいい、と思っていて…寄子というキャラクターは、解釈によっては重いキャラクターにもなってしまう。或る種の孤独を抱えながら生きている。孤独を感じやすい立場で生きている。或いは、様々な痛みを抱えながら生きているだろう。松さんが演じてくだされば、過度に重かったり痛々しかったりする人物じゃなく、非常にフラットに生活を楽しんでいる人間として演じてもらえるんじゃないかな」と期待し「期待以上に本当にいい按排で演じてくださったな」と安堵している。
作中の台詞にちなみ、他人の評価とは全く関係なく、私はこれが好きなのよ、と言えるものについて、深田監督は「奈義町に滞在していた時、1日をのんびり過ごしている時間が凄くあったんですけど、一番よく利用していたのが、いちご、という喫茶店。ご夫婦で経営されている小さな喫茶店なんですけど、ご夫婦の近しい友達がメインの常連客である喫茶店なんです。いつも通って、ずっと脚本を書いている。コーヒーを2時間毎に注文していた。そんなに注文しなくていいよ、と言われながらも注文していたんです。程よくほぉっておいてもらえて、Wi-Fiもないので延々と脚本を読んだり、音楽をイヤフォンで聞いたりする時間はすごい幸せだったな」と話す。松さんは、洋裁について挙げ「いろんな生地を観察して見つけたり、端切れを買ったりしている時間は至福の時間。誰にも邪魔されない。新しい生地を見つけるのも好きですし、カットクロスとか手軽に買えるイイものを見つけると幸せです。そこから形にするまでは大変なんですが、これで何を作ろう、と考え妄想を膨らましている時間は、ささやかですけど、とても幸せな時間」と語った。

そして、思い入れがあるシーンについて、松さんは「中学生の少年が2人出ている。(川口)和空君、(藤原)聖君。今も成長しているので、その時の輝きが映っているのが、この映画でもあるんですね」と挙げ「言葉とか色々な台詞はあるんですが、2人が戸惑っているように見えない、堂々とそれぞれの役を演じている姿は、完成した映画を観て印象深かったです。どれだけそれが貴重なんだろう、と一緒に仕事をして思った。2人が戸惑っているようで、もしかしたら堂々と写っているかもしれない。2人の様子は、去年の春だけを切り取った素晴らしい季節だったんじゃないかな」と感慨深げだ。深田監督は、好きなシーンが沢山ある中で「バラライカ(という楽器)を、地元のミュージシャンの方に演奏してもらっているんですけど、ピアノとバラライカのシーンで、松さんと石橋さんの様々な姿が描かれてくるんですけど、そこで山菜を揚げて料理して食べているシーンがあって、2人の雰囲気がすごく良い」と挙げ「映画を作る時、自分はいつも、脚本に書かれている役をそのままトレースするように演じてほしい、とは思っていない。演じている俳優さん達の個性や関係性が表れるといいな、と思っている。そういった意味では、この映画に入る前から、松さんと石橋さんは前にも共演されたことがあって、いい関係性を作っているんだな、と感じていた。2人の関係性の良さも映っている気がしていて、とても好きなシーンです」と語った。
最後に、深田監督は「自分は、いつも映画を作る時、何を一番大事にしているか、と言ったら、観終わった後に余韻がどれだけ長く続くか、をとても大事にして、そういう映画を作れたらいいな、と思っています。ぜひ、今日観た、奈義町の9日間の記憶を家まで持ち帰って思い出していただけたら、とても幸せです」と思いを届けていく。松さんは「全部正しいわけでもない、全部間違っているわけでもない人達が出てくるお話かな、と思っています。でも、どんな人でも同じ列に並べる、背中をそっと押すようなところが皆さんに伝わってくれれば嬉しいですし、奈義へ実際に行かれてみる機会があったらぜひ楽しんでいただきたいですし、想像で留めようと思ったら、それがいいと思います。皆さんの中で、皆さんの奈義を膨らませて、また、もし気が向いたら映画館に足を運んでいただけたら嬉しいです」と伝え、舞台挨拶を締め括った。
映画『ナギダイアリー』は、9月25日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田の大阪ステーションシティシネマや難波のなんばパークスシネマ、京都・三条のMOVIX京都や烏丸の京都シネマ、神戸・三宮のkino cinema 神戸国際等で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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