イランの映画監督マフマルバフ親子によるドキュメンタリー『子どもたちはもう遊ばない』『苦悩のリスト』がいよいよ関西の劇場でも公開!
©Makhmalbaf Film House
「ヴィジョン・オブ・マフマルバフ」と題して、現在の中東情勢を捉えた2本のドキュメンタリー映画『子どもたちはもう遊ばない』『苦悩のリスト』が2025年1月2日(木)より関西の劇場でも公開される。
映画『子どもたちはもう遊ばない』は、『カンダハール』『パンと植木鉢』等で知られるイランの巨匠モフセン・マフマルバフ監督が2023年のエルサレム旧市街の様子をスマートフォンで撮影し、恐怖と憎悪が極限化するパレスチナとイスラエルの人々の姿をとらえたドキュメンタリー。2023年、映画のロケハンのためにエルサレムを訪れたマフマルバフ監督は、長年続くイスラエルとパレスチナの紛争の解決の糸口を探るため、街角にたたずむアラブ系の老人やアラブ系ティーンのダンスグループ、ユダヤ系の若者など、さまざまな人たちに出会っていく。2023年10月のハマス襲撃後の緊張感が漂うエルサレム旧市街をさまよいながら、分断の象徴であるエルサレムの重層的な複雑さを確かな構成力で描き、紛争の根源とかすかな希望を浮かびあがらせていく。
映画『苦悩のリスト』は、2021年、タリバン復権が迫ったアフガニスタンからアーティストや映画関係者を救おうとする有志の活動を追ったドキュメンタリー。イランの巨匠モフセン・マフマルバフ監督の次女で「ハナのアフガンノート」などの監督作で知られるハナ・マフマルバフが全編スマートフォンで撮影し、救援にあたるマフマルバフ・ファミリーが限られた時間のなかで膨大なリストからの“選別”を迫られる姿を映しだす。2021年5月、アフガニスタンからアメリカ軍が撤退したことによってタリバンが侵攻を再開し、空港は国外脱出しようとする市民でパニックに陥った。7月には、アフガニスタンのほぼ全土を掌握したタリバンによる迫害や処刑など、生命の危機に直面したアーティストや映画関係者のための救援グループが発足。モフセン・マフマルバフ監督とそのファミリーも約800人のリストをもとに各所への呼びかけをおこなっていくが、やがてリストから人数を絞らなければならないという苦渋の選択を迫られてしまう。
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「ヴィジョン・オブ・マフマルバフ」は、関西では、2025年1月2日(木)より大阪・十三の第七藝術劇場、1月3日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、2月8日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。
現在の中東で起こっていることの本質を捉えるが如く、スマートフォンを以てリアリティを映し出す2作のドキュメンタリー。『子どもたちはもう遊ばない』は、エルサレム旧市街で遊ぶ子どもたちの姿を映し出しているけれども、異様な緊張感がカメラの向こう側に存在していることを逃さない。純粋な戯れの傍から聞こえてくるのは銃声の音。突如として始まったかのような市街戦が繰り広げられ、これが日常だと気づかされることの異常さにハッとせざるを得ない。その傍らには、冷静に現状を話し出すアラブ系の老人。何も気にせず家の中で過ごすことが一番に安全だ…と容易には考えられない非日常な日々がエルサレム旧市街に流れている。そして、『苦悩のリスト』では、アフガニスタンからアメリカ軍が撤退したことによって、どれほどの危険な状態となっていたか映し出していく。息を潜めていたかのように思われていたかもしれないタリバンが動き出し、文化芸術関係者までもが狙われてしまった。その人数は多く、他国に亡命しようとしても容易ではない。現代版「シンドラーのリスト」と表現するには烏滸がましい程に線引きしなければならない状況下で1人でも多くの人々を救う為に国と交渉する姿を映し出す。現実で起こっていることのいたたまれなさに言葉を発することが出来ない心境に至ってしまう。だかこそ、作品として世界に伝えることの意義が十二分にあると確信できる作品である。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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