自閉症の少年がサッカーの推しチームを決めるため、父親とドイツ中のスタジアムを巡る週末旅を描く『ぼくとパパ、約束の週末』がいよいよ劇場公開!
©2023 WIEDEMANN & BERG FILM GMBH / SEVENPICTURES FILM GMBH
サッカー好きな祖父母と暮らす自閉症の息子が、学校で好きなチームを聞かれたことをきっかけに、父親とドイツ中のスタジアムを巡る『ぼくとパパ、約束の週末』が11月15日(金)より全国の劇場で公開される。
映画『ぼくとパパ、約束の週末』は、自分の好きなサッカーチームを決めるため、ドイツ国内のスタジアムを巡る自閉症の少年とその父親の旅を実話に基づいて描いたヒューマンドラマ。幼い頃に自閉症と診断された10歳のジェイソンは、生活に独自のルーティンとルールがあり、それが守られないとパニックを起こしてしまう。ある日、クラスメイトから好きなサッカーチームを聞かれるも答えることができなかった彼は、ドイツ国内の56チームを全て自分の目で見てから好きなチームを決めたいと家族に話す。父ミルコは息子の夢をかなえるべく、ドイツ中のスタジアムを一緒に巡ることを約束し、多忙な仕事の合間を縫って週末ごとに旅をしていく。
本作では、父ミルコ役に『100日間のシンプルライフ』のフロリアン・ダービト・フィッツ、『5パーセントの奇跡 嘘から始まる素敵な人生』のマルク・ローテムントが監督を務めた。本国ドイツでは100万人を動員するヒットとなっている。
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映画『ぼくとパパ、約束の週末』は、11月15日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田の大阪ステーションシティシネマや難波のなんばパークスシネマ、京都・三条のMOVIX京都、神戸・三宮のkino cinema 神戸国際で公開。
「サッカーは子どもを大人にし、大人を紳士にする」–これは日本サッカーの礎を築いたデッドマール・クラマー氏の言葉であるが、まさにそんな映画だった。
幼い頃に自閉スペクトラム症と診断された10歳のジェイソンは、ある日のクラスメイトとの会話の中で推しのサッカークラブがないことに気付き、ドイツの1部~3部リーグに所属する56のプロサッカークラブを実際に現地で観戦して好きなクラブを決めたいと家族に告げる。そして父親のミルコは息子の希望を叶えるべく、週末をドイツ中のサッカースタジアムを息子と巡る旅に充てることを約束する。
作劇の起承転結で言う“起”をテキスト化するとこのようになる。これを読むと「息子のためにひと肌脱ぐ良いお父さんとのほのぼのムービー」のように思われるが、実際の感触はやや異なる。スタジアムを巡り推しチームを見つけるというジェイソンの内在的動機は些細なやり取りの結果であるが、そこには学校側が突き付けてきた条約のような取り決めが背景にある(自閉症スペクトラム症の子供が普通教育を受ける機会の困難さがそこにはある)。これに限らず、ジェイソンと彼を取り巻く地域社会の中の悪意なき無理解と、それが引き起こす彼の中でのクライシスを冒頭からしっかり描くところに本作の誠実なスタンスが窺える。また、父親ミルコが“いい父親”かと言われると、そうでもない。かといって悪い父親というわけでもない。何が言いたいかというと、この時点でのミルコは仕事にかまけてジェイソンと重ねた時間も少なく、本当の意味で「父親」になれていない(この辺りの人物ニュアンスは是枝裕和監督『そして父になる』を連想していただければ)。
閑話休題。そんなこんなでジェイソンとミルコの週末サッカー旅が始まる。移動の手段は主に鉄道。彼らが住むデュッセルドルフを基点に、ドイツの東西南北に点在するスタジアムを目指し移動する描写は、映画の持つツーリズム的な魅力を十二分に宿す本作の大きな魅力の一つである。驚くべきは、作中のロケーションが全て本物のスタジアムを使って撮影されているというところ。客席に大挙している現地サポーターが選手入場に合わせクラブアンセムを合唱する。そこからスタジアム全体に生まれる一体感と熱狂。全てがジェイソンにとっては“ルール外”のことでその度に彼は身体に電気が走るような強い違和を感じるのだが、それらを懸命に咀嚼し、自らのルール(世界)を拡張していくような姿にはグッとこみ上げてくるものがあった。併せて試合映像も実際のものが挿入されており、スポーツが持つ公益性を重んじるドイツサッカー協会の懐の深さが窺えて感心する次第である(たぶんイングランドやスペインならこんな気前よくいかなかっただろうな、と欧州サッカーを少なからず知る者としては思ったり)。
父ミルコに話を移すと、旅を通して初めて息子と一対一で向き合うことになったわけで、当然最初から上手くいくわけもない。家庭の中でずっと前から息子と対峙してきた妻の大変さ、時には仕事を方便に家族から逃避していたかもしれない自分に思い至り、ミルコももまた内面の変化を遂げていく。「父親」というものは子どもが生まれた瞬間すぐになれるものではなく、どこかでわが子と文字通り膝を突き合わせ、学び成長することが必要であるという真理はここでも有効に作用する。旅の中でいくつもの葛藤と失敗を重ねたミルコが至ったジェイソンへの理解像を語るシーンは、非常に実感のこもった大事なシーンであるのでお見逃しなく。
斯様に本作は実話を基に、共通の目的(スタジアム巡り)を通し時間を重ねることで、それぞれ関係性を成長させていく息子と父親を丁寧に描いている。しかし、本作の射程はそれだけに留まらず、当事者だけでなく彼らを取り巻く社会に対してのメッセージも内包している。困難を抱えた一組の親子のハートフルストーリーとして鑑賞するのは一向に構わないが、そもそもの「困難」に対して、我々が出来ることはもっとあるのではないか。自閉症スペクトラム症とその家族への理解が深まると同時に、我々がやるべきことを自覚させてくれる機会ともなった。
fromhachi
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!