Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

  • facebook

十五代 沈壽官さんの心に届けば、映画は観客の心に届く…『ちゃわんやのはなし —四百年の旅人—』松倉大夏監督に聞く!

2024年6月13日

豊臣秀吉の朝鮮出兵で諸大名が連れ帰った朝鮮人陶工たちをルーツにした、窯元たちのアイデンティティや伝統継承への思いが語られる『ちゃわんやのはなし —四百年の旅人—』が6月15日(土)より関西の劇場で公開される。今回、松倉大夏監督にインタビューを行った。

 

映画『ちゃわんやのはなし —四百年の旅人—』は、朝鮮をルーツに持つ薩摩焼の名跡である沈壽官家の420年以上にわたる歴史を背景に、日本と韓国における陶芸文化の発展と継承の道のりをひも解いたドキュメンタリー。1598年、豊臣秀吉の2度目の朝鮮出兵の際、多くの朝鮮人技術者たちが西日本の各藩に連れてこられた。それ以降、朝鮮をルーツに持つ薩摩焼、萩焼、上野焼などの陶工たちは、数々の苦難を乗り越えながら、その技術と伝統を現代に至るまで受け継いできた。薩摩焼の十五代 沈壽官さん、萩焼の十五代 坂倉新兵衛さん、上野焼の十二代 渡仁さんといった陶工たちをはじめ、関係者や専門家などへのインタビューを通して、日本と韓国の陶芸文化の交わりの歴史を見つめ直し、伝統の継承とは何かを浮き彫りにしていく。『フラガール』等の李鳳宇さんが企画・プロデュース、フリーの助監督として吉田恵輔監督、内田英治監督、足立紳監督らの作品に携わってきた松倉大夏さんが長編初監督を務めた。俳優の小林薫さんがナレーションを担当している。

 

十五代 沈壽官さんと昔からの付き合いがあった李鳳宇さんが「いつかは映画にしよう」と模索していた。松倉監督は、現代美術家である両親に自身の子供時代に関する話を伺うセルフドキュメンタリーを撮ったことがあり、その作品を観た李さんがオファー。本作の企画を聞き「僕は伝統工芸・焼き物に関する番組を手掛けたことがあった。歴史の物語であり、親子の伝承の話である。これは僕が撮るべき作品なんじゃないか」と概要の段階から直感。その後、名品である白薩摩を生んだ人々の四百年の望郷の念を描いた、司馬遼太郎さんの短編小説「故郷忘じがたく候」を渡されて読み、十五代 沈壽官さんに映画承諾の挨拶をするため、李さんと一緒に伺うことに。とはいえ「故郷忘じがたく候」を読んだ時には難解に感じ「書かれてある十四代 沈壽官さんのルーツや祖先への思いはよく分かった。だが、これを正確に全てを理解するためには、引用している古い文献について分からないといけない。薩摩藩や歴史的な状況も詳しく知らないといけない。短編からこぼれた話も沢山あるんだろうな」と察し「この短編小説をどういうふうに解釈していくか。撮影・制作を進めていく上で大事である」と認識した。

 

初めて沈さんにお会いし、話を伺っていく中で「父である十四代への複雑な思いに心を動かされた。もうちょっと何か出来ることがあったんじゃないか」という思いと共に、仕事上での師匠とのやり方の違いによって生じた衝突が胸に響き「それを追いかけることが、この映画では肝になるんじゃないか」と着想。また、薩摩焼研究者の深港恭子さんに伺い「彼女の話がものすごくおもしろい」と驚く共に「薩摩焼きが凄く好きなんですよね。彼女の話を聞いていく中で、歴史的な奇跡が起きていたことが分かる」と興奮してしまった。「その興奮をどういう風に表現していくべきか」と考えながら撮影を進めていく。撮影前に構成を考えていたが「撮影しながら、新たな発見を取り込んだ。沈さんに話をどんどん伺ってるうちに新しい逸話が出てきた。今度はそれをまた深港さんに聞くと、新たなストーリーを聞くことができ、繋がりが分かる」と発見や驚きが続いていく。「故郷忘じがたく候」を読み解きながら、十五代 沈壽官さんの思いと深港さんによる歴史解説によって、本作におけるストーリーを作り上げていった。

 

焼き物に関する番組を手掛けたこともあり、窯入れの時期に合わせた撮影は難しいことを認識していた松倉監督。「登り窯で頻繁に行っているわけではない。年に数回ぐらいしか実施していない。窯を補修するタイミング等も含めて容易には決まらず、直前まで分からない」と振り返り「僕らは東京で準備していたので、鹿児島に行くタイミングが合わず。結局、僕1人でカメラを回すことになった」と明かす。「それまでは辻智彦さんと加藤孝信さんっていう巨匠のカメラマンにお願いしたから、安心していた。だが、自分では登り窯を撮ったことはないので、大丈夫かな」と不安になり、失敗したこともあったようだ。「最初に窯に火を入れる時にお祈りをし、神棚にお祈りをして火を入れる儀式である”火入れ式”が最初はなかなか上手くいかず、ちょっと上手く撮れなかったな」と悔しいことがありながら「1日半ずっと窯に火を入れて交代しながら火の番をしながら撮っていた。その間ほぼずっとカメラを持ちながら入っていたので、一緒に取り組んだ気分になった。自分でカメラを持って撮ることで臨場感がある映像表現を以て撮れたんじゃないかな」と納得している。

 

撮影を続けながら、定期的に素材を繋げていた松倉監督。登り窯での撮影素材は、本作の編集を担当した平野一樹さんも参加し、定期的に纏めていく。全ての素材が揃ってからは様々な構成を検討しながら3ヶ月程度をかけ、しっかり詰めていった。常にストーリーの流れを意識しており「皆で意見を出し合いながら、平野さんとプロデューサーの長岐真裕さんと一緒に撮影に行ったり来たりしていた。ある程度固まったら、李さんに見てもらい、意見をもらいながら、都度、ストーリーの流れを常に意識しながら編集していた」と思い返し「有機的な生き物のように育て上げていた感覚がある。次々に変化させながら編集していった」と話す。とはいえ、鹿児島での先行上映が2023年の年末に決まっていた。その時期に合わせて幾らでも編集作業は出来たが「何万通りも完成させる方法があるが、ずっと編集し続けるわけにはいかない」と認識している。オフライン編集を経た後は音源の整理や音楽をつける必要もあり、最終的に上映直前まで考えながら編集し、完成させた。

 

鹿児島の上映では、お客さんに意見を頂いたり、様々な話を聞かせてもらっている。着眼点が様々であり、感想も千差万別で、その内容は1人も被っておらず「この映画は多様なものを内包して描いているからだろう。それは、映画にとっては良いことなんじゃないか」と受けとめていた。東京では、韓国文化院での初お披露目となる上映会を開催している。沈さんの反応を気にしていたが「頻繁に手を顔にあてていた。暗がりで分からなかったですが、ずっと涙してたんじゃないかな」と伺っていた。製作陣としては「ドキュメンタリーを作っている上で、まずは沈さんの心に届けば、映画は観客の心に届くんじゃないかな、と思っていた。沈さんが泣いたから大丈夫、ということではないですが、沈さんの心に届いたんだな」と安堵している。

 

映画『ちゃわんやのはなし —四百年の旅人—』は、関西では、6月15日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、6月21日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都、7月6日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。また、6月21日(金)にはアップリンク京都で、6月23日(日)には第七藝術劇場で十五代 沈壽官さんを迎え舞台挨拶を開催予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

Popular Posts