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遅れてきた僕達の世代から内ゲバの時代へ向けたレクイエム…『ゲバルトの杜 〜彼は早稲田で死んだ〜』代島治彦監督に聞く!

2024年5月30日

学生運動終焉期、早稲田大学で起きたリンチ殺人事件を機にエスカレートした内ゲバの真相が語られる『ゲバルトの杜 〜彼は早稲田で死んだ〜』が5月31日(金)より関西の劇場で公開される。今回、代島治彦監督にインタビューを行った。

 

映画『ゲバルトの杜 〜彼は早稲田で死んだ〜』…

1972年、学生運動終焉期に早稲田大学で起こった学生リンチ殺害事件をきっかけに、各党派でエスカレートしていった内ゲバ。これまでほとんど語られてこなかった内ゲバの真相を、池上彰、佐藤優、内田樹ら知識人の証言と、鴻上尚史演出による短編劇を織り交ぜて立体的に描くドキュメンタリー。監督は『三里塚に生きる』『きみが死んだあとで』の代島治彦さん。
1972年11月、早稲田大学文学部キャンパスで第一文学部2年生の川口大三郎さんが殺害された。彼の死因は早大支配を狙う新左翼党派・革マル派(日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派)の凄惨なリンチによるものだった。第53回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した樋田毅さんのルポルタージュ「彼は早稲田で死んだ 大学構内リンチ殺人事件の永遠」を原案に、殺された川口大三郎さんを知る当時の関係者や池上彰さん、佐藤優さん、内田樹さんら知識人たちの証言パートと、これまでも学生運動をテーマにした演劇作品を数多く発表してきた鴻上尚史さんによる短編ドラマパートにより、内ゲバの不条理と、あの時代特有の熱量、そして悔恨に迫っていく。ドラマパートでは川口大三郎役を『ソロモンの偽証』『五億円のじんせい』の望月歩さんが演じている。

 

2004年に鴻上尚史さんが書いた小説『ヘルメットをかぶった君に会いたい』を読んだ代島さん。「鴻上さんが深夜のTVで懐メロフォークのカセット集を売る通販のバック映像に映っていた早稲田大学の革マル派女性闘士が放つ優しい笑顔で微笑んでいる姿に憧れた。何度も見ていると会いたくなった。小説を集英社の雑誌”すばる”に連載すれば、もしかしたら彼女が目に留めて連絡をくれるかもしれない、と考えて書き始めた小説」と説明し「鴻上さんは、あの時代に物凄く興味があった。あのヘルメットをかぶった君を探してたんだ」と察した。また、2021年に鴻上さんが作・演出の舞台『アカシアの雨が降る時』を鑑賞し「70代のおばあちゃんが、何らかの理由で20歳だった頃にタイムスリップする。当時、その女性は学生運動をやっていた。相模原で戦車を止める闘争の現場に行ってみるストーリーだった。鴻上さんはあの時代に凄く拘りがあるんだな」と直感。『きみが死んだあとで』を観てもらい「すごくおもしろい」と感想を受け取り、トークイベントに招いて語ってもらった。

 

『きみが死んだあとで』では、18歳で亡くなった山崎博昭さんの同級生達や学生運動の中心だった者達14人が語る青春の日々とその後の悔恨を描いていく。だが、最終的に内ゲバに関する証言は得られず。「次は内ゲバの映画を作ってください」というリクエストを頂いたが「それは無理です。当事者は証言しない。口を閉ざしている、内ゲバについて作ろうと思っても出来ません」と応えるしかなかった。だが、鴻上さんは「遅れてきた僕達の世代が、学生運動の悲しい結末である内ゲバを描かないと、当事者は内ゲバのことを絶対に語らない」と断言。「僕らの時代の責任かもしれない」と話していたら、偶然にも客席にいた樋田毅さんが「僕が書きました」と言い、著書の「彼は早稲田で死んだ 大学構内リンチ殺人事件の永遠」を贈呈してもらうことに。川口大三郎さんに関する事件について代島さんは知っていたが「内ゲバの中で、文学部の若い学生が殺された」という程度の認識だった。実際は、スパイと間違えられてリンチの末に殺され、それに怒った一般学生が革マル派を追放する運動を真剣に繰り広げるまでに至っている。その運動のリーダーとして活動した1人が樋田さんだった。著書を読み「樋田さんは被害者側の証言者だ」と分かり「もしかしたら、この本を原案にして、内ゲバによる暴力の連鎖を描いた映画ができるんじゃないか」と検討。そして「この映画には短編劇がなくては成立しない。リアリティある作品が出来上がらない」と確信し、鴻上さんに短編劇の制作を依頼し、承諾頂いた上で、映画制作に至っている。樋田さんにとっても、著書で書き切れておらず不満足な部分があったようで「それが映画で実現できるかもしれない。映画によって、より多くの人が事件や内ゲバに関心を持ってくれるかもしれない。だからこそ快諾してくれたんだ」と受けとめており、『きみが死んだあとで』を観て頂いていることもあり「証言を集め、しっかりとした映画を作ってくれる」という期待も伺えた。

 

短編劇の制作にあたり「今の若い人達が聞いても、暴力がどのように振るわれ血が流れていたか、ピンとこない。少しでも資料があればいいが、内ゲバに関しては全体像が全く何も分からない。記録映像や写真も残っていない。新聞の切り抜きデータがあるだけで、事実を追いかけることしか出来ない」という現実に直面。そこで「川口大三郎さんが殺された1日の出来事をドラマにするしかない」と決め、鴻上さんに作ってもらうことに。樋田さんが得た加害者の証言を基にした短編劇を作ることについて了解を得た上でシナリオ化に至っている。

 

多くの証言者が出演している本作。冒頭で発言する二葉幸三さんは「友達を返せ」と声を挙げた人であり、樋田さんに紹介してもらい、取材に伺った。書籍で証言している以上に様々なことを語ってもらっている。また、書籍には登場していない方も取材に伺っており、様々な持論があった方々にも出演してもらった。だが、革マル派と中核派の元活動家、内ゲバに関わりがあったと思われる方達には断られており「『きみが死んだあとで』を観たけれども、あの後の世代は誰も喋らない。絶対にカメラで撮れないから止めといた方がいい」といった反応もあったようだ。とはいえ、当時、内ゲバから狙われていた石田英敬さんに出演して頂いたことの意味は大きく「これは映画にできる」と確信。「内ゲバは全てが闇、光が1つも当たっていない。何も明らかになってない。川口大三郎事件に関しては、樋田さんによって少し光が当たった。この闇にもっと光を当てられる」と期待し「光を当てることで内ゲバについて明らかになり、少しずつ真実が見えてくる。そして皆が納得し、恐怖が消えていく。僕自身が現場に恐れを抱き怯えた人間であり、自分の怯えも解きたかった」と吐露する。

 

様々な方からの証言を撮り終え、作品の全体像をイメージして編集作業に取り掛かった。多くの撮影素材からの落としどころが見えない中で、最初のバージョンは4時間近くになってしまう。とはいえ、鴻上さんや樋田さんや短編劇に出演した若い俳優に向けて試写会を行い、貴重な意見を頂けた。改めて、不要なシーンをカットして整理し、朗読を入れながら時間を縮めていき、2022~2023年の早い段階で134分に。4~5月の段階には現在のバージョンとなり、出演者全員とスタッフ全員、信頼できる人に観てもらった。「当事者や証言者が納得しない映画は公開できない」と覚悟していたが「しっかり描いている」という承諾を頂き、劇場公開が決定。音楽を担った大友良英さんは、ノイズ系の音楽も含めて自身の持ち味を存分に発揮しており「最後に作った曲について『僕なりの内ゲバの時代への鎮魂歌です』と言った。僕と鴻上さんと大友さんの気持ちが重なって映画が終わっていく構成として出来上がった」と感慨深げだ。

 

完成した本作について、代島監督が今まで手掛けたドキュメンタリーへの反応とは違っていた。、開口一番に「凄い映画でした」「凄いものを観てしまいました」という反応が多く「鴻上さんが作った短編劇や、今までの映画になかった部分があることが大きい」と説く。若い世代の方からは「この国の歴史の中でこういう部分があったことは知りませんでした」といった驚きの声が届いている。当事者の世代は魘されていた方も多く「こういう時代に俺達がいた。こういうことだったのか。それに対して何も出来なかった。止めることもできなければ、傍観者でしかいられなかった」「見たくないものを見てしまったけども、封印してきた俺たちの世代が悪かったのかな」等の様々な思いを抱いた複雑な表情が伺え「よく作ってくれた」という方がいれば「画が辛すぎる」という方もいた。代島監督は「遅れてきた僕らの世代だから作れるんじゃないか。自分が生きた時代のポジションから当時を見ることしかできないから、全体像が見えてこない。様々な証言を撮って構成していくことで、偏りがなく思想的にも何処かに集中していない描き方ができるんじゃないか」と受けとめており「『きみが死んだあとで』を作った時も、政治的に左とか右とか全然関係ない。人間としてどう時代を見るのか、の視点で見ている。普通の人間として当時を眺めたらこう見えるんじゃないか、といった視点で証言の取り方をしてきた。今回も変わっていない」と説明する。

 

そして、本作によってパンドラの箱を開けられた、と認識しており「内ゲバの時代にいた当事者達が、自分達がどんな風に殺し合いをしたのか、死者に対してどういう思いを持っているのか、を正直に語ってほしい。内ゲバの時代全体に対して謝ってほしい、と思って今作を作った」と話す。「当事者が語り出したら、その人達を撮ることで続編を作れないか」と鴻上さんは話しているが、代島監督としては「映画の中で岡本厚さんが言っていますが、内ゲバの殺し合いをした人達の中で、封印しているけれど、自身の中で重い傷になり病んでいる部分があるはず。最後にそれらを言いたい、という助教が出てくるかもしれない。パート2はすぐに着手できない。誰かに語っておかなければいけない、と考えてくれた人が申し出てくれたらやれるかもしれない」と慎重な姿勢だ。

 

映画『ゲバルトの杜 〜彼は早稲田で死んだ〜』は、関西では、5月31日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、6月1日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場や神戸・元町の元町映画館で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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