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友達を救えなかった私は、お客様にどれだけ救われたか…『ゆるし』平田うらら監督に聞く!

2024年4月19日

新興宗教の信者の母から宗教的虐待を受けてきた娘が、祖父母に保護されたことをきっかけに洗脳が解かれていく様子を、娘・母・祖母の3世代の視点から描いていく『ゆるし』が4月20日(土)より関西の劇場で公開される。今回、平田うらら監督にインタビューを行った。

 

映画『ゆるし』は、宗教虐待の実態を娘・母・祖母の3世代の視点からリアルに描いた人間ドラマ。自身も新興宗教で洗脳された過去を持つ平田うらら監督が、ある宗教2世が残した遺書に感化されて製作を決意し、自ら監督・脚本・主演を務めて完成させた。新興宗教「光の塔」の信者である松田恵の娘・すずは、教えに反した言動をすると鞭で打たれるなどの虐待を受けてきた。ある日、学校で献金袋を盗まれたすずは、お金を借りるため祖母・紀子のもとを訪れる。虐待の事実を知った祖父母はすずを保護し、すずは祖父母から愛されて暮らすことで「世の人はサタンにそめられている」という光の塔の教えを疑い始める。しかしそれは彼女にとって、母との決別を意味していた。そんな中、すずは祖父母の話を通して、入信前の母の姿を知る。平田監督が主人公すず、「八月は逃げて走る」の安藤奈々子さんが母・恵をそれぞれ演じた。

 

監督の友人で、宗教二世の方が残した遺書に感化され制作した本作。制作を決めた時に「友人のプライバシーは絶対配慮しなきゃいけない」と一番に重視し「その子が伝えたかった思いや、宗教虐待のどの部分がその子を苦しめたのか、という本質は伝える。あくまでその子が経験したこと等は一切入れない」と配慮している。そこで、宗教2世・3世の方が実際に体験したことについて有力者紹介法を用いて取材することに。当時、安倍元首相銃撃事件が起きる前であり、「宗教2世」という言葉が社会に広く知られておらず、SNSで新興宗教の名前や”虐待”等のキーワードで検索し、1人1人にDMしていった。数は限られており、その方々の繋がりを頼りにしていく。自助団体を紹介してもらいながら広げていくことが出来たが、100人前後だった。だが、事件が起きた以降は、協力して頂ける方が圧倒的に増え「映画を作る為に聞いて回っている人がいる」と広めてもらい、沢山のDMを頂くようになり多くの取材に伺っていく。1人1人へ丁寧に対応していきたいが、時間には限界があり、10人程度に纏まってもらいながら、最終的に300名の方々から沢山の体験をお聞きした。回答内容について使用許可を頂いたものを全て作品に取り入れており「その中で、その子と宗教2世・3世の人が違う経験をしていても、元を辿れば、共通するような教義、親の虐待の本質の怖さ・辛さは共通している。そこだけは擦らさないようにリアルに描こう」と意識していく。「生まれた瞬間に教団に親を奪われ、自由を奪われ、人生を奪われてしまった」と他の虐待との違いを指摘し「親が神様を見ている時、自分を見ない。全てが神様優先になることが、宗教虐待の本質的な怖さ」だと説く。

 

立教大学現代心理学部映像身体学科で映画を学んでいた平田監督。篠崎誠監督のゼミに所属し、本作の脚本執筆では熱心に指導して頂いた。その際には「群像劇にして様々な問題を提示し過ぎるな。多くの登場人物がおり、様々な問題を1時間でやろうとしている。それは薄れてしまうから、1つに絞れ」と指摘されたことがあり「社会派を撮るので、様々な問題を伝えたい、という思いが強過ぎた」と自省している。「多角的にこの宗教虐待の問題を描きたい」と思いを秘めていたが「1時に収めるためには、篠崎先生の言う通り、キャラクターを減らしました。描く問題は少なくなるけど、より本質的になるように」と心がけた。また「どのシーンを一番拘ればいいのか」とアドバイスを受けており「他のシーンを最初の段階で撮りながら、絶対に良いシーンにしないといけないところは、一日かけてじっくり撮ることが重要」だと学んだ。

 

キャスティングにあたり、平田監督の双子の妹である平田こころさんが舞台女優として活動していた縁が大きい。幼い頃から様々な舞台を鑑賞する機会があり「舞台俳優の中から上手だと感じた方達に直接オファー、或いは、こころの経由で声をかけてもらい、オーディションに来てもらった。私の伝えたい思いを語り、演技をしてもらっていた」を振り返り、キャストはトントン拍子に決まっていった。だが、主役を演じる俳優が2度も降板する事態に至ってしまう。当時は大学4年生だった平田さんは1,2ヶ月後には卒業する時期であり就職先も決まっており「撮影後に編集作業をすることを考えると無理だ」と分かり、追い詰められてしまった。だが、悩む時間はなく「ここは、私が腹を決めるところだな」と覚悟し「私は初演技・初主演をしますけど、絶対に公開出来るレベルのクオリティにします。私が主演する、ということで進めさせてくれないか。劇場公開までするので、この覚悟を受け取ってくれないか」とプロデューサーやスポンサーに懇願。最終的に、周囲にいた良き方々のおかげで更なる出資も頂いている。

 

撮影は、スタッフ等の自宅等を中心にして実施できた。そして、学校施設での撮影には予算と様々な配慮が必要であり、容易には実施出来ない。だが、とある学校から「やはり、こういう映画を世の中に届けていかないといけないから。学校は広いから、先生が4週間連続日曜出勤するから無償で貸します」と御厚意ある提案を受け「勿論、学校としてはリスクがあるから、学校名を伏せるならOK」と条件付きで撮影させてもらえることに。撮影現場では、主演と監督の両立が必要だ。だが、監督も演技の経験もなく「演技するだけでも難しいのに、傷ついたシーンも演じないといけない」と焦燥。現場では、カメラ、音声、照明、画角など全て確認した上で「これで撮ってください」と依頼。「助監督と撮影監督がカット割りを決めてくれていた。それに対して私が更にお願いする。それら全てを確認した上で『OKです』と伝えた。その3秒後にはカメラを回してもらって演じていた」と振り返り「一瞬で泣かなきゃいけないので、大変です。3秒で気持ちを作るので、死にそうになりながらやっていました。撮影が終盤になる頃には、助監督に『用意、ハイ』と言ってもらった」と明かした。

 

だが、撮影終了後は更に多忙を極めていく。就職後は漫画編集者の仕事をしながら、休日は映画編集者と本作の編集作業をしていた。「プロとしては、劇場公開できないレベルで音が酷かった。音を全部取り換えないといけない」と判明し「どうしようかな」と困惑。そこで、映像・映画業界を調べていく中で、カンヌ国際映画祭やベルリン国際映画祭に出品される作品の音響効果・整音に携わっている株式会社ナイデルを発見し依頼することに。本作の音楽・整音・音響監修に携わってもらい「1から音を全部変えてもらいました。音楽は6曲以上を作曲し、フォーリーも加えてくれた。この会社に出会えていなかったら、この映画は公開できていなかった」と思わざるを得ない。予算が限られていたが「未来に投資する」という気持ちで携わって頂き、感謝してもしきれない思いに溢れている。全ての音が揃い完成した本作を観た時には涙が止まらず「ナイデルに映画の命を救ってもらった。完成したんだ…やっと、お客様に見せられる作品ができた」と感慨深かった。その後、公開劇場であるアップリンク吉祥寺とのやり取りをしながら、各地の劇場にプレスシートを送付して営業する日々が続き「宣伝協力の方が2人いましたけど、基本的には1人で全部やっていた。忙しさ自体が分からない程忙しかった。朝6時半に起床し8時半まで仕事し、その後に漫画編集者の仕事をして帰宅後に営業活動をしていた。劇場でチラシ配りもやっていた。撮影が終わってからはほぼ1人だったので本当に大変でした」と振り返る。

 

今年3月には、アップリンク吉祥寺での劇場公開を迎えた。鑑賞したお客様から一番多く言われるのは「リアルだな」という反応で「心をフォークで抉るくらいのリアルさ」「トラウマや心の傷を最初のシーンから全力でえぐってくるようなリアルさがある」「国会で見せられるレベルの宗教虐待の教科書のような映画だ」といったような感想を頂いている。SNSも毎日チェックしており「宗教虐待の本質的な怖さがリアルに描かれている」といったコメントを書いてもらい、反響は大きく、衆議院の山井和則さんをはじめ、3日間連続で沢山の政治家の方々にも観に来て頂いた。その中でも、3回も観に来た宗教2世の方で「スクリーンの中のすずは、私の人生だ」と仰って頂いた方だ。主人公と同じようなことを全て経験しており、その方から5頁に及ぶ御手紙を受け取り「今生きているのは様々な人のおかげなんだな、と思えた。30年越しにこんな形で救われると思わなかった」と書かれていた。監督自身、涙が止まらなくなり「私は友達を救えなかったから、印象に残っています」と感慨深い。後日、親子でも鑑賞して頂き「彼女の娘さんが号泣していた。上映後のサイン会で並びながら、ずっと泣き続けていた。『お母さんの人生だと思うと…』と言っていた。そういう人生を歩んでいる人が『30年越しに救われた』と言ってくれたことに私はどれだけ救われたか」と思いは溢れるばかりだ。

 

改めて、本作が劇場公開できた経緯について「どこの新興宗教も否定していない。取材をしたけども、本作で描く新興宗教は、教義等どこもモデルにしていない。信仰の自由は絶対に否定していない。お母さんにも地獄があることを多角的に描いている」と説き「脚本を書いている段階から気をつけました。あくまで、宗教虐待だけを描いている。どこの新興宗教をモデルにしていないのに、この映画を否定することは、その宗教が虐待を公式で認めることになる。だから、劇場に対しての誹謗中傷のしようがない。だからこそ劇場公開できた」と言及する。

 

映画『ゆるし』は、4月20日(土)より4月26日(金)まで大阪・十三のシアターセブンで公開。なお、4月20日(日)には、平田うらら監督と精神科医のDr.Nさんを迎え上映後にトークショー開催予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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