このタイトルや内容を嫌がる人達の価値観を揺らがすことが最大の目標!『うんこと死体の復権』関野吉晴監督と前田亜紀プロデューサーに聞く!
世界的に知られる探検家で医師の関野吉晴さんが初監督を務めたドキュメンタリー『うんこと死体の復権』が8月23日(金)より関西の劇場でも公開される。今回、関野吉晴監督とプロデューサーの前田亜紀さんにインタビューを行った。
映画『うんこと死体の復権』は、「グレートジャーニー」で一躍名をはせた探検家である関野吉晴さんの初監督作品。現代社会では忌避されがちな、生き物の排泄物や死体などを熱心に追い続ける人々の活動を通して、命の循環を見つめていくドキュメンタリー。アフリカで誕生した人類が南米最南端まで拡散した5万キロの足跡を、動力を使わずに逆ルートでたどる旅「グレートジャーニー」を40代ではじめ、足かけ10年をかけて踏破したことで注目を集めた探検家の関野吉晴さん。アマゾンの奥地で自然と共に生きる狩猟採集民族マチゲンガ族と半世紀以上にわたって交流をもってきた関野は、自身を含めた現代人が自然とどのように共存していくべきかを常に考えていた。そして2015年、どの星よりも循環に優れた地球で人類が生き続けるためにどうしたらいいかを考える「地球永住計画」というプロジェクトをスタートさせる。そのプロジェクトを通して関野さんは、野外排泄にこだわり続け、自ら「糞土師」と名乗る写真家の伊沢正名さん、排泄物から生き物と自然のリンクを考察する生態学者の高槻成紀さん、そして死体を食べる生き物たちを観察する絵本作家の舘野鴻さんと知り合う。彼らの活動を通して、現代社会において不潔なもの、無きものとして扱われがちな、生き物の排泄物や死体を見つめることになった関野は、無数の生き物たちが命をつなぎ、循環の輪をつないでいることを知る。
プロデューサーの大島新さんと関野吉晴さんは30年来の付き合いがあり、前田さんにも関野さんを紹介してもらった。元々、「グレートジャーニー」を観ていたこともあり、ようやくの出会いでもある。そして『カレーライスを一から作る』に監督として携わった。今回は、関野さんが自身のオリジナル企画として大島さんへの相談から始まっている。元々は、福島第一原子力発電所の炉心設計管理者に関する作品と合わせ、自然と人間との関係に関する作品として手掛けようとしたが、紆余曲折を経て、本作に絞った製作に至った。前田さんは、関野さんから「今回は撮りたい人がいる。作り手になったことがないけど、やってみたい」と聞き「関野さんは初心者のプロなんです。新しい世界に躊躇なく飛び込んでいける」と感心している。
取材に伺ったのは、伊沢正名さんと高槻成紀さんと舘野鴻さん。取材を受けることについては、三者三様の反応ながらも受け入れてもらっている。関野さんは、伊沢さんとは15年前に同様の作業で携わっており「一度終わっているけども、再び取り組んでみた。作業していると、以前と違うことが分かり、おもしろくなってきた」と盛り上がっていった。高槻さんは自身の研究について撮影されることが多くなく「地道に取り組んできた研究者なので、目立つことがなかった。でも、世の中に知ってもらいたいんだな」と察している。シデムシの生涯を絵本にしたことがある舘野さんからは躊躇されることもあったが「『俺、シデムシのことをよく分かっていなかった』と言い出し、夢中になってくれた」と安堵した。関野さんは「3人が動かなくとも、自分で取り組もう」と考えていたが「実は、監督をやってみたかった」と本音を打ち明ける。取材は約3年半にも渡っており、現場で撮影もしていた前田さんは「撮られる側は、時間が経つにつれ、意気揚々とした雰囲気がなくなっていくことが多い」と認識しているが「このお三方は全くテンションが変わらないどころか寧ろ上がっていく」と感心。そして「関野さんも、ずっと楽しくしており、飽きることがなかった」と不思議な現場として受けとめている。なお、”うんこ”を撮ることについては十分に気を遣わなければいけない、と思って現場に向かったが「見れば見る程”うんこ”が”うんこ”に見えなくなってくる。不思議だなぁ。次第にカメラが寄っていき、アップで撮っていた」と振り返りながらも「これは、大丈夫か?」と心配に。とはいえ「虫達がポジティブにやって来て、賑やかになっている。ずっと躍動感があって、おもしろいな」と気づき、撮影を楽しんだ。その様子について、関野さんは「人間は両方とも目をそらす。だけど、虫達にとって死体は、滅多にない輝く肉の塊なんですよ。だから、ルンルン気分で来ているのが分かる」と説く。
なお、自然を相手にした撮影であり、移りゆく季節の中で、時期を逃すと待たないといけないことがあり、撮影は3年半にも及んだ。編集段階となり、まずは撮影素材を全て編集の斉藤淳一さんに預けた。165時間にも及ぶ全ての素材を細かく整理してもらい、3人それぞれのストーリーを紡いでもらい、それを観ながら、何度も議論を重ねて仕上げている。前田さんは「関野さんの好奇心があるからこそ、撮りたいものがある。それをどのように映像作品にするか、を考えるのが私の役割。井沢さんや舘野さんは、数ヶ月後も追いかけることで何かが見えてくる。高槻さんの場合は、生き物の繋がりを映像化するのが難しい」と熟考。作品の時間も徐々に縮めていきながら2時間を切った頃に「一度、映画館と配給会社に見てもらおう」と決め、率直なフィードバックを受け取りながら、調整を重ね、マイルドな一作へと完成させていった。
出来上がった本作について、3人からは喜びの反応を頂くことに。前田さんは「ピクチャーロックは、3人が観てから。少しでも間違った描き方してたら駄目。ギリギリまで修正していた」と打ち明けるが「とても喜んでくれました」と安堵している。試写会においては、多くの方が駆けつけ、笑いの絶えない盛り上がりだった。既に公開された東京・東中野のポレポレ東中野では、多くのお客さんが観に来ていることに関野さん自身も驚いており「劇場から拍手が起こり、皆がニコニコして出てくるんです」と嬉しそうに話す。女性のお客さんも多いようで、前田さんは「子育てを経験している方は慣れている。意外と女性からの関心もある」と捉えている。とはいえ「本当の狙いは、”嫌だ、こんなタイトル”とか”虫とか嫌だ”という人達に来てほしいです。興味ある方達が来てくださって喜んでいたのは有難いし嬉しいです。だけど、そうじゃない人達の価値観を揺らがすことが最大の目標」と虎視眈々と今後の目標を語ってもらった。
映画『うんこと死体の復権』は、関西では、8月23日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、8月24日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場や神戸・元町の元町映画館で公開。また、11月15日(金)より兵庫・豊岡の豊岡劇場でも公開予定。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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