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心と心が通じ合うためには、じっくりゆっくりと取り組まなければいけない…『ゆるし』平田うらら監督と精神科医Dr.Nさんを迎えトークショー開催!

2024年4月20日

新興宗教の信者の母から宗教的虐待を受けてきた娘が、祖父母に保護されたことをきっかけに洗脳が解かれていく様子を、娘・母・祖母の3世代の視点から描いていく『ゆるし』が4月20日(土)より関西の劇場で公開中。初日には、大阪・十三のシアターセブンに平田うらら監督と精神科医Dr.Nさんを迎え、トークショーが開催された。

 

映画『ゆるし』は、宗教虐待の実態を娘・母・祖母の3世代の視点からリアルに描いた人間ドラマ。自身も新興宗教で洗脳された過去を持つ平田うらら監督が、ある宗教2世が残した遺書に感化されて製作を決意し、自ら監督・脚本・主演を務めて完成させた。新興宗教「光の塔」の信者である松田恵の娘・すずは、教えに反した言動をすると鞭で打たれるなどの虐待を受けてきた。ある日、学校で献金袋を盗まれたすずは、お金を借りるため祖母・紀子のもとを訪れる。虐待の事実を知った祖父母はすずを保護し、すずは祖父母から愛されて暮らすことで「世の人はサタンにそめられている」という光の塔の教えを疑い始める。しかしそれは彼女にとって、母との決別を意味していた。そんな中、すずは祖父母の話を通して、入信前の母の姿を知る。平田監督が主人公すず、「八月は逃げて走る」の安藤奈々子さんが母・恵をそれぞれ演じた。

 

上映後、まずは平田うらら監督が登壇。本作を製作するに至った経緯について「私の友人が自死した経験から撮っております。私自身は宗教1世、自ら入ってしまった人間なんです。心が弱くて入ってしまいました」と告白。「ただ、私は教団で人間関係を破壊された。”恋人と別れろ!””友達と別れろ!””世の子と別れろ”と言われて…違和感を覚えて教団に反対したんですけども…すると、教団に無視され集会に参加させて頂けない等、悲惨ないじめに遭いました。大学でも居場所が無くて友達とも縁が切れちゃって…私は苦しんでいたんです」と打ち明け「その時、親はまともな人間だったので、支えてもらって脱会することが出来ました」と報告。「そこからは、強迫症の症状が出てしまった。神様に反抗したから滅ぼされるんじゃないか、と様々な不安があったが、なんとか克服し3ヶ月間は人生を取り戻すために生きていたんです」と思い返しながらも「その3ヶ月後、教団内で私がいじめられた時に隠れて連絡を取ってくれたり支えてもらったりした友人が遺書を残して自死しました」と話す。その遺書の内容について「神様ではなく、親に自分を見てほしかった。ただ親に愛されたかった」と可能な範囲で伝え「私は何も言わないで脱会したから、居場所がなくなり、自死したんだな…と思うと、いたたまれない気持ちになりました」と吐露する。そして、その遺書の内容を伝えてくれた信者の方から「あの子の解釈だから…」とさらっと言われ「この思いは生き残った私が届けていかないと、無くなってしまう」と怒りの気持ちを頂き、初監督作品を撮るに至った。

 

 

この強い思いを以って衝動のごとく動き出しており、様々な壁にぶち当たることに。主演の俳優が二度も降板する事態となり、平田さん自身が2ヶ月後には大学卒業となるタイミングであり「全ての台詞が頭に入っており、宗教2世・3世の方300名の方に取材した私が主演をやります」と決意した。なお、今回、劇場でお客様と一緒に鑑賞したが「心のリストカットが止まらない」と未だに感情は揺さぶられるようだ。既にアップリンク吉祥寺で公開されており、一番多かった反応は「リアルだ」。リアルな当事者の声を基に作っており「この映画は1時間の長さでも辛いと思います。それが24時間、何十年も続いている人が沢山います。この現実だけは皆様に伝えたい」と真摯に話す。破滅的なラストシーンで本作は終えるが「お母さんが神様を見て、自分を見なかったから」と述べ「これが他の虐待と違う唯一無二の怖さであり、宗教虐待の本質的な苦しみだ、と300人以上に取材する中で結論付けました」と言及する。本作は、比較的低予算のインディペンデント映画ではあるが「宗教2世の方の本質的な痛みは覚えて頂きたいし、何が出来るか考えてほしい。宗教虐待は絶対に無くならない。カルトに共通する教義として”信じない者は救われない”という考え方がある」と指摘しながら「親は本気で、地獄から子供を救おうとして虐待を続ける。社会がカバーしていくしかない。皆さんが出来ることは沢山ある。理解して考えて頂きたい」とメッセージを送った。

 

 

そして、精神科医のDr.Nさんが登壇。本作を鑑賞し「主人公が気づき、正しい方向に行こうとした時、周囲にいる者が大事な台詞を言う時、光を上手に使われている」と話すと共に「私が診ている方の中で、幼い頃に厳しい教育ママの下でずっと抑え付けられて成長し辛い思いをしながら頑張っておられる方がいます。もっと早く気づけたら…仰られる方が多くいます。実際の生活では、気づきが大事」と説く。「人と人が通じ合うのは難しい。”認知の歪み”が生じることがある。考え方の癖が少しずれた程度で気づいたら、お互いに気づき合うようにした」と述べ、平田監督も呼応していく。また「心に傷を負ってしまった方は、心と心を通じ合わせる力(メンタライズ力)が育ちにくい」と説き、本作を鑑賞しながら「すずの心とお母さんの心が通じ合いにくかった。心と心が通じ合っていると思っていたものは、通じ合っているわけじゃない」と気づかされた。

 

 

そこで「虐待を繰り返さないためにはどうすればいいか」と平田監督は投げかけてみる。Dr.Nさんは「心に傷を負ってしまった方をサポートしていく時があります。長年辛い思いをしたり心が通じ合えなかった状態は、様々な毛糸が複雑に絡んでいる時に解しやすいところから取り掛かるようなもの。薬を飲んだら全てが解決するものではない。心理士の方からカウンセリングを受けたり、主治医の先生と辛い思いを共有してもらったりする。主治医の先生と合わない場合もあります」と説明し「御自身に合ったカウンセラーや主治医の先生と出会うことが一番良い。心と心を通じ合わせるには、その過程をゆっくりじっくりやり取りする。支援してくれたりサポートして下さる方と共有して、一緒に歩んでいく人を見つけるべきなのかな」と提案。平田監督は「苦しい時は殻に籠りたくなりません?」とお客様に問いかけながら「助けてくれる人は沢山いるので、精神科の先生に頼ってみてもいいんじゃないかな」と共感を表す。とはいえ、Dr.Nさんも「精神科の医者も人間なんです」と伝え「心と心が通じ合うきっかけになるタイミングを大事にしないといけない」と改めて表明していく。最後に「この問題を知ってもらうことが大事。この映画を観て様々な考えを持つ方がいることも大事。東京と大阪だけではなく、様々なところで上映して頂けたら」とメッセージを送り、トークショーは締め括られた。

 

映画『ゆるし』は、4月26日(金)まで大阪・十三のシアターセブンで公開中。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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