大人じみたテーマでメロドラマのような作品を撮りたい…『VORTEX ヴォルテックス』ギャスパー・ノエ監督を迎え舞台挨拶付き先行プレミア上映開催!
持病を抱える老夫婦の最期を描く『VORTEX ヴォルテックス』が12月8日(金)より全国の劇場で公開される。11月16(木)には、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田にギャスパー・ノエ監督を迎え、舞台挨拶付き先行プレミア上映が開催された。
映画『VORTEX ヴォルテックス』は、『アレックス』『CLIMAX クライマックス』等で知られるフランスの鬼才ギャスパー・ノエ監督が、認知症の妻と心臓病の夫が過ごす人生最期の日々を、2画面分割映像による2つの視点から同時進行で描いた作品。「病」と「死」をテーマに、誰もが目を背けたくなる現実を冷徹なまなざしで映し出す。心臓に持病を抱える映画評論家の夫と、認知症を患う元精神科医の妻。離れて暮らす息子はそんな両親のことを心配しながらも、金銭の援助を相談するため実家を訪れる。夫は日ごとに悪化していく妻の認知症に悩まされ、ついには日常生活にまで支障をきたすように。やがて、夫婦に人生最期の時が近づいてくる。ホラー映画の名匠ダリオ・アルジェントが夫役で映画初主演を果たし、『ママと娼婦』等の名優フランソワーズ・ルブランが妻、『ファイナル・セット』のアレックス・ルッツが息子を演じた。
今回、上映前にギャスパー・ノエ監督が登壇。初来阪の機会を楽しんでいることが伝わってくる舞台挨拶が繰り広げられた。
第一声は「モウカッテマッカ」でお客さんを和ませるノエ監督。今から2年前、ロックダウンの真っ最中に、本作のプロデューサーから「ロケーションが1つで完結し、役者が2,3人という制限の中で作られる作品がないか」と問われ、老いや認知症をテーマにした映画の構想があった。監督の母親が認知症を患った経験があり、脚本執筆の提案を受けることに。10頁程度の脚本を書き、ロケーションを見つけ、1ヶ月足らずでクランクインした。さらに「メロドラマのような作品を撮りたい」と希望し「暴力やSEXと言った刺激的なものではなく、大人じみたテーマで作りたかった」と話す。2020年はロックダウンとは別に体調に関する問題で家の中に引きこもっていた期間があり、溝口健二監督や木下恵介監督等の日本映画を沢山観ており、その中でも『楢山節考』からの影響を受け、本作を制作したようだ。登場人物について「若者が出ているより、老人が出演している時の方が、様々な方に共感してもらえる。なぜなら誰にでも家族にいるから」と考察しており「この映画を観終えた様々な知人から『家族のことを考えていました』という感想を聞きました」と紹介していく。
スプリットスクリーン(2画面分割)の手法を存分に取り入れている本作。脚本を書いている時には考えていなかったが、書き終わり撮影法を検討した際に「今まで活用したことはあるが、老夫婦の話で2人の生活を追っていくので、スプリットスクリーンが一番合うのではないか」と閃く。「老夫婦が同じ屋根の下に住んでいるのに、どんどん繋がりが薄れていく。その表現をするには別格」だと気づき「映画をよく観る人じゃなくても、観て直ぐにどういう感情を伝えようとしているのか分かる」と確信。2台のカメラで撮影しており「撮影しやすい場面もあり、逆に難しい場面もありました。途中で食卓を囲んで息子と孫と一緒に4人で座っている場面があり、フランソワーズが泣き出しダリオが手をとるシーンでは、画面が分割されているから微妙にずれて映っている。後に、良かった、と云われることがあった。指定があったやったわけではなく、事故的に起こったこと」と説く。スプリットスクリーン以外では「ドキュメンタリーっぽく感じた」というコメントも多くあり「撮影時は照明を使っているのではなく、全て自然光で撮っている。昼間の窓から入って来る光や夜の電灯が発している光で撮影していました」と説明すると共に「台詞は、予め決まっていたものはない。監督は状況を説明し、役者が即興で台詞を作ったり、キャラクターを演じているので、個別の練習がないから自然さがある」と解説。夫を演じているダリオ・アルジェントは映画監督であって役者ではないので「台詞を覚えることは全く出来ない」と言われたが「全て即興で、セット上でキャラクターを自身で作り上げていく。台詞を覚えられないことは気にしなくて良い」と説得している。本作を作るにあたって、お互いに『ウンベルトD』や『生きる』が好きで「役者じゃなくても、この役は出来るよ」と伝えていた。ダリオ・アルジェントの演技について「素晴らしい」と評し「ダリオに限らず、出演の3人それぞれが頭が良い。それぞれに、自分達の即興で誰が一番であるか、お互いに競いながら作っていました」と振り返る。コロナ禍中に撮影していたので、撮影チームから感染しないように緊張感が常にあったが「撮影が長引かないように2,3回しかテイクを撮らないように気を遣っていた。そもそもダリオが映画撮影では2,3テイク以上は絶対に撮らない方。もし、もう1回テイクを重ねたい、と思っていたとしても『2回目が完璧だったから、これで良いよ』と言って、それ以上は撮らせてもらえなかった」と明かす。なお、ダリオ・アルジェントが映画監督になる前は映画評論家だったこともある上に、フランスに住んでいたこともあり「フランス語も堪能であり、役を演じる上では弊害はなかったので、凄く上手く演じていました」と讃えた。また、フランソワーズ・ルブランが出演した『ママと娼婦』の大ファンであり「この役を演じるなら、彼女にぜひやってもらいたい」とオファーしている。
今回、監督からの希望で初来阪となっており「どういう所があるか知らないけど、所謂風俗街には行ってみたい」と打ち明けながらも「それ以外に、映画のポスターが物凄く好きなので、映画ポスターを売っているお店は何軒か教えてもらって、既に調べてあります。ある意味では病気のような程に映画のポスターが好きです」と楽しみなようだ。大阪を満喫する予定で「明日か明後日には大阪を舞台にした作品も出来そうだ」とワクワクしていた。なお、『エンター・ザ・ボイド』を東京で撮影した際は「本当に楽しかった。映画を撮影している人生の中で一番楽しかったんじゃないかな」と感慨深げだ。また、塚本晋也監督作品『ほかげ』で出演している趣里さんの演技を評し、興味津々。1960・1970年代の日本映画を沢山観ており「若松孝二監督作品をよく観ている。もし生きていたら起用したかった」と残念そうだ。最後に「是非、泣いてください。その為にこの映画を作ったので。出来れば楽しんでください。オオキニ」とメッセージを送り、舞台挨拶は締め括られた。
映画『VORTEX ヴォルテックス』は、12月8日(金)より全国の劇場で公開。関西では、12月8日(金)より大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や奈良のユナイテッド・シネマ橿原、12月15日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都や神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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