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あの辛い時期を共に乗り越え、これからを考える…『東京組曲2020』三島有紀子監督に聞く!

2023年6月7日

20人の役者達のコロナ禍の日常を切り取ったドキュメンタリー『東京組曲2020』が関西の劇場でも6月10日(土)より公開。今回、三島有紀子監督にインタビューを行った。

 

映画『東京組曲2020』は、『幼な子われらに生まれ』『繕い裁つ人』等の劇映画でメガホンをとってきた三島有紀子監督が初めて手がけたドキュメンタリー映画。コロナ禍で初の緊急事態宣言が発令され、人々の暮らしが一変した2020年4月。明け方にどこからか泣き声が聞こえてきたことをきっかけに、三島監督は映画の制作を思いつく。20人の役者達が各自撮影を行い、新型コロナウイルス流行の第一波の中で彼らが過ごした日常をとらえ、全ての出演者に共通して「明け方に女の泣き声がどこかから聞こえてくる」というシチュエーションを挿入。事前に録音した8分間におよぶ泣き声を役者たちがイヤホンで聞き、その時の感情の動きやリアクションを記録した。

 

コロナ禍での映画制作を思いついた三島監督は、自身のワークショップに参加した役者達に声をかけてみると、100人弱の希望者があり、その中からまずは文章で選び出した後にリモートで面談を行い20名の方々を選んでいった。「外に出て演じたり集まったりできなくなり、当時の状況下で応募くださった誰もが表現したい、と渇望していた」と振り返りながらも「渇望をそのまま利用するのは宜しくない。皆の今後の人生があるから、それを発表して良いのか、私自身も何度も考えないといけない」と十分に考慮している。プライベートが見えてしまうことになるので、ぼかすべき箇所に配慮し、適宜本人に確認していった。だが、役者たちが覚悟してプライベートも含めて曝け出したことより「自分達が2020年の春に頑張って生きようとしていたんだ、という記録を残すことが出来た。実際に表現出来て、作品になって映画館で上映してもらい、観て頂ける方がいることに対して、皆が喜んでくれた」と好評が得られていることは意義深い。

 

出演した20名の役者達から、コロナ禍での出来事や「どんな気持ちで暮らしているか」と聞いていき、ストーリーのベースにして皆に再現してもらっている箇所がある。例えば、大高洋子さんの場合、出演作の『ミセス・ノイズィ』が延期になった報せを受けた時には勿論撮れていないので、当時を再現してもらっており「再現すると当時の感情が甦ってくる。リアルな感情のまま行動してもらい、撮影は役者ではない素人の旦那さんが撮るからこそ2人の関係性はリアル」と説く。三島監督は脚本を書いていないし、セリフも決まっていないが「彼の発言に対して、彼女がどのような表情で応えるのか。そこは非常にリアル」と自信がある。また、池田良さんと田川恵美子さんの場合について「田川さんが子供に起こされてご飯を作ることの繰り返しで夜に寝るだけの生活。一方、池田さんは、リモート演劇に参加していた。これは本当の出来事」と明かし、田川さんに「1人になったら何をするのか、どうしたいのか、を撮っておいたら」と提案し、1人になった時にリアリティある姿が撮れている。逆に、大高さんの場合は、夫が話しかけることでリアルが生まれており「人によってリアルが生まれている瞬間が違う。だから虚実が入り乱れている。基本的に、起きていることや生活ぶりそして、感情はリアルに存在している」とそれぞれに合わせたリアリティを再現していた。長谷川葉月さんの場合、実際に趣味として写経をしているが「普段は、校正の仕事をしている。リモートワークとなりいつまでも働くことになり『終わりが見えない』と聞き再現してもらった」と話し、コロナ禍での切実なリアリティを体現してもらっている。

 

泣き声を担当した松本まりかさんも、三島監督のワークショップを受講したことがあり「非常に感じるものが多い。360度の情報、様々に起きていることを繊細に感じ取る人」だと受けとめていた。監督が聞いた泣き声からは様々なシチュエーションで様々な感情を想像しており「その想像力を豊かに以って、様々な方の感情を泣き声一つで表現できる人。なおかつ、地球の泣き声として聞こえるような泣き方をしてほしい、とリクエストして理解して実現してくれる人は誰だろう」と考えた時、松本まりかさんが思い浮かんだ。「彼女ならきっと理解して表現してくれるだろう」とオファーし応じて頂いた。お会いした時にもう一度泣き声について説明すると、1分程度の沈黙があったが「やってみます」と。靴を脱ぎ「這いつくばっていいいですか?」と確認され、スタッフも大地に這いつくばりながら、マイクを近づけて録音していく。実際は8分ぐらい泣いており「録音部は鳥肌が立っていた。皆さんに全部お聞かせしたかったほどです」と語っている。

 

20名の役者達による撮影素材が集まり、1本の作品にするべく編集作業にあたった。もともと作品の最後に、泣き声が聞こえてくるシーンを挿入することは決めていた。各素材を見て「1人ずつのシークエンスで何を描くのか。出演者それぞれの短編を作ることから始めました」と述べ、そうしていく中で俳優ごとのエッセンスを選んでいく。「長田真英さんは父親が医療従事者であり、自分に感染しないように隔離して生活していた。自身は医者を継がず映画で人を救えるんだ、と信じてこの道を選んだけど、葛藤をお父さんの留守番電話に延々と語るシーンがあった」と述べ「あの声をベースにして日常の生活をしている映像をつないでいこう」と編集部と話し合い取り組んでもらっている。当初、1人1人のシークエンスは30分以上あり、ここまで作り上げていくのに1ヶ月程度かかっていた。さらに別の編集部に参加してもらい「1本1本をどのように繋いでいくか。1人1人のシークエンスを削ぎ落していき、結論付けないようにして、一本通した時に誰にどんな役割を担ってもらうのか。様々な組み合わせで作ってみて、これだ、というところに辿り着こう」と何度も話し合いながら決めていき、さらに1ヶ月かけて編集している。制作者達の中で一番の衝撃を受けたカットは、映画館が閉鎖されているカットだった。東京・渋谷のミニシアターであるユーロスペースのシャッターが昼間に下りているカットを見た時には心が潰れそうになってしまう。そして、TOHOシネマズ六本木ヒルズの施設でポスターを貼っているケースに何もなくなり植物が生えているカットを見た時、再び心が潰れそうになった。だが、その映像を冒頭と中盤に置き、最後に長田さんの思いを映し出すことを決めていき、この作品の意義を自問することにした。一方で、表のテーマとして「命を感じていく流れとはどのような構成か」と熟考。そこで、最後に自分自身へのプレッシャーで押しつぶされそうになった佐々木史帆さんの映像を入れ「彼女の母親の言葉を最後にもってこよう」と決めた時に本作の構成が定まった。そしてもともと企画から考えていた群像劇のお手本である『マグノリア』の構成の形式で泣き声を聞いた時の皆のリアクションを取り入れ、仕上げられている。

 

コロナ禍に入った2020年5月当時、リモート映画が沢山公開されたが、三島監督は、この映像記録について、即時性や直ぐに見せる意味をあまり感じていなかった。俳優達に対し「何気ない日常を普通に生きている中でどのような感情が生まれるか撮ってほしい」と希望し「不要不急の外出を禁止された2020年の4月5月6月の生活を撮ることで、観てくださるお客さんのシチュエーションと近い記録を映像として残せたのは良かった」と実感。「これをあの渦中の中で観る意味があるのか。急いで編集する必要はない。そんな気持ちにもなれなかった」と振り返りながら「少しずつ落ち着きながら恐怖が薄れてきて、自分の中でコロナ禍について整理がついてきた頃、客観的に見つめて作り上げたいな」と望んでいた。ならば、記録に残し、当時の人間の営みを見てもらうタイミングは「恐怖から逃れ、かなり薄れた時期…3年程度経ってやっと振り返られるのかな。3年を目途に振り返られたらいいのかな」と見定めていく。今回、多くの方々からの協力によって記録してから3年後の春、新型コロナウイルス感染症の位置づけが「5類感染症」になるタイミングで公開となり「ありがたい。良かったな」と感慨深く「5年後や10年後に観たら、感じることが違うんだろうな。2020年の春を何度でも観て頂いて、皆さんに感じて頂けるものを聞いてみたい」と楽しみにしている。

 

完成した作品について、役者達からは、自分達の記録が1本の映画として出来上がった感動が最初に伝えられた。とはいえ「プライバシーを皆に曝け出している」ということは重々承知しており「地元に帰った佐々木史帆さんはバッシングされるかもしれない可能性がある中で覚悟を決め、自身の行動を皆に見せることで誰かの気持ちが楽になれば」と語っている。「世界中の皆がもがきながら生きてきたことを感じてもらえたら」と各々が舞台挨拶で喋っている。「わたしたちは撮影の時直接会っていないし、直接共演していない。なのに舞台挨拶では実際に会って共演していたかのような関係性が生まれているのが意外でおもしろかった。あの辛い時期を共に乗り越えた感覚があった。世界中の皆も同じ。一緒にいなくても一緒にいる感覚を生むことはあるんだということが発見だった」と興味深い。監督と役者では作品に関する感覚が異なり、三島監督は客観的に観ており「監督はプレイヤーとも違う。だけどなぜか、本作に関しては、自分が出演していないのに、同じプレイヤーのような感覚」と受けとめている。実際、コロナ禍では監督自身も同じように苦しんでもがいており「当時4月の私は、脚本を書く感覚にもなれなかった。からっぽになり、文字も読めず脚本も書けない。8月頃にようやく書き始めた」と告白した。既に劇場で鑑賞したお客さんのからは「自分達のこれからを考えるために2020年春の時の自分を見つめ直せた」「単純に当時を振り返るだけでなく、これからのことを考えるための2020年春だった」といった反応が得られている。

 

現在の三島監督は、昨年12月から今年1月にかけて撮影した長編劇映画を仕上げている最中であり「コロナ禍で自分を見つめるしかない地獄のような時間があり、これは撮っておかないといけないと思えるストーリーが思い浮かんできたので、まずはそれを撮って次に向かおうと決めた」と話す。協賛してくれる方も現れ「今作らないといけない気持ちになり、お金を集めて作りました。仕上げていく中で、コロナ禍の夜が明けていく気分になりつつある今です」と明るく語り、来年の公開を目指して取り組んでいる。

 

映画『東京組曲2020』は、関西では、6月10日(土)より大阪・十三のシアターセブンや神戸・元町の元町映画館で全回英語字幕入り上映にて公開。短編作品『IMPERIAL大阪堂島出入橋』も併映される。なお、両劇場では、6月10日(土)に三島有紀子監督、大高洋子さん、加茂美穂子さん、小松広季さん、松本晃実さん、6月11日(日)に三島有紀子監督、加茂美穂子さん、小松広季さん、松本晃実さんが登壇する舞台挨拶を開催予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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