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ロシアにとって何がメリットになるのか、ウクライナを占領して政権を変えることが現実的ではない!『ウクライナから平和を叫ぶ~ Peace to You All ~』ユライ・ムラヴェツ Jr.監督に聞く!

2022年8月30日

スロバキアの写真家が、ウクライナ側の住民と、親ロシア派地域の住民双方に取材を行ったドキュメンタリー『ウクライナから平和を叫ぶ~ Peace to You All ~』が8月26日(金)より関西の劇場でも公開。今回、ユライ・ムラヴェツ Jr.監督にインタビューを行った。

 

映画『ウクライナから平和を叫ぶ~ Peace to You All ~』は、ウクライナ紛争の背景に迫るドキュメンタリー。2013年、ウクライナで大衆デモにより親ロシア派のヤヌコービチ大統領が追放となり、親欧米派による政権が樹立。しかし、ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州では、親ロシア派の分離主義勢力とウクライナ政府の武力衝突に発展し、分離主義勢力によって2014年4月にドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の独立が宣言される。2015年4月、分離主義勢力が支配する東部のドネツクに向かったスロバキアの写真家ユライ・ムラヴェツ ・Jr.は、人びとに取材を敢行。戦場に参加した人、しなかった人、スパイと間違えられて拘束された人や、「プーチンに助けてほしい」と訴える人など、さまざまな声を拾い集めた。やがて2016年2月、入国禁止ジャーナリストとして登録されたことでドネツクへ入れなくなったムラヴェツ は、ウクライナ支配下の村や紛争の最前線マリウポリでウクライナ側の人びとへの取材を開始。ドネツク側とウクライナ側、双方の証言を集め、当時の記憶をたどることで紛争の本質や、人が戦争を繰り返す理由を問いただしていく。

 

戦争ジャーナリストとして活動しているユライ監督は、戦地での危険性は理解しており、取材に関するリスクは消防士が抱えているものと同等だと捉えている。2014年にドンバス戦争が勃発した際、カメラを持ってウクライナに向かったが、現地では戦争が起こっていることは十分に認識されており、それは、監督の住むスロバキアでも、ロシア系の強力なプロパガンダによって同じように戦況が認識されていた。「あのような状況で、どのように行動すればいいのか、現場で学んでいくしかない」と心得ており「学校で学ぶことではありませんので、情報を集めたり、目の前にある事態を認識したりして分析し自分の行動を決めていくことが大事だ」と説く。戦地での取材は、普段の取材とは異なっており「戦地となった場所で生活している人達は、ドキュメンタリストやジャーナリストが訪れると、話したい意思が強くなる傾向にある。自分達が経験した苦しい体験を話したい気持ちがあり、説得しないといけない状況ではなく、かなりオープンに話す方が多い」と住民の反応を受けとめている。ドキュメンタリストがセラピストのような役割を担う一面もあり「多くの声をかけていた中で、話したくない方も勿論いますが、カメラは撮らない形式にして、写りたい方だけにしています」と十分に気遣っている。監督自身の負担も大きいように伺えるが「自分の精神状態は良好ですし、この仕事を続けたい」と意欲的だ。「話している中で、相手の人生の中でも辛い出来事がトラウマになることもありますが、その処理は上手く出来ている」と自負があり「自分でこの仕事を選んだが、現時点では大丈夫だ。今後も続けたい」と気持ちは揺るがない。しかし、戦地で話している中で、絶望感や閉塞感、八方塞がりな状況、不公平さに触れると辛く感じる時があり「こういう仕事をしていると、現地の状況について学んでいく。プーチン大統領含め、高い地位にいる人間が、自分の興味や関心のために起こした行動によって、苦しめられるのは市民だ。高い地位にいる人間の眼中の外にあることについて関心を寄せず、些細なこととして扱われている」と怒りが湧かずにはいられない。だが、映画は物語がある芸術であり、始まりと終わりがある。「句点を付けられるようなパワフルなエピソードを探しながら、クライマックスに向かうにつれて、終わりであるという感覚が得られるか」といったことを重視して作っており、暗中模索しながらも、撮影を終えられた。

 

スロバキアでは、ドキュメンタリーでも脚本を書く方が多い傾向にある。だが、本作のようなドキュメンタリーは脚本を先に書けないので、撮影中に出会った出来事に左右されてしまう。「撮影中に思い描いた中で、どのようなストーリーラインに出来るか思い巡らしていく。現地での経験からストーリーラインが見えてくる。始まりを決めたら、ベクトルを定められた」と明かし「自分の理想やアイデアを作品に出来るか。編集時に撮影素材と向き合っていく中で決めていく」と自問自答の時間を大切にしている。撮影素材の中には、理想通りのストーリーラインを作り出せないこともあるが「編集段階で、現場では重視していなかったことに驚かされる素材を発見することがある。そこで、アイデア通りに作っていけるか向き合っていく」と熟考は欠かせない。今作の場合、編集室で最後の編集をした時に「ラストシーンを皆で観た時に、これでこの映画は終われる」と安堵できた。完成した本作は、ヨーロッパの各地で上映され、チェコ・プラハで開催されている One World Film Festival.での受賞もあり、スロバキアのTVで放送されたり、スロバキアの高校で高校生に向けて上映され、3万人程度の子供達に観てもらったりしている。フィードバックは良いものが多く、スロバキアでは一定数の応援も頂けるようになり「皆の声が原動力となった。この仕事をフルタイムで続けていく」と決意した。

 

なお、現在も続いているロシアによるウクライナ侵攻については「ここまでエスカレートして激化するとは…」と監督自身にとっても想定外の事態だ。長年、ウクライナの状況には注目し続け、これまで何度も危機的な状況に陥っていることを鑑みており「2017年にはロシアの船がウクライナの船を攻撃して船員を逮捕する事件がありました。ロシア側がウクライナを包囲するが如く軍事訓練を行うことが何度もありました」と振り返る。「ロシアにとって何がメリットになるのか見えないので理解できない」と憤り「2014年の時のようにウクライナを占領して政権を変えることが現実的ではない」と断言。戦争は違う形で8年間も継続しており「毎日のように兵士が亡くなってきたので、完全に平和ではなかった。今回の戦争に関しては、ロシアが扇動していたプロパガンダを自身で信じ込み軍事力を見誤ってしまい正気を見失ったような状態だ」と非難する。今回の侵攻が始まった2022年の2月24日、すぐに車に乗ってウクライナを向かい撮影を始めており「あれ以来、2ヶ月間をウクライナで過ごした。キエフの防衛戦も経験した。ハルキウやドンバスにも既に向かった」と明かす。8月20日からニコラエフに滞在しており「本作の続編を制作する予定。スタイルは今までと同じで、自分が写真家として旅をするロードムービーの形式で作っていく予定だ」と今後も歩みを止めない。

 

映画『ウクライナから平和を叫ぶ~ Peace to You All ~』は、関西では、8月26日(金)より大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で公開中。また、9月2日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都、9月9日(金)より神戸・三宮のシネ・リーブル神戸等で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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