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個性豊かな若き映画監督の作品が集った「ndjc2022」岡本昌也監督、成瀬都香監督、藤本楓監督、牧大我監督に聞く!

2023年3月7日

次代を担う長編映画監督の発掘と育成を目指す文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」の2022年度作品が完成し、3月17日(金)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で上映される。今回、各作品を手掛けた、岡本昌也監督、成瀬都香監督、藤本楓監督、牧大我監督にインタビューを行った。

 

文化庁委託事業「ndjc(new direction in Japanese cinema):若手映画作家育成プロジェクト」は、次代を担う優れた長編映画監督の発掘と育成を目指し、平成18年度より始まり、今年度で17年目になる人材育成事業。優れた若手映画監督を公募し、本格的な映像製作技術と作家性を磨くために必要な知識や技術を継承するためのワークショップや製作実地研修を実施すると同時に、作品発表の場を提供することで、次代を担う長編映画監督の発掘と育成を目指している。
8月に行われたワークショップから選出され、製作実地研修に進んだ4人の若手監督が、講師による脚本指導を経て、各制作プロダクションの協力のもと、プロのスタッフ・キャストと共に短編映画を制作。フレッシュな感性と第一級の確かな技術が作り上げた個性豊かな短編映画4作品が上映される。

 

映画『うつぶせのまま踊りたい』…

喫茶店で働く山田芽衣子は大人になりきれず、行き場のない思いを短歌に詠むことでつまらない日常をやり過ごしていた。そんなある日、喫茶店で山田の短歌を目にした環七子はそのポエジーに共鳴し、強引に山田を店から連れ出す。社会に適応しながらも自由を求める山田と、自らの過去に囚われつつも自由に生きる七子は、詩という共通言語を通して変化していく。山田役に『彼女はひとり』『手』の福永朱梨さん。初監督作『光の輪郭と踊るダンス』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭2021「ゆうばりホープ」に選出された岡本昌也さんがメガホンをとった。

©2023 VIPO

 

普段は演劇を手掛けており、自主制作映画を1本撮ったことがある岡本監督。自身でスマートフォンや一眼レフカメラで撮っており「まだまだ撮りたい。しっかりと勉強したい」と望んでいた中で、ndjcにはワークショップのカリキュラムもあり「映画を包括的に勉強出来る環境だ」と知り、応募した。なお、応募時には脚本を作っておく必要があったが、直前まで白紙状態。締め切り前日、彼女と街中で叫び合う喧嘩をしてしまったが、その熱量を以て締め切り当日に、詩情のごとく自身の感情の昂りをキーボードに叩き付けて書き上げてしまう。その後、プロのライターやスタッフに揉まれに揉まれ形をかけて本作の脚本を完成させた。作中では、沢山の詩が綴られており「元々、詩が大好きです。短歌の31文字の中で表現できる自由、散文詩の自由な中でしか作れない表現の差を人物に分けて作っていった。子供から大人になるあいまいな時期みたいなものを詩を使って描いてみた」と説く。

 

キャスティングにあたり、制作プロダクションであるレスパスフィルムの方々と会議をしていく中で「脚本の中で描いている人物を演じるのは容易ではなかった。感情の起伏が激しく、通常の導線では動いていないキャラクターだったので、飛躍を埋められる俳優を」と希望する。脚本上、10代の役者が演じる案もあったが「モラトリアムを描くには、俯瞰して演じられる俳優が良い」と検討していく中で、演技力に定評がある福永朱梨さんにお会いした上でオファーした。共演相手の日下七海さんは、岡本監督が所属する劇団「安住の地」の俳優であり「7,8年も一緒に演劇を作っているので、僕が求めるイメージを体現できる俳優。クランクインまで短く、本読みやリハーサルに時間がかけられないことが最初から分かっていた。イメージの共有をスムーズにできる俳優が撮影時に演技が出来上がっていく」といった理由から起用している。「この2人じゃないと成立しない、突然沸き起こるアクションを理解してもらう必要がある」と考え、撮影準備が大変で一発勝負となる”川に飛び込むシーン”については反論があった中で「論理を超越した共鳴というものの一点張りで実現させてもらった」と明かす。

 

撮影初日には、犬を伴った撮影を行っている。「首輪を外された犬が喫茶店内で暴れまわる」と想定し、ラインプロデューサーの大日方教史さんと共に動物プロダクションに向か、威勢よく吠えていた犬を選んだ。だが、現場では暴れてもらえず「俳優達に演出してもらった。吠えている鳴き声は後で加えており、映画でのリアリティの作り方は、執筆時のイメージと違っていた」と今回しかできない体験となった。なお、カメラマンの中瀬慧さんにカット割りやフィルタリングを考えてもらっており「おとぎ話のようにしたい」とリクエスト。「モラトリアムの期間に思いを馳せる感覚で観たい。映画自体を夢の中にある世界にしたい」と考え「通常の6倍レベルでフィルタをかけてもらった。全体的に現実味を帯びているか分からないような雰囲気を演出してもらった」と納得。また、撮影時に照明の秋山恵二郎さんにコンセプトを汲んでもらい設計してもらっており、編集段階でも色味に手を加えていった。

 

完成した作品について「社会的に全うな人間ではなく、子供の心に翻弄されている刹那的で曖昧な人間の姿を描くことが出来た」と満足している。最近は「映画が平均化されている」と感じており「映画は沢山の人が関わることによって、様々な分かりやすい方向に向かうことが重要。皆が分かることが優先されがちですが、映画で描きたいことを強く主張できたのは俳優を信頼できるからこそ。スタッフと共に表現したいことを体現させて頂いた」と感謝している。なお、本作を長編映画にするなら「登場人物の山田と七子、二人の関係性をもっと深めて、出会いや仲の深まりからすれ違いと別れまで、濃密に描いていきたい。”おとなこども”のロジカルじゃない感情を生っぽく、愛らしく描きたい」と話す。今後は「まだ映画になっていない、語られていない人間の感情を映画にしたい」と模索しており「曖昧なものをパッケージングしてしまわずに曖昧なまま描写できる、世界観のある映画監督になりたい」と志は高い。

 

 

映画『ラ・マヒ』…

嫌われることを恐れて無難な人生を歩んできた荻野愛は、同級生の堂島月子と再会する。愛とは正反対に自分らしい生き方を突き進んできた月子は、現在はプロレスラーになっていた。月子の試合に衝撃を受けた愛はプロレス団体ムーンライトに入門し、プロデビューを目指す中で道場の仲間たちになじんでいく。しかし月子は他人の目を気にして自由になりきれない愛に厳しい視線を向けていた。舞台を中心に活動する女優のまりあさんが愛、プロレスラーの夏すみれさんが月子を演じる。監督は、短編作品『泥』がソウル国際プライド映画祭などに入選した成瀬都香さん。

©2023 VIPO

 

元々、プロレス映画を撮りたかった成瀬監督は「算がしっかりと確保でき、プロダクションもつくので、是非チャレンジしたい」とndjcに応募した。初稿のシナリオでは、自身が入れたいものを存分に詰め込んだが「そこから、私が何をしたいのか探っていく中で作ることが出来る物語を探そう」と改稿を重ねていく。なお、2年前に初めてプロレスを観戦し「こんなにも諦めない人間達がいるんだ」と圧倒され、感動した経験があり「以前は、主人公の成長物語といった、直向きに頑張る人に関する話があまり好きじゃなかった。プロレスを通じて、人間が直向きに汗水や血も垂らして何かを掴もうと必死にもがいていることは情熱的だと気づいた。ひとつの熱があるものは、人を惹きつける。それを映画にできないか」と模索。また、韓国・ソウルに4年間在住した経験があり、韓国のインディーズ映画にハマり、ミニシアターに足繁く通ったこともあり「私が韓国にいた頃は、ポン・ジュノ全盛期で『母なる証明』が公開された頃。韓国はお客さんも多様で、多様なものを求めている。社会派監督が多いのは、それを求める需要があるから」と説き「韓国映画に惹かれたのは、商業映画・インディーズ映画も関係なく、とにかく熱量が高い。画面から伝わってくる熱量がどうしてこんなに高いものが作られるのか。日本映画は静かな作品が多かった頃だったので、熱量がある作品はどのようにして作られるのか、惹かれていった」と話す。

 

主人公の愛と月子、他の選手らは、ほぼ全ての役をオーデションで選んだ。主演で愛役のまりあさんについて「これから売れると思う。演技が出来るし、思い切りが良く、躊躇しない。日本拳法を学んでいるので受け身が取れ、どこにでも飛び込んでいける。身体能力だけでなく、勘が良い」と讃え「どうしたら監督の依頼に応えられるか、自身で探ってくれる。一番は華がある。生まれ持った個性」と評する。月子役を演じたプロレスラーの夏すみれさんと共に苦労を乗り越えた経験をしており「飛躍していってもらえたら嬉しいな」と願うばかりだ。プロレスシーンは、会場を借りることができたクランクインの日だけで撮っており、1日で作中に描かれる試合全てを撮りきらないといけなかった。そして「満席の観客として見せたい」という気持ちがあり、限られた予算の中でエキストラを150人から50人に絞り「撮り方に拘ることが映画作りのおもしろさ。カメラワークや照明についてリハーサルを入念に」と取り組んでいく。「助監督さんが、どうしたらエキストラが盛り上がっているように見えるか熟知しており、どのようにカメラが動けば人の動きがよく見えるか設定して頂いた。そのおかげで1日で撮り終えられた」と助けられており「プロでないとできないことを体験させてもらった。初日だけで83カット撮ったので、怖いものがなくなった。スタッフ皆さんのおかげです」と感謝している。

 

東京での一般公開を迎え「続編を見たい」「もしこのプロレス団体が実在したら応援したい!」という意見を沢山頂いており「長編にするなら色々なお客さんが感情移入できるように、道場メンバーそれぞれのエピソードを加えたい。箱推し(チーム全員を応援すること)できる長編映画が目標。そして応援上映をして盛大に紙吹雪を投げて欲しいです。掃除も手伝いますので」と想像は膨らむばかり。今後も「普遍的かつ現代的な長編映画をつくりたい」と望んでおり「普遍的な要素で言うと、主人公の成長物語を描きたい。現代的な要素で言うと、一般的にあまり知られてない仕事とか部活とか、趣味とか、そういう界隈にいる人にスポットを当てたものを作りたい」と意欲的だ。

 

 

映画『サボテンと海底』…

30代半ばの俳優である柳田佳典は映画出演のチャンスになかなか恵まれず、映画やCMの撮影前に出演者の代わりに準備作業をするスタンドインの仕事をこなす日々を送っていた。そんなある日、CM撮影現場で一緒に仕事をした人気俳優の小倉涼とプライベートで飲みにいくことに。そして柳田のもとに、映画の主演オーディションのチャンスが舞い込む。『ヴィニルと烏』の宮田佳典さんが主演を務め、『ふたつの昨日と僕の未来』の佐野岳さん、『ミスミソウ』の大友一生さん、シンガーソングライターの石川浩司さん、テレビドラマ「時効警察」シリーズのふせえりさんが共演。

©2023 VIPO

 

撮影現場では美術部として参加しており、5分以上の映像作品を撮ったことがなかった藤本監督。ndjcでは実地研修に選ばれる前にワークショップに参加できることに魅力を感じ「15人から選ばれるワークショップに行けるだけでも十分に勉強できる」と期待し応募した。「スタッフとして現場に関わることが多いので、美術部の視点から監督に対する気持ちがかなり反映されている」と自身の脚本を捉えており「35歳の男性で売れない俳優として描いたのは、撮影現場でお見かけしたスタンドインの方が男性であったことが大きかった。その後、偶々現場でお見かけした宮田佳典さんは35歳の男性だったことから、彼に当て書きをして作り上げた」と話す。なお、CM撮影でスタンドインの方が入るような現場のタレントさんは有名な方が多く「スタンドインの方はスタッフよりも扱いが雑になっている印象があった。話してみると、夢があったり、俳優志望だったりする。日本では、スタンドイン専門の方はあまりいない気がする。俳優として活躍したいのに出来ていなかったり、俳優の卵を主人公にしたい」と考え、脚本を書き上げた。

 

キャスティングでは、出演者全員にオファーしており「主演の宮田さん含め、殆どの方が現場で私がお見かけした際に、素敵だな、と思って当て書きした」と明かす。最初に、石川浩司さんにオファーしており「小学1年生の頃、幼馴染の子の家へ遊びに行った時、その子のお母さんが、たまが好きで、一緒に聞きながら踊っていた。中学校では吹奏楽部でパーカッションを経験して難しさを知った。以来、バンドとしても尊敬していた」と楽しそうに話す。ふせえりさんについては「小学校高学年の頃にサブカル好きの友達に『時効警察』でのふせさんを教えてもらい、惚れ込んでいた」としみじみと語った。クランクインの日に、作中にあるCM撮影現場シーンを撮っており、かなりのエキストラが必要だったが「知り合いの皆に声かけ、エキストラの会社にも協力頂き、様々な友達や牧監督らにも来て頂いた」と助けられている。なお、撮影の最終日にはスタッフ達から花束を頂き、嬉しくなって挨拶で放った一言でスベってしまったことが心残りのようだ。

 

本作を長編映画にすることを考えてみると「スタンドインとしての日常およびエピソードを追加したり、主人公が映画館で映画を見るシーンを挟んでみたり。自主映画の撮影現場での珍事件を思いつく限り詰め込みたい。プール以外も見せたい」とアイデアは膨らむばかり。今後も「どんな題材でも、どんなジャンルでも、程よい距離感と温度感を保って製作したい」と望んでおり「たとえ表面的にはふざけてるように見えたとしても、信念だけは貫きたい」と揺るぎない。

 

 

映画『デブリーズ』…

CM監督の和田と若手カメラマンの佐々木は企業広告の撮影のためスクラップ工場にやって来るが、突如として発生したワームホールに巻き込まれ、砂漠の異星に飛ばされてしまう。そこには、地球のゴミで作られた衣服や仮面を身にまとって暮らす不思議な民族がいた。出演は『半グレvsやくざ』の山根和馬さん、『佐々木、イン、マイマイン』の森優作さん、『ケンとカズ』のカトウシンスケさん。監督は、短編作品『ダボ』が「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア(SSFF&ASIA)2022」に入選した牧大我さん。

©2023 VIPO

 

「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア(SSFF&ASIA)2022」で入選した牧監督は、ndjcの説明会を受けた際に予算について伺った際に金額に驚き「以前の作品では5,000円で撮っていた。いつもとは違う作品を制作できるんじゃないか」と思い応募している。そこで「今回の企画でしか作れない映画とは何だろう」と考えた時に「SF映画にチャレンジしてみよう」と一念発起。幼い頃から「スタートレック」ファンであり「ドラマシリーズ「新スタートレック」をご飯と共に毎日観ていた。あの時に観たSFをもう一度」と思いを込めている。ストーリーを考える上では「10年後に押し入れから発掘したら自分が元気になる」とコンセプトを持って脚本として書いており「現在、シェアハウスで暮らしている友達でイラストレーターがおり『いずれは漫画、バンドデシネを描こう』と話していた。その時に、ゴミのエイリアンが登場する話をしていたのが元になった」と明かす。『不思議惑星キン・ザ・ザ』が大好きで、かなりの回数を重ねて観てから作っており「未来を描くSFにしようとしていたが、オペレーションや規模が全く違う。『不思議惑星キン・ザ・ザ』の瞬間移動は上手い作り方なんだな」と気づき、脚本を改稿していく。現代人が異なる世界に飛んでいく脚本にしており「『不思議惑星キン・ザ・ザ』と『ダーク・スター』と『ギャラクシー・クエスト』の3つが主になって作りました」と解説する。

 

キャスティングにあたり、プロデューサーにリストを作ってもらっており「僕自身、俳優を全く知らず、近年の日本映画を追っていなかった。キャスティング経験もなく、難しかった。その中で、良いなと思った3人を選んだ」と正直に話す。撮影では、不思議な民族を演じた役者が衰弱していってしまう程に大変な事態になったこともあり「彼等全員が僕の友達。とにかく衣装が5kgもあり重い。テイクを重ねていくと殺気立っていた。ケアする気持ちを持ちながら撮らないといけなかった」と監督自身も心掛けていった。大変な制作過程を経て作り上げたが、長編映画にするなら「たっぷり時間を使ってデブリーズの生活感を掘り下げたい」と想像は膨らむばかりだ。今後も「とにかく凝って凝って凝り切ったもの作りたい」と考えており「作り手の興奮を作品に染み込ませられるような監督になりたい」と確固たる姿勢がある。

 

 

若手映画作家育成プロジェクト ndjc2022」は、3月17日(金)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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