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仁絵がさすらっている姿をどのように表現すればいいのか注力した…『さすらいのボンボンキャンディ』サトウトシキ監督に聞く!

2022年11月26日

夫が長期海外出張へ行っている間に酒浸りになった妻が、意気投合した電車の車掌と関係を持ち、心の隙間を埋めようとする姿を描く『さすらいのボンボンキャンディ』が11月26日(土)より関西の劇場でも公開。今回、サトウトシキ監督にインタビューを行った。

 

映画『さすらいのボンボンキャンディ』は、『名前のない女たち うそつき女』のサトウトシキさんが企画・監督を務め、延江浩の短編小説集「7カラーズ」に収録された短編を映画化。34歳の仁絵は夫が海外に長期出張中で、毎日あてどなく街をうろついては酒を飲み、無為な時間を過ごしている。電鉄会社の車掌として働く48歳のマサルは嘗て運転士を目指していたが、国家試験に3度落ちて諦めた。偶然知り合って意気投合した2人は、互いに家族の存在がありながら逢瀬を重ねる。ところがある日、マサルが仁絵の前から突然姿を消してしまう。仁絵は他の男たちと関係を持ってみるが心の隙間は埋まらず、マサルの影を求めて街をさまよう。『ラストラブレター』の影山祐子さんが仁絵、『infinity 波の上の甲虫』など俳優としても活動するギタリストの原田喧太さんがマサルを演じた。

 

1996年、小説「アタシはジュース」の原作者である延江浩さんと仲良くなったサトウ監督。以降も良い付き合いが続いていく中で、2005年、短篇小説集「7カラーズ」の中にある1本として「さすらいのボンボンキャンディ」を読み「34歳の女性による一人称で描かれた物語。普通に生活しているような感じの人の見えづらさが書かれていた。彼女の抗いと孤独、生きづらさも含め、どのようにしてバランスをとっているのか。彼女の抗う気持ちを理解できないだろうか」と興味津々。「可能なら映画化したい」と延江さんに相談することに。だが、当時は機会に恵まれなかった。その後、本作では脚本を担っている十城義弘さんから「時間がある時に勉強会をしたい」と呼び掛けてもらう。勉強会では、4,5人で脚本を書いており、サトウ監督も執筆に参加。そこで、再び延江さんに「映画にならずとも脚色させてもらえないか」と依頼し承諾頂いた。

 

2013年、本作に主演の影山祐子さんは、出演作である『トーキョービッチ,アイラブユー』の宣伝活動をしていたところにサトウ監督は遭遇。日本映画学校の講師を担当していた頃、影山さんが演出コースで学んでおり面識があったが、俳優を志していたとは知らず、驚きながらも作品を鑑賞した。その後、十城さんの勉強会で映画を撮ることになり、キャスティングの際に影山さんを紹介する。出来上がった映画が印象に残り「機会があればご一緒できないか」と切望。本作の脚本がある程度出来上がった時点で、主演候補として最初に思い浮かんだのが影山さんだった。相手役の原田喧太さんは、10代の頃からミュージシャンとして桑名正博さんの下でバック等を担ってきたギタリスト。原田芳雄さんの息子であるが、原作者の延江さんは家族ぐるみで親しく『大鹿村騒動記』で原案としてクレジットされており、共に映画作りをしていた。「さすらいのボンボンキャンディ」を映画化するなら「男性は原田さんが演じるのがいいんじゃないか」と延江さんから提案頂き「原田さんの孤高な雰囲気がピッタリだ」と直感。数回お会いしながら出演交渉を進めていき、映画化が具体的になっていった。また、2人を取り巻く周囲のキャラクターに関するキャスティングは、影山さんも含め様々な方に逐一相談。たとえば、伊藤洋三郎さんは主人公の叔父役を担っており「脚本の中で、原作にはない仁絵の後ろ側が描かれるようになったのは、叔父さんのおかげ。伊藤さんから幅広く飄々と演じてくれるかな」と期待。ベテランとして現場を盛り上げてもらっており「アドリブも多く、周囲を巻き込んで気持ちよく演じてもらい、助けてもらった」と感謝している。

 

普段からステージに立っている原田さんは、俳優としての経験もあり、本作は久しぶりの映画出演。とはいえ、以前からTVドラマにも多く出演しており「原田芳雄さんの下で育ったことも大きい。大人の恋愛映画であるため様々な要求もある中で、数回会って話した印象は、男前で、様々な姿をシーンに合わせて見せてくれる」と信頼し、現場では特に演技指導はしていない。「ミュージシャンの原田さんをキャスティングしている」という認識があり、現場での演出には少しずつ慣れていってもらい、特別な演技の縛りを施すことはなかった。影山さんとは、原作や脚本に書かれていることについて時間をかけて話し合っており「主人公の女性をどのようにして理解していけばいいのか。頭では理解しているが、現場に入ると肉体化する必要がある。熱意がある姿勢で仁絵という女性を客観的にも好きになってもらいたい」と理解してもらうことに注力する。実は様々な顔を持っている持つ女性を演じてもらう必要があり「ある時は、お客さんであったり、お客さんを相手にする立場であったり。そして、妻でもある」と説き、演出に重点を置いた。

 

撮影を進めていく中で、仁絵が1人で過ごしているシーンには思い入れがあり「1人で歩いているところや電車に乗っているところ。そういうところで仁絵がさすらっている姿も含め、街のどこかで何かを期待して歩いている。素の自分で季節を楽しんでいる」と受けとめている。「ただ何かに振り回されてしまっている女性に見えてしまう可能性もある」と気をつけており「1人でいるシーンをどう見せるか。地に足がついているのか、フワフワしているのか分からない。しかし、彼女がさすらっている姿や、ただブラブラしている中での気持ち良さ、呼吸のようなものをどのように表現すればいいのか」と一番に力が入っていた。制作していく中で、サトウ監督が思い描いたイメージがあり「目の前で起きていることを見ながら、イメージとの差を見ている。この差は、想定しているものより外に出ていたりする。それらをどうやって掴んでいくか」と試行錯誤していく。「俳優がお互いに仁絵を理解しようとすること。私が仁絵をさせようとしていること。私が映画の外側も含めて、目の前にいる人間を理解しようとすることとが並行して動いている」と認識し「撮影の後半には様々な出来事があり、彼女が向かっていく先が分かっていく。最後のカットを撮った頃に映画化できた」と実感できた。完成した作品には様々な反応があり「”さすらう”という言葉の中に含まれる様々な要素があり、人それぞれに違う。原作が一人称の仁絵であったように、仁絵という主人公で観られる方が多い。様々な意見を頂くことは嬉しい」と確かな手応えを感じている。

 

映画『さすらいのボンボンキャンディ』は、関西では、11月26日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、12月2日(金)より京都・九条の京都みなみ会館で公開。また、神戸・元町の元町映画館でも近日公開予定。なお、第七藝術劇場では公開初日の上映後にサトウトシキ監督と影山祐子さんによるリモート舞台挨拶を開催。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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