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映画の中の現実が私達の暮らしている現実を超えている瞬間を撮れたら…『初仕事』小山駿助監督に聞く!

2022年7月25日

赤ん坊の遺体の撮影を依頼された写真館のアシスタントの男と、依頼した父親の複雑な心情を映しだす『初仕事』が7月22日(金)より関西の劇場でも公開中。今回、小山駿助監督にインタビューを行った。

 

映画『初仕事』は、遺体の撮影を依頼された若いカメラマンと依頼主の男性の奇妙な交流から、人生の喪失と再生を描いたドラマ。人づてに赤ん坊の遺体の撮影を依頼された写真館のアシスタント山下は、良い経験になるかもしれないとその依頼を受けることにした。赤ん坊の父親で、依頼主でもある安斎は、若い山下に最初は戸惑いを覚えるが、山下の正直で実直な姿に心を許し、撮影は始まった。遺体の状態を考えると撮影にそれほど時間がかけられないという状況は、山下の使命感に拍車をかけた。死を美化すべきでないという倫理観も目の前の状況に吹き飛ばされる。一方、安斎は子どもの遺体を撮影したいという自身の思いを突き動かしていたのが未練だったのではと気づき、山下に撮影をやめさせようとする。山下役を『ふたつのウーテル』の澤田栄一さんが演じ、監督の小山駿助さんが安斎役を演じた。

 

人生の喪失と再生を描くセンシティブな作品である本作。小山監督は「この人はこの役柄かな」と思いながら書き始め「こういう要素もあるかもしれない」とキャラクターを構想しており「自分ならこの役を演じられるかもしれない」と思いながら、最後まで書き上げ、作品に対する意識が固まった。監督自身が、赤ん坊の父親役を演じており「役柄も役柄なので、俳優として生きていこうとしている人にこのキャラクターは監督として任せ辛かった。役者はイメージを売っている一面もあるので、今後の活動に影響を及ぼしたくない」と配慮している。「本作に参加してイメージが良くなる」とは言い切れず、自身は様々なことを調べた上で脚本を書いており「演じてみるか」と一念発起。「フレキシブルに撮影できることが自主映画では必須になる」と認識し挑んでいる。

 

作中では、若きカメラマンと赤ん坊の父親の関係性をシーソーゲームの如く描いていく。「これが無ければストーリーが進まない。現実的にあり得る関係性の変化」だと話し、撮影した高階匠さんが「映画が現実を超えることを大事にしている」という意見に監督自身も同意している。「現実的な範囲で描き、ファンタジーらしいファンタジーにはしていないが、映画の中の現実が私達の暮らしている現実を超えている瞬間を撮れたらいいな」と望んでおり「関係性がジグザグした結果、強く結びつくことが理想だ」と語った。クライマックスでは、現実を突きつけられる展開となるが「この展開を描かないと、本作ではマズいですね。どこまでファンタジックに演出したとしても、最終的には必然だった。これ以外にない。最初から見えていた」と説く。大どんでん返しな結末にすることは不可能であり「結末に重きを置く作品ではない。全編に渡った見どころを作らないといけないと思っていました」と振り返る。

 

数日間の出来事を描いているが、撮影は1年間に渡ってじっくりと制作した。役者の見た目に関する変化には慎重になっており「髪型には十分に気をつけていました。痩せや太りはそんなに目立たなかった」と明かしながらも「普段舞台や他の映像作品にも出演している役者たちだが、幸運にも変化は大きくなかった」と一安心。むしろ一番大変だったのは、元気な赤ん坊の撮影で「保険をかけている画角だと思われたらマズいので、許容範囲内での動きになるようにしている。大きく外れそうだったら止めて撮影を繰り返している」と苦労を重ねた。一回一回の撮影で役者とスタッフの皆が消耗し過ぎないように撮影を重ねていったことで「苦し過ぎず気持ちよく撮ろうとしていた。その場の雰囲気が良かった」と満足度は高い。各々のシーンについては、小山監督が撮影に入る数時間前までに当日撮影分の絵コンテ12,3枚を仕上げており「制作関係のことをなるべく書き入れた。正確な情報を可能な限り詰め込んで、現場では役者に向き合い、撮れ高について判断する」と緻密に制作していった。

 

編集では丁寧に映像を繋いでいき、最初は3時間もある作品に。「撮ったけど、切っているシーンがいくつかあります。不要な台詞もカットしている」と打ち明けながらも、間の調節もした上で、本作は完成に至っている。映画祭に出品した際には、南米のとある地域に長年住んでいた方から「亡くなった方を写真に収める行為は変じゃなかった。日本ではダメなんですか」と聞かれたことがあり「反応に地域性が出る題材であることは知ってはいたが、初めてお会いする方から頂けたのは、大きな出来事になっている」と手応えを感じられた。

 

映画『初仕事』は、関西では、7月22日(金)より京都・出町柳の出町座、7月23日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開中。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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