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心の動きを大切にしながら、青春時代が終わる映画にしよう…『さよなら、バンドアパート』KEYTALKの小野武正さんと宮野ケイジ監督に聞く!

2022年7月14日

ミュージシャンを目指す青年が、音楽シーンの中で地位を確立するまでの波乱の人生を描く『さよなら、バンドアパート』が7月15日(金)より全国の劇場で公開される。今回、KEYTALKの小野武正さんと宮野ケイジ監督にインタビューを行った。

 

映画『さよなら、バンドアパート』は、ミュージシャンになる夢を追う主人公が、メジャーシーンの中心へと進んでいくまでの栄光と挫折を描いた青春ストーリー。3人組ロックバンド「juJoe」のボーカルとギターを担当する平井拓郎さんが実体験をもとに執筆し、「note」で発表して反響を呼んだ同名小説を映画化した。都会の喧騒にもまれながら、音楽の道に進みたいという夢を抱いていた川嶋。そんな彼の背中を押してくれたのは、大阪で出会ったユリだった。ユリとの出会いは川嶋のすべてを変えたが、ミュージシャンとしてプロデビューした彼を待ち受けていたのは、厳しい現実だった。監督は『ニート・ニート・ニート』の宮野ケイジさん。主人公の川嶋役に元ミュージシャンで本作が俳優デビュー作となる清家ゆきちさん、川嶋の運命を変えるユリ役に『さがす』等の森田望智さん。そのほか、元「AKB48」の梅田彩佳さんや『ベイビーわるきゅーれ』の高石あかりさん、石橋穂乃香さん、阿南健治さん、千原せいじさん、竹中直人さんらが共演する。

 

原作者である平井さんとは以前から親交があり、noteやTwitterでの書き込みは観ていた小野さん。2年前ごろ、共に食事をした際に「本になるのでコメントを書いてほしい」と依頼されると共に「映画化するかもしれない」と話を聞いていた。冗談交じりに「出演させて下さい」と伝えていたが、実現したことに驚きは隠せない。「映画で描かれているようなことの半分以上は実体験を基にしている」と聞いていたが、平井さんが大変なことが起きていたことは知らなかった。とはいえ「様々なバンドマンが経験することでもあるよなぁ」と共感せざるを得ない。

 

僕も原作を繰り返し読んだ宮野監督は「そのまま映画化するのは厳しい。切り取らないといけない。切り取る以上、何を基準に切り取るか」と熟考。「主人公の青春が終わる映画にしよう」と位置づけ、ピッタリのエピソードを切り取り、主人公と大きく関わる人達を周囲に据えていった。美咲、ユリ、ユキナを配置して構成しており「主人公が青春の終わりに向かっていく、と考えた上でキャラクターを配置してエピソードを載せていく。原作にない要素もふんだんに載せているが、終わりに向かっていくために必要なエピソードを加えていった。半分は原作から、半分はオリジナルによる構成」と解説。一番重要で外せないものとして、主人公の心の動きを挙げ「ユリやユキナの心の動きを主人公の中に入れていくと重くなるので、割り切っており断片的に見えるかもしれない。あくまで主人公の心の動きを守っている。一番心が動いていた時代を切り取っている」と語った。

 

タイトルにもあり劇中に用いられているthe band apartについて、小野さんは「バンドマンの憧れ」と話すと同時に「それとは裏腹に、業界のメジャーにとっては、滅茶苦茶セールスを上げているバンドではないから、そこを目指すのは違うんじゃないか、という話はある」と説く。本作で描かれているような直接的な体験をしたことはないが「the band apartは大好きなバンドで、最初は模倣から始め、脱却して違う方向に見出していった。かなりドンピシャに刺さる表現がありました」と響いていた。また、作中には、実在のバンドとしてKEYTALKとcinema staffが紹介され、LIVE映像が映し出される。宮野監督は、現在進行形で活躍しているバンドに詳しくなかったが「平井さんに相談した上で、俳優として音楽の匂いがする方に出演して頂きたかった。そこで紹介してもらったのが小野さん」と明かす。なお、ステージでの映像を入れることを想定し「映像を受け取るだけといったことはやらないことが前提。スケジュールを調整してもらいながら、LIVEシーンが撮れるように調整しました」とリアリティには拘っている。小野さんには演技もしてもらうことなるが「自身を表現して見せる作業を常にされている方であり、表現することには全く不安がなかった。台詞に関しては、馴染みが悪いと感じたらリテイクをしていけば良い」と自信があった。小野さんは初めての映画出演だったが「緊張と期待がありながら、楽しみながら演じられた。題材が自分に馴染みがある事柄ではあったので、バンドマンならではの空気感が表現出来たら良いな」と思いを込め、果敢に挑んでいる。宮野監督は、小野さんについて「ムードメーカーでしたよね」と気に入っており「映画の現場は時折ピリッとしたりギスギスとしたり様々なことがあるんですが、嫌な空気感に持っていかれることなく、常にマイペースで朗らかに居てくれたので、僕は楽しく撮ることが出来ました」と感謝していた。

 

ストーリーの中盤では、厳しい現実を経た後の喧嘩シーンがある。小野さんは「あそこまでの喧嘩はバンドではほぼ有り得ない」と述べ「お互いに違う人間なので、食い違うことはある。延長線上にあり、川嶋が思い描いていたモノから離れてしまうことへのフラストレーションが合わさっていく。あそこまでならなくとも皆が共通して抱えてしまうフラストレーションはバンドには絶対にある。自分の実体験として分かりつつ、誇張して、あのシーンには臨みました」と振り返る。宮野監督は「とても寒い日に雨を降らしました」と思い返すと、小野さんは「3人は和気藹々と挑んでいたので、いきなりピリつかせるのが大変で。気持ちを切り換えてやりましたね」と回想。宮野監督は「あのシーンの中でも、3人の空気感はしっかりと守られているな」と感じており「演出をして最終的な姿は示しましたが、それ以外の要求はしていないので、役としてのキャラクターが詰まっている。小野さんのアドリブもあり、現場で活かすことができ、思い出深いシーンになりました」と印象深い。編集の際には「台本上では成功していた箇所が、編集段階で狙い通りに成立していない」と気づき、困惑したが「ユリと川嶋の物語にしよう」と方針を変更し、無事に完成させた。

 

完成した本作を観た小野さんは「ある意味で、青春時代に経験してしまう、満たされそうで満たされない虚無感が存在していた。『まだ何かになれるぞ』と満ち溢れている期待や希望があるからこそ、抜けてしまう感覚」と表現する。また「自分が若い時に感じていたことをもう一度感じられて、もしかしたら嫌な思い出を思い出してしまうかもしれない。抉られる表現や若者特有の感覚が詰め込められているのがおもしろいな」と興味深く鑑賞した。宮野監督は、原作を読んでキャラクター像を作るにあたり、人物を多面的に見て描いており「若い時は、感情が一番動いている。何も諦めない。成熟していく中で、ある程度は知恵がつき、世間に慣れてくると様々なことに折り合いをつけて諦めていくので、興味を持たない。若い時は不器用で世間知らずだけど、たとえ絶望が待ち構えていたとしても、希望を以て、大きな波を描いていく方が情熱を注げられるので、偶然にもずっと若者を描いているかもしれない」と冷静に話す。なお、今作のように多くの楽曲を用いた音楽映画の制作は初めてで「とても楽しかった。楽曲を沢山用いる作品はまたやってみたいな」と望んでいる。小野さんも「青春映画においてKEYTALKの楽曲がハマるケースはあると思う。機会があれば、具現化されたらおもしろいな」と興味津々で「第2弾乞うご期待」と笑いながら今後の展開を楽しみにしていた。

 

映画『さよなら、バンドアパート』は、7月15日(金)より全国の劇場で公開。関西では、7月15日(金)より大阪・心斎橋のシネマート心斎橋、8月12日(金)より京都・九条の京都みなみ会館、8月13日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。

映画本編の前に、クレジットのメンツを見て驚いた。KEYTALK、cinema staff、アメノイロ。、anewhite、ケプラ…いやいや、これはどこのサーキットフェス?そして、タイトルの冠には the band apart。ただの音楽好きと云うよりも、ライブハウスに確実に通っている人のチョイス。まず、この時点から音楽映画としての感度の高さが垣間見える。

 

様々な人物との出会いの中で、影響され、もがきながらも進んでは戻り、進んでは戻り…と右往左往しながら、葛藤や、ホロ苦い部分が愛おしくも切なくて、もどかしさが募っていく。実に「バンドマン」らしく、主役演じる清家ゆきちさんの歌声やシャウトが味わい深く、物語りを印象づけている。映画館帰りに、ストリートミュージシャンを見かけたら、本作を重ねて、いつもより少し長めに聴いてしまいそうだ。

from関西キネマ倶楽部

 

「問題なんか、はねのけようとした時点で、半分はねのけたようなもんやんか」と云うユリのセリフにグッとくる。主人公の歌を聞いた時の出来事を、自分が大好きな映画や小説に出会った際の感情に例えるセリフに共感を覚えた。芯を射抜く言葉を投げかけつつも、暗い影を垣間見せるユリを演じる森田望智さんの存在感が印象的だ。

 

何もかもが思うようにいかず、人生がグシャグシャになったように感じる時期、皴々になった何かを再び一生懸命に延ばしてゆくように足掻いて叫んでも、以前のような滑らかなものには決して戻らない。これは、バンドマンのテンプレートな生き様か、音楽業界に生きる者の人生の縮図か。舞台は2006年以降、平成真っ只中だ。今を生きる多くの誰しもが少しでも手が届きそうなノスタルジックな空気が滲み出ている。挫折を経験して、バンドマンへの道を煩悶しながら通って来た人の心には一層響く。音楽活動に限らず、自分が抱えていたものが夢と呼べるほど輝くものではなかったとしても、なにかの淡い願いにこだわり続けたことのある人には、自分を投影する瞬間があるかもしれない。

fromNZ2.0@エヌゼット

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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