澤江さんの目線で、白鳥とどう向き合っていけばよいのかリアルに体験できる作品…『私は白鳥』槇谷茂博監督に聞く!
富山県にある白鳥の越冬地を舞台に、怪我をして飛べなくなってしまい群れに置いて行かれた白鳥と、それを見守る男性を映したドキュメンタリー『私は白鳥』が関西の劇場でも12月11日(土)から公開。今回、槇谷茂博監督にインタビューを行った。
映画『私は白鳥』は、傷ついて北に帰れなくなった1羽の白鳥と、その白鳥に自身を投影するかのように見守り世話をする男性の交流を4年間にわたって記録したドキュメンタリー。2019年5月に富山のチューリップテレビで放送され反響を呼んだテレビ版に、2年以上の追加取材の映像を加えて映画化した。テレビ版に続いて槇谷茂博さんが監督を務め、映画化にあたっては『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』のTBSテレビが製作に参加。秋が深まると富山県にはシベリアから800羽以上の白鳥が越冬のため飛来し、春には再び海を渡ってシベリアへ帰っていく。2018年春、翼が折れて飛べなくなり、富山に取り残された1羽の白鳥がいた。当時57歳の澤江弘一さんはその白鳥に毎日エサをやり、見守り続ける。弱肉強食の自然界や猛暑といった厳しい環境の中、澤江さんは自然にどこまで介入すべきか葛藤しながらも奮闘する。天海祐希さんがナレーションを担当した。
2018年、富山に白鳥が飛来してこず、チューリップテレビは取材を始めた。だが、様々な識者に話を聞いても「今、富山に何羽の白鳥が来ているか分からない」と云われてしまう。そこで、富山市に白鳥を毎朝撮影しながら数えている澤江弘一さんを紹介してもらい、会って話を聞いてみることに。膨大な資料を提示してもらうと同時に、現場で澤江さんが白鳥に名前をつけて呼んでいる姿に槇谷茂博監督は興味深く感じ「澤江さんは一体どんな方なんだろう」と興味津々。取材を依頼してみたが、澤江さん自身は表に出るのを嫌った。また、エリア毎に白鳥に餌を与えてお世話している人が存在し、澤江さんは他所から来て餌を与えており「皆さんに迷惑をかけてしまうので、私は表に出たくない」というのが基本的なスタンスである。だが、取材に伺った梶谷昌吾さんが澤江さんに情熱を以て交渉し続けていくと、梶谷さんを息子のように可愛くなり、取材を了承して頂いた。
まずは、テレビ版ドキュメンタリーとして取材を始めていく。順調に撮影をすすめていったが、1年と数ヶ月が経った最後の方になると、白鳥も人間に対して敏感になり、けものみちへの立ち入りを断念し、一線を引いて区切りをつけた。番組自体は「感動した」「澤江さんの距離感が良かった」「これからも見守りたい」「今どうしているか知りたい」という感想や、澤江さんの生き方に共感する方が多く「皆さんの心に刺さったところがあった」と手応えを感じていく。外国でも評価があり、TBSテレビの「報道特集」でも紹介され、全国から共感の声があがり、取材は続けてみること。また、澤江さんに映画になる可能性を伝え、記録を依頼した。2019年5月、澤江さんの快気祝いに必要なカメラ機器一式をプレゼントしており「澤江さんとしては、自分の趣味で、世の中の誰にも見せることをせず、黙々と撮っていたものが皆さんに観てもらえるのは嬉しいでしょう。次第に撮影も上手くなり、報道記者より優れているんじゃないか、と思えるぐらい臨場感溢れるリポートがあり、出来の良い作品になったなぁ」と、澤江さんには感謝せざるを得ない。
とはいえ、澤江さんの体調が悪くなった時期があり「私達との距離も遠くなっていってしまった。どうなるか分からない。コロナの期間に入ると、澤江さんの持病があり、手術の可能性もあった。いつまで続けるか」と判断に困ったこともあった。だが「澤江さんにお願いするしかない」と認識しており、最後まで澤江さんの映像を信用していく。結果的に「自分達で撮影しなくてもよかったかな」と安堵する程の映像があり「白鳥と澤江さんの世界観を作るためには自分達のカメラが存在すると壊してしまう可能性がある。澤江さん目線で白鳥とどう向き合っているのかリアルに体験するには澤江さんのカメラだけで撮影して良かった」と太鼓判を押す。撮影素材はブルーレイディスク300枚を超えており全部観ていくことから始めたが「これはイケる」と確信。「1つ1つの出来事を繋いでいく作業からでした。様々なバリエーションの映像があり編集作業は楽しかった。一気に作り上げました」と思い返しながら「番組を作ったので、映像だけでなく、映像に吹き込む気持ちが大事だ」と身に沁みた。
なお、映画版ではナレーションを天海祐希さんが担当している。本作は、TBSテレビと一緒に製作しておりコネクションがあったが「富山の作品ですから、富山に所縁がある方で、白鳥にフィットして、澤江さんの生き方に共感してくれそうな人を探して意見を出し合って、天海祐希さんに行き当たり、オファーしてみました」と説く。天海さんは快く引き受けて頂いており「富山の出来事であり、番組を観て澤江さんの生き方に共感する部分があり、真っ直ぐな生き方に心を打たれた。お忙しい中で時間を作って頂いた」と感謝しており「天海さんのテレビでは見せない一面を楽しんでいただけるんじゃないかな」と納得の仕上がりとなった一作である。
映画『私は白鳥』は、関西では、12月11日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、12月17日(金)より京都・烏丸の京都シネマで公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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