優れた俳優は全く役に成りきっていない。80%は役柄、残り20%は役者の魅力…『信虎』寺田農さんに聞く!
武田信玄の父である信虎が、武田家の存亡をかけて知略を巡らし、勝頼の暴走を止めようとする姿を描く『信虎』が11月12日(金)より全国の劇場で公開される。今回、寺田農さんにインタビューを行った。
映画『信虎』は、戦国時代の名将である武田信玄の父で、甲府を開いた信虎の晩年を描いた時代劇。武田信虎入道は息子の信玄に甲斐を追放され、駿河を経て京で足利将軍に仕えていた。追放より30年が過ぎた元亀4年、80歳になった信虎は、信玄が危篤に陥っていることを知る。武田家での復権を目指し甲斐へと向かう信虎だったが、新たな当主である勝頼とその寵臣に阻まれてしまう。やがて武田家存続こそが自らの使命であると悟った信虎は、織田との決戦にはやる勝頼の暴走を止めるべく知略を巡らせる。ベテラン俳優の寺田農さんが主演を務め、信虎の娘であるお直を谷村美月さんが演じる。『デスノート』『平成ガメラ』シリーズの金子修介監督がメガホンをとり、黒澤明監督作や今村昌平監督作で知られる池辺晋一郎さんが音楽を担当した。
当初、膨大な論文集の如く長編過ぎた本作の脚本。「これはシナリオとは呼べない。映画にはならない」と絶句した寺田さん。「[ETV特集]で”武田家の興亡”という再現ドラマなら成立する脚本。映画として上映するには圧縮してドラマを作るべき」と金子監督と脚本の宮下玄覇さんに提言。試行錯誤しながら改稿されており「史実を前提としており、切ることが出来ない。少しずつ圧縮して、今回の作品になった」と振り返る。本作で描かれる信虎について「80歳となり、もう一度返り咲こうとする。老いの妄執であり、一種のボケ。知的な武将とはいえ、そう上手くはいかない。甲斐の国を追放されて望郷の33年、息子が死んで自分が返り咲き3万の兵を率いようとする妄想。妄執ではあるし、”もう一度、夢よ再び”という野望。理解できないわけではないが、考えてしまうのが老いというもの」と冷静に捉えていた。
もし、武田信虎に会ったら、と想像してみると「まずは、『おっさん、ええ加減にせえや』と言いたい」と寺田さんは苦笑交じりに話す。信虎に対し「この人は、若い時に甲斐の国を統一した、という自負がある。武田信玄は現代でも人気のある優秀な武将であるが、親の七光りを以て成長していく。根本の基礎は信虎」と説く。JR甲府駅南口には武田信玄像が50年以上前から聳え立っているが、昨年、北口に信虎像が出来た。甲府市は、2019年に開府500年、また、2021年には武田信玄公の生誕500年という歴史的な節目を迎え、信虎をもう一度見直そう、という機運が高まっており「悪役非道で追放されたら農民が手を叩いて喜んだ、という史実は一面でしかない。本当は違うんじゃないか、他にも魅力があるんじゃないか、と見直されている。家名を残すことが重要な誇り。誇りがあるということは恥も知っている。戦国の荒ぶる時代だからこそ、そういう精神があった」と諭す。
撮影にあたり、通常は立ち入ることが出来ない場所を共同監督でもある宮下さんのおかげでお借りすることが出来た。「本物により近い現場を再現出来たら、私は衣装をまとい信虎になる。スッと溶け込んで自分で好きなように自分の解釈で演じれば良い」と捉えており、寺田さんにとっては「苦労もなく楽しい1ヶ月でありました」と満足している。とはいえ「役者は緊張しなければならない。全ては集中力に転じている。撮影中は集中しているが、持続しないから、シーンが終わるとオフになり、次のシーンで再び集中する。オン・オフのメリハリは長く演じていると、バランスよく出来る」と自負しており「若い頃はずっとオンでいるから疲れてしまう。観ている側も力が入って疲れてしまう。長く演じてきたからの良さ」だと明かす。しかし「役には成りきらない。成りきったら、つまらない。優れた役者は、全く成りきっていない。80%は役柄、残り20%は役者の魅力。それがなければおもしろくない、誰がやっても同じ」だと断言する。
60年の役者人生を過ごしてきた寺田さん。当初から役には拘っておらず「監督に声をかけられ、おもしろそうだったら挑んでみる。どうしてもやりたい、というものはない。知らない世界が書かれていて、おもしろそうだと演じてみたい」と刺激を受けることを好み、作品に出演し続けてきた。11月7日に79歳を迎えたが「この歳になって幸いにも元気だから、ピンピンしていて、お刺身でも食べられるよ。監督や製作者には『まだ大丈夫ですよ』と伝えている。芝居の要素がなくても演じてみることもおもしろく、雰囲気を醸し出せる。役の大小に興味はない。バラエティー番組でも声がかかったら、おもしろそうだったら出演してみる」とまだまだ様々な仕事の依頼に果敢に応じていく心意気だ。
映画『信虎』は、11月12日(金)より、大阪・梅田のTOHOシネマズ梅田や難波のTOHOシネマなんば、京都・二条のTOHOシネマズ二条、兵庫・西宮のTOHOシネマズ西宮OSをはじめ、全国の劇場で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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