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理解できずにいながらも堂々としている親の姿は新しい…『息子のままで、女子になる』杉岡太樹監督に聞く!

2021年9月10日

建築家としての人生を歩む傍ら、トランスジェンダーの当事者として講演会などを行い、多岐に渡り活動するサリー楓さんを追ったドキュメンタリー『息子のままで、女子になる』が9月11日(土)より京都関西の劇場でも公開。今回、杉岡太樹監督にインタビューを行った。

 

映画『息子のままで、女子になる』は、新世代のトランスジェンダーのアイコンとして注目されるサリー楓さんが、女性として踏み出した瞬間を追ったドキュメンタリー。慶應義塾大学で建築を学び、大手建設会社に内定して、幼い頃から夢だった建築家としての未来に向けて歩み始めた楓さん。しかし、男性として生きることに違和感を持ち続けていたことから、就職を目前に、これから始まる長い社会人生活を女性として生きていくことを決意する。女性としての実力を試そうとビューティーコンテストへ出場し、LGBT就職支援活動や講演活動などにも参加する楓さんだったが、それらの活動を通して、世間のトランスジェンダーに対するステレオタイプや既成概念に疑問を抱き、新しいリアルな一個人としてのトランスジェンダー女性像を打ち出そうとする。一方、楓さんの心には父親の期待に応えられなかった息子としてのセルフイメージが残っていた。新しい自分、本当の自分として世に出た時、家族はそれをどう受け止めるのか。カメラは楓さんと家族の対話にも同行していく。監督は三宅洋平さんの選挙活動を追った『選挙フェス!』の杉岡太樹さん。

 

ビューティーコンテストに自ら出場することを決意した楓さん。当時の彼女は、あくまで建築を学ぶ大学生であり、ダンスやウォーキングの経験もなかった。本作のエグゼクティブプロデューサーであるスティーブン・ヘインズさんに依頼し、レッスンを受けていく。スティーブンさんは「コンテストを目指すだけでなく、コンテストを目指す姿をドキュメンタリーとして撮ってみたら、なにかが出来上がるんじゃないか」と思いつき、杉岡監督に依頼。当時は制作していた作品があり2本の映画を同時に撮影するのは無理があり、長編映画にするつもりはなかった。だが、ジェンダーやLGBTの世界には関心があり「PVのようなドキュメンタリーが撮れたらプラスになるんじゃないか」と引き受けた。

 

撮影を進めていく中で、楓さんと父親の会食シーンが印象に残っており「映画として観るべき理由が出来た」と確信。「LGBTをトピックにしたドキュメンタリーは沢山あるが、僕が違いを作れるとは思わなかった」と打ち明けながらも「こんなお父さんの現れ方は観たことがなかった。理解を示した両親の姿はほかの作品で観てきた。だが、理解できない、かつ、堂々としている親の姿は新しい。なかなか目に出来るものではない」と発見。「これは映画になるぞ。映画にしなきゃいけない」という責任感を背負い「あそこまで撮らせてもらったからには中途半端なものにはできない。僕自身も問われている」と身が引き締まった。また、杉岡監督による楓さんへのインタビューを撮影終盤に実施しており「彼女から聞いてきたことを再現するために、敢えて回答が分かっていることを聞いている」と明かす。「メタ構造でカメラを映したり、撮っている画面を映したりすることで、自分もインタビューを演じている」というメッセージを発しており「自分が気になったことも聞いているが、自分の中にある社会が知りたいことやニーズをリサーチしていく中で、そのまま聞いている」と説く。さらに、インタビュー映像を父親が観ているシーンを映し出す。「お父さんは彼女の女性性や女性として生きる現実に対して肯定的に捉えていない。あくまで息子だと考えている」と聞いていたが「あぁいう言葉をカメラが捉えられるとは思っていなかった。お父さんを撮ったことで本作を映画にしようと考えるようになった」と本作を制作する意味が変化していく。本作終盤には、はるな愛さんとの対談シーンが盛り込まれている。「はるな愛さんが2009年のコンテストで優勝した時のトレーナーがスティーブンだった」と明かし「楓さんは講演等で発信する際、先人達の現れ方やメディア上の在り方が自分達トランスジェンダーの存在にとって1つのレッテルを作ってしまったが故に自分達が求められるのは望んでいることではない、と主張していた。ならば、愛さんに直接会って伝えるのがいいんじゃないか、と提案した」と明かした。

 

2018年9月から2019年4月にわかって撮影しており「まさにモラトリアムな時期。授業も多くないので、宙に浮いた状態。彼女は、自分の時間をビューティーコンテストや講演会に使い、自身のジェンダーに関わる問題に深くコミットした時期だった」と振り返る。編集にあたり、ビューティーコンテストへのチャレンジから当日まで、そして大学院の修了を迎え就職までの時間軸を中心にしており「明確なストーリーにはしていない。作り手がストーリーテリングしない」と心がけた。なお、本作のタイトルに関して、楓さんが、自身のことを女子と呼んでいることに起因。「”男子”や”女子”という言葉の使い方は気を付けないといけない。差別は被差別者がいる中で成立する。大事なのは、気分を害する人がいるかどうか。人によっては、蓋をしているように感じたり気にならなかったりする。ケースバイケースを認めていくべき」だと考えており「一律的な『女子と云ってはいけない』という風潮は、ある種の暴力性を帯びている。様々に感じてもらえれば」と歓迎している。

 

完成した本作について、父親からは「息子が話していることについて、自分としては、違う、と思うことや、親のしたことを、沢山の方が観る映画という場所で云うことに理解できないことがある」とコメントを頂いた。「息子が女性として生きることに対して応援している、とは言わない。今でも男性の名前で呼んでおり、揺らぎはない」と受けとめながらも、一方で「彼女の人生を応援しているということは言葉ではない方法で表現している」という解釈もしている。杉岡監督は「ここから先は彼女が自分で表現していく。建築家として、自分の人生を体現していくだけだ」と真摯に楓さんを見つめていた。

 

映画『息子のままで、女子になる』は、関西では、9月11日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォと神戸・元町の元町映画館、9月24日(金)より京都・九条の京都みなみ会館で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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