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オリンピックによって無くなってしまうかもしれない生活を映像記録として残した…『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』青山真也監督に聞く!

2021年8月12日

2020年東京五輪に向けて、再開発が行われるなか、かつて1964年五輪の開発で建設された公営団地の取り壊しが決まり、居住者たちには「移転のお願い」と称して転居が迫られ、五輪に翻弄されながらも生活する人々の2014年から~2017年の3年間を映し出す『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』が8月13日(金)より全国の劇場で公開。今回、青山真也監督にインタビューを行った。

 

映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』は、2020年の東京オリンピック開催にむけた国立競技場の建て替えのため、2017年に取り壊された公営住宅を追ったドキュメンタリー。1964年のオリンピック開発の一環で国立競技場に隣接して建てられた都営霞ヶ丘アパートは、平均年齢65歳以上の住民が暮らす高齢者団地になっていた。単身で暮らす者が多く、何十年ものあいだ助け合いながら共生してきたコミュニティであったが、2012年7月、このアパートの住人に東京都から一方的な移転の通達が届く。転居を強いられた住民たちの2014年から2017年の3年間の記録から、オリンピックに翻弄された人々と、五輪によって繰り返される排除の歴史を追う。

 

2013年末、 オリンピックによって2度目の立ち退きを強いられている人達がいると知った青山監督。そこで、公営団地に直接足を運んだ。普段は住民である高齢者が日中に外に出ることがなく、あまり人の気配がせず、田舎の団地に来たかのような感覚に陥った。外苑マーケットと呼ばれるマーケットスペースがあり「平成以前は多種多様なお店があった。お店でお惣菜を作って高齢者の方に届けていたり、タバコ屋さんが便利屋さんになったりしてコミュニティスペースになっている」と気づき、そこから、住民に会っていく。

 

撮影するまでには時間をかけて信頼関係を作っていった。また、カメラを意識しないような演出方法を取り入れており「全てのショットは三脚を使いFIXで撮っている。カメラと撮影者である私がいるので、手持ちカメラと違い、私=カメラではない状況が作られる」と説き「私はカメラを持っていなくて良い。生活していく中で、カメラを意識しないように見せる仕掛けを撮影中に施した。隠し撮りではない」と話す。2014年から足を運び、2016年1月の移転期限までで撮影が基本的には終了したが、建物が完全に無くなったのは2017年。実際には、2016年1月に移転をしなかった人達がおり「90歳以上の高齢であることや持病から移転候補地では生活することが難しい方、強引な説明を受け入れられなかった方が居残った。2016年中には壊せず、東京都から裁判を持ちかけられたものの、最終的には裁判直前に東京都側から和解が持ちかけられた。最終的に引っ越して2017年に解体が始まった」と話し、本作のタイトルが”2017”であることを説明した。

 

編集にあたり、住民達が移転反対の声を挙げ、記者会見を何度か開いていることを踏まえ「移転反対の活動や、その活動をする人だけを切り取る映画にならないようにした。声をあげることができない人も等価にどう映すことができるか熟慮した」と述べる。実際に反対の声を挙げられた人は、130世帯中5,6世帯しかおらず「挙げられない理由は様々にありますが、高齢過ぎて東京都やオリンピックに対して声を挙げられなかったり、団地の町内会と呼ばれる自治組織が移転を進める側だったので団地の中で反対の声を挙げられなかったりした」と現実を鑑みて十分に判断した上で本作を構成。いわゆる社会運動、反五輪だけを映し出すような映画には意識的にしておらず「基本的には、高齢者団地での高齢者の生活風景を見た時に、オリンピックによって無くなってしまうかもしれない、奪われてしまうかもしれない生活を映像記録として残すべき」と静かな映画に仕上げている。

 

住民達は3ヶ所の移転先に別れ、一番多くの方が移転した住宅の集会所で2019年に完成した本作を上映して観てもらった。様々な方が映っているが、主に映っている方々の中で半数の方が既に亡くなっており「涙を流す方もいました。一緒に住んでいた方にしか出てこない感想が溢れていた。興味深いと共に移転の過酷さを改めて認識する上映会でした」と感慨深い。また、今後は、東京オリンピックで難民選手団の活躍を見ながら、日本の難民受け入れ状況に対して関心を持ち追いかけていく予定だ。

 

映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』は、8月13日(金)より全国の劇場で公開。関西では、8月13日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都、8月28日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開。また、10月15日(金)より兵庫・宝塚の宝塚シネ・ピピアでも公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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