被害者と加害者がぐちゃぐちゃになってしまっている現代の混沌を描き出す…『なんのちゃんの第二次世界大戦』河合健監督に聞く!
淡路島を舞台に、太平洋戦争の平和記念館を設立しようとする市長と、それに反発する戦犯遺族との攻防を描く『なんのちゃんの第二次世界大戦』が7月10日(土)より関西の劇場でも公開。今回、河合健監督にインタビューを行った。
映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』は、戦争記念館設立を目指す市長と設立に反対する戦犯遺族の攻防を、吹越満さん主演で描いたドラマ。太平洋戦争の平和記念館設立を目指す関谷市市長の清水昭雄のもとに一通の怪文書が届く。記念館設立の中止を訴えるその文書には、昭雄の祖父で国民学校の教師として子どもたちに反戦を訴え、街の偉人と言われている清水正一を許さないとの一文が記されていた。怪文書の送り主は正一の教え子であったBC級戦犯遺族の南野和子。彼女は戦時中の正一が本当に反戦を訴えていたのか、その事実を知っていた。怪文書に対して、街の平和推進委員会が和子に抗議するがあっけなく返り討ちにあってしまう。ついに昭雄は和子に直接対決を挑むが…
昭雄役を吹越さんが演じるほか、大方斐紗子さん、北香那さん、西山真来さんが顔をそろえる。淡路島ロケを敢行し、現地オーディションで選ばれた西めぐみさんのほか、キャストの8割を現地住人が演じる。新鋭の河合健監督がメガホンを取った。
大阪府出身の河合監督は、オリジナル作品を気に入った場所で撮りたかった。ロケハンをしていく中で石材店を探す必要があり「東京か大阪、どちらかが撮影現場の拠点になれば」と両地点から調べていったが、ピッタリの場所が見つからず。「外観として撮りやすいか。石材店と家屋が一体化している構造の建物か。さらに近所に池があるか」と条件は厳しく設定していたが、淡路島まで調べていくと、ようやく発見。現地に3日間滞在し、良い方々にも出会えた。「皆さんが本当にフランク。初対面にも拘わらず、お会いして早々にオススメの宿等を友達感覚で教えてもらい助かった」と感謝しており「この人達と一緒に作るとおもしろそうだな」と楽しみにしていく。一歩間違えれば、ご当地映画になりかねないが「内容より映画作りを楽しみたい方が多い」と感じられ、淡路島オールロケ作品として動き始めた。
淡路島の方々からの出演者オーディションも行い、南野マリ役には西めぐみさんを大抜擢。オーディションに来た段階で、ピッタリの子だと発見し「他の子供も沢山出演していますが、彼女以外は本人のままで緊張させずにイキイキとして台本を本人に近づけるアプローチをしていった。彼女の場合、彼女が役に寄っていかないと成立しない役柄が求められる。リハーサルを繰り返したが、彼女の潜在能力に対する賭けたが結果的に本当に彼女で良かった」と大満足。現場での存在感から「メインビジュアルを彼女にしよう」と切り替えた。「撮影以外の時間では一番おとなしいが、一番度胸があり誰よりも緊張しない。待ち時間の佇まいもプロフェッショナル」と太鼓判を押す。なお、主演の吹越満さんは多忙な中で参加して頂いたが「淡路島を楽しんでおり、呑み屋で島民と仲良くなり、最終日にはクランクアップを見守ってくれる人までいた」と明かし「北香那さんと西山真来さんは出演日以外は現地の食材を使ってご飯を作り女性スタッフに振る舞い、淡路島を満喫していた」と振り返る。
戦争をテーマに選んだ本作ではあるが、河合監督自身は「いわゆる戦争映画は説教くさい作品が多い。悲惨さを伝えるだけ。若い世代は観ようと思うかな」と疑問に感じており「僕が作るなら、”75年前に何が起こり誰が悪いのか、を明確にしないと分からない”、というメッセージを伝える映画を作ることには意味があるんじゃないか」と着想。そこで、存分に混沌とした状態を映画で表現しようと試みており「現代の有り様そのものを作り出そう。オリジナル作品を作りながら、あまりない映画表現を作らないといけない。一言で言えない映画が埋もれているんじゃないか」と感じており、作品を鑑賞したから多種多様な捉え方がされていることに喜んでいる。また、架空の町にある特徴として、外来種の亀が繁殖してしまった影響を取り入れているが「シナリオ執筆時、明石市が亀の繁殖で悩んでいると知った。亀の回収を行い何らかの特産品にすることを試みた、と市議会の議事録から知った。その後、コストを踏まえると特産品にするメリットがなかった」と明かす。「お祭りの出店で子供が買って育てて成長して大きくなったら捨てられ繁殖した。アメリカ由来のミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)を日本が輸入して勝手に育てて捨てた結果、生態系が乱れて侵略的外来種と呼ばれ問題になっている」と説き「被害者と加害者がぐちゃぐちゃになってしまっている。この現代の混沌を亀を以て表現でき、メインのストーリーに繋がる」と述べ、実在する問題を興味深く捉えている。
撮影では、オーディションで選ばれた現地住民の方が多く皆が緊張している中での演出が大変だったが「西めぐみちゃんに助けられた。彼女とのリハーサルも行っているが本番では一発OK。一切NGを出さない。彼女をほったらかして、他の素人の方に対しての演出準備にあてられた」と打ち明け「素人の方と作っていくおもしろさがありつつ、難しさも感じた」と告白。淡路島オールロケ作品のため淡路島フィルムオフィスの方にも協力してもらっており「普通は撮影出来ない老人ホームを紹介して頂いた。『入居者の方へも良い刺激となるので是非やってください』と施設の方からも仰って頂いた。おもしろいからやってみよう、という文化は素晴らしい」と感謝している。
本作について「準備期間は怖かった。勇気の要る題材でした。シナリオで混沌を描くと云っても、どのようにバランスをとって描けばいいのか分からず」と改めて振り返る河合監督。「作品後半の展開はめぐみちゃんが支えてくれた。誰も知らない存在だった。彼女を発見でき劇場で見せられることは映画の武器になった」と述べ「クランクインは彼女のカットから始まった。僕もスタッフも映画が大丈夫だと安心できた」と満足している。今作は、大人数が出演しプロも素人も混在しているが「次はミニマムな関係性の作品を作りたい。ゆったりと演技に集中する恋愛映画を作りたい」と構想中。また「いずれは本作で扱ったBC級戦犯の題材を手掛けたい。この映画を観た方が想像し得ないものを作りたい」と野心も抱いている。
映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』は、7月10日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォや神戸・元町の元町映画館、7月16日(金)から京都・九条の京都みなみ会館で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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