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ブックセラーズの世界に入れた瞬間こそ、膨大なコレクションの意味を感じられた…『ブックセラーズ』D・W・ヤング監督に聞く!

2021年4月16日

(C)Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved

 

世界最大のニューヨークブックフェアの裏側を捉え、本をこよなく愛する人々を追ったドキュメンタリー『ブックセラーズ』が4月23日(金)より全国の劇場で公開される。今回、D・W・ヤング監督にインタビューを行った。

 

映画『ブックセラーズ』は、世界最大規模のニューヨークブックフェアの裏側からブックセラー達の世界を捉えたドキュメンタリー。業界で名を知られるブックディーラー、書店主、コレクターや伝説の人物まで、本を探し、本を売り、本を愛する個性豊かな人々が登場。さらに、ビル・ゲイツが史上最高額で競り落としたレオナルド・ダ・ビンチのレスター手稿、「不思議の国のアリス」のオリジナル原稿、「若草物語」のルイザ・メイ・オルコットが偽名で執筆したパルプ小説といった希少本も多数紹介する。ニューヨーク派の作家フラン・レボウィッツが辛辣ながらユーモアあふれる語り口でガイド役を務め、『カフェ・ソサエティ』等の女優パーカー・ポージーが製作総指揮とナレーションを担当した。

 

「今までブックセラーズを十分に取り上げているアメリカの映画がなかった」と感じていたD・W・ヤング監督。「希少本と云いつつも、様々な種類の本があり、ブックセラーと括るにはあまりにも広すぎる。ある程度絞って、特異で様々な要素を持っている希少本を詳しく描けるんじゃないか」と焦点を絞り、興味深さを感じながら取り上げた。また「文化としての希少本を十分に知っている人はいない。だからこそ、様々な素材を発見できる」と自身の学びにもなる、と感じている。

 

多様なブックセラー達を追いかけていく中で、彼らの本に対する熱狂的な情熱を受けとめ「彼等の中には特異なDNAがあり、気づくと、本にのめり込んでいる。コレクターにとって特別な存在が本である。まさにアーティストと呼ばれる方達」だと認識。特に、40万冊以上の本を所有するブックセラーであるジム・カミンズさんを取材した際には「30万冊が収められている倉庫を目の当たりにして、普通の人が入れない場所を見た時、これこそ自分がブックセラーズの世界に入れた瞬間であり、コレクションが意味することを感じられた。これで大丈夫だ」と、本作が出来上がると確信できた。翻って、自身について「私には彼らのような情熱はない。自分にはそういう拘りがない。とはいえ、私は本を買うのも好きだし、ものを集めないわけではない」と冷静に顧みる。また、本作には、作中に本が登場する映画を沢山ピックアップしており「どれも好きな作品。特に大好きなのはジャン・ルノワール監督による『素晴らしき放浪者』(1932年)」だと挙げた。

 

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現在の本を取り巻く状況については本作でも取り上げているが、日進月歩の技術的な進歩を考えた時、D・W・ヤング監督は「電子書籍が増えており、さらなる発展があるだろう。だが、絶対にカバーできないものがある」と説く。「伝統的なものや我々が大事にしてきたものは確かに残っている」と気づいているが、コレクターによる視点で俯瞰すると「正直云えば不安。全く無くなっているわけではないが、数は減っている。SNSをはじめとするインターネットが私達の時間を奪うように、興味の方向を変化させている。希少本に対する将来は心配」と危惧する。とはいえ「物理的に手にとって見れるものにたいしては拘りがないわけではない。本が全く無くなるとは思えない」と断言。あくまでアメリカの状況を知り得る限り伝えてもらったが、日本の現状については「書籍文化は確固たるものが残っている、と聞いている。これから日本がどうなるか、私には語れません」と謙虚な姿勢を示した。日本からは断捨離や近藤 麻理恵さんによる片付けブームが世界にも飛び火しているが「一時的なインパクトはコレクター達には関係ないかもしれない。集めていくことは富の象徴でありビジネスとしても成立している」と冷静に受けとめている。「ミニマリズムの動きは実際に希少本のコレクターの中では少ない。必ずしも影響しているとは限らない」と指摘し「トレンドは周期的にやってくる。20年経過すると、持っていることは富の象徴だと云われるかもしれない」と長期的な観点を以て解説していく。

 

また、 現在のアメリカにおけるトレンドとして、本のキュレーターが選び小さな古書店のオーナー達が好きなものにフォーカスして販売している店舗が登場してきており「現代は、あまりにも情報が多いので、どれが良いのか分からない人達が沢山いる。彼らの手助けとして参考になる」と理解しており「お客さんが欲しい情報を提供してくれることに特化した本屋さんが増えてくるのではないか」を予測している。なお、現在のコロナ禍に関する影響については「彼等も経費がかかり大変で苦労している。店頭よりオンラインで沢山販売できている方もおり、Amazonを活用した動きにもなっている」と現在の状況を真摯に受けとめていた。

 

映画『ブックセラーズ』は、4月23日(金)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田、京都・烏丸の京都シネマ、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸をはじめ全国の劇場で公開。

ブックセラー達が主役である99分間の作品。本好きな人達の”あるある”現象だが、写真や映像を見る時、手前に映っている主たる被写体よりも背景にある本や本棚にどうしても目がいってしまう。美しい書店、図書館、どこまでも本が連なるコレクターの倉庫などが背景に映りこんでいる。観ている最中はワクワクが止まらなかった。とにかく画面が美しく、その美しさに英語表記の「Booksellers」がよく似合う。字幕を読むことに集中してしまうと、映像を堪能できないことが悔しくなる。

 

作品の前半では、希少本や装幀に贅を尽くした年代物の本など、あたかも美術品として扱われる本について語られる場面が続いていく。凄い方々のお話に対して誰かの目を通して、目的を以て集められたコレクションに大きな意義があることは紛れもない事実。後半になると、1990年代のヒップホップのコレクターの女性が登場し、映画がグッと身近になっていく。やはり主役は、背景の本棚ではなく、本を売る「人」たち。紙の本が無くなってしまうと憂うる意見を聞くこともあるが、本を売る人達が楽しいと思っている限り、本はそこに有り続ける。最後に、くれぐれもエンドロールの途中で席を立つことなかれ。

from風文庫店主

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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