私の根っこにある部分を描き、スクリーンに映して頂いた…『グッドバイ』福田麻由子さんと宮崎彩監督を迎え舞台挨拶開催!
母親とふたりで暮らす少女がとあるきっかけで父親の記憶を思い出し、心情の変化や葛藤を抱いていく様を描く『グッドバイ』が4月16日(金)より関西の劇場でも公開中。4月17日(土)には、大阪・九条のシネ・ヌーヴォに福田麻由子さん(リモート)と宮崎彩監督を迎え、舞台挨拶が開催された。
映画『グッドバイ』は、是枝裕和監督のもとで映像制作を学んだ宮崎彩さんの初長編監督作品。郊外の住宅地で母と2人で暮らすさくら。仕事を辞め、一時的に保育園で働くことになったさくらは、園児の保護者である新藤と出会う。やがて、さくらは新藤に幼い頃から離れて暮らす父の姿を重ねるようになる。ある晩、新藤家で夕飯を作ることになったさくらは、父親に関するある記憶を思い出す。一方、さくらの母は古くなった家を手離すことを決めるが…
主人公さくら役を『蒲田前奏曲』やNHK連続テレビ小説『スカーレット』の福田麻由子さんが演じる。
上映後、劇場に宮崎彩監督、リモートにて福田麻由子さんが登壇。ようやく劇場公開を迎え、感慨深い舞台挨拶となった。
2018年3月に撮影された本作。当時、大学生だった宮崎さんは長編監督の経験がなく「卒業までに、モノづくりがしたい」と1人で企画を立ち上げた。企画を書いていくなかで、主人公をさくらという1人の女性にしたが「器用で何でもこなせるが熱がない人に関する人の話を作っていくうちに、自分がテレビや映画で幼少期から見てきてた福田麻由子さんという女優のパブリックなイメージと現在のイメージが自分の中でリンクしている」と気がつき、あて書きを進めていく。福田さんは「20代の方がゼロから映画を作る時に、私のことを思い浮かべて頂いた」と嬉しく感じた。「3年前の撮影当時、私は人生に立ち止まっていた時期だった。仕事も全然していなかった時期にお話を頂き、プレッシャーもあった」と振り返るが、嬉しさが大きく「この映画に声をかけて頂いたことで、前に進み始めることが出来た」と感謝している。
現場での福田さんについて、宮崎監督は「異論をあげることがなかった。来てくださった時から、福田さんはさくらだったので、演出について一からお願いする必要がない。役を生きてもらった」と思い返す。福田さんは、今作への出演にあたり「どこまで自分の好きじゃないことや恥ずかしいと思うことが出せるか」と決意して臨んでおり「脚本の段階で、監督は私の根っこにある部分を描こうとしてくださっている、と感じた。ぜひ表現できたらいいな」と果敢に演じた。完成した作品を観て「監督が私の根っこの部分を映してくださっていた」と気に入っている。
(C)AyaMIYAZAKI
ここで、お客さんからの質問として、見せたくなかった部分について問われると、福田さんは「家族や子供時代について良い気持ちを持てていない部分があり…」と告白。「家族に良くしてもらっていたし大好きだし、子供時代にいじめもなく仕事も好きだったし、嫌なことがあったわけではなく、狭いところに閉じ込められているような気持ちで自分で勝手に自分を縛っていたところがあった」と述べ「状況は違えど根っこにある部分は、さくらと似ている」と実感したことを話す。「自分の子供時代や10代を狭い場所で生きてしまったことに対してコンプレックスや後悔があり(楽しいことも沢山あるんですが)勝手に不自由な感覚が、さくらとは通じ合うものがある気がして、家族や家についての私の記憶とさくらの家が似ている」と共感を示し「温かさも冷たさもあり、なにか寂しい感覚もあり、家にいる私を覗かれているような気がして恥ずかしい気持ちです」と素直に語った。
脚本に取り入れたエピソードについて聞かれ、宮崎監督は「一人っ子や、父親がある期間は不在ということは、私の環境に近しいが、つながらないところも多くある。パーソナルな話ではあります」と打ち明け「私自身は、子供の頃から大人の顔色を伺う子供だったので、大人のことを考えながら子供と話す子供でした」と振り返る。また「分からないものは丁寧に描こうとしています。共感を得られる話ではないかもしれない」と控えめに話しながらも「分からないと思ったとしても、さくらが過ごした季節の一時の時間を皆さんの中に置きたいと思い脚本を書きました」と真摯に応えた。
改めて、撮影現場を振り返り、宮崎監督は「若いスタッフがメインだった。当時20代の方が多く、学生やフリーランスと様々でした。皆が同じものを作ろうという意識が強かった。小さな自主映画だったんですが、一緒に作っている感覚が強かった」と思いを語る。福田さんは「現場にいる人達の意識がずれてしまうと、作業になってしまう。一番大事な作品の根っこから離れてしまうような空気が流れることが寂しいと思うことが多い。誰一人欠けても現場が回らない。気持ちで作品を作る、現場にしかない熱があったな」と思い返し「良い経験になりました。この熱量をどんな大きな現場でも持ち続けること忘れたくないと改めて教えてもらった」と感謝の思いを込めて語った。
- キネ坊主
- 映画ライター
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