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新宿タイガーはフィクションの世界を自ら作っている…!『新宿タイガー』佐藤慶紀監督に聞く!

2019年4月10日

新宿で虎の面を被り、新聞配達をしている街の有名人、通称“新宿タイガー“にスポットを当てたドキュメンタリー『新宿タイガー』が4月12日(金)より関西の劇場で公開される。公開を目前にした今回、佐藤慶紀監督にインタビューを行った。

 

映画『新宿タイガー』は、虎のお面を被って40年以上新聞配達をし、新宿の街ではおなじみとなっている1人の男性を通して、新宿という街の魅力に迫ったドキュメンタリー。派手な服装に虎のお面、デコレーションが施された自転車にまたがり、長年にわたり新聞配達を続けている通称「新宿タイガー」。彼は24歳だった1972年にタイガーとして生きることを決意する。彼がなぜその決意にいたったのか。彼が勤務する新聞配達店や新宿ゴールデン街の店主、タイガーをポスターに起用したタワーレコード新宿店の関係者、俳優の渋川清彦さん、八嶋智人さん・宮下今日子さん夫妻など、彼をよく知るさまざまな人びとへのインタビューから、新宿タイガーの人物像、そして彼を受け入れる新宿という街に迫っていく。
監督は『HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話』の佐藤慶紀さん。ナレーションを寺島しのぶさんが担当。

 

本作の小林プロデューサーが新宿の映画館で新宿タイガーをよく見かけており、佐藤監督に、ドキュメンタリー映画の依頼があった。オファーを受け、佐藤監督は「撮ったらおもしろいだろうな」と快諾する。まずは、小林プロデューサーが新宿タイガーにコンタクトをとろうとするが、連絡先の入手に2ヶ月もかかってしまう。ようやく3人で会ったが「3時間もタイガーさんが喋っていた。1つ聞いたら100も返してくる。それを3回行ったが、聞きたいことは聞けなかった」と苦労を重ねていく。

 

ドキュメンタリー用の撮影は200時間程度になった。ほぼ新宿タイガーがほぼ映っているが「タイガーさんが話している姿を気配を消して撮っているだけ。使いたい会話はなかなか出てこず、待つ作業がほとんど」と打ち明ける。「出来るだけ自然で気持ちいい状態でタイガーさんにカメラの前にいてもらい、出てくるものを拾っていきたい。彼を知るために出来るだけ素の状態で話しているところが観たかった。こちらが問い詰めていっても教えてくれない」と大変な撮影が続いた。それでも、構成を考えながら撮影しており、編集段階では「大事なポイントを作り、それに当てはまる会話やシーンを当てはめていく」と手法を解説する。だが「ずっと喋っている。欲しい映像がどこにあるか分からなくなってくる」本作で使う映像を探すことも大変だった。

 

なお、本作では、新宿タイガーは、マスクの下の素顔を披露している。佐藤監督も「素顔を見せたくない人かな」と思っていた。「話せる間柄になったら、素顔を見せる。強い拘りはない。外を出歩くときはマスクをつけていたいようだ」と解説する。新宿タイガーの自宅も気になり「タイガーさんは来てほしくないようだが、なんとか撮りたい」と考えていた。だが、ある時から「タイガーさんの私生活は見せることはこの映画では相応しいのか」と感じていく。「タイガーさんはフィクションの世界を自分で作っている。実態を明かすと納得されるだけで終わってしまう」と、新宿タイガーの世界観を守ることにした。

 

佐藤監督は、新宿タイガーについて「映画が大好きな方。特に、高倉健さんが大好き」だと伝える。「映画は理想の人物を描く。僕らはそれを見て、こういう生き方が格好いいなと思うが、現実的には同じようには出来ない」と述べた上で「タイガーさんは理想の人物のまま生きようとしている。健さんの任侠の世界の一本筋の通った男の生き方を現実世界で生きようとしている。常人には出来ない」と称えた。新宿タイガーを含め、様々な一風変わった方を作り出す新宿という街に対し「表現している人は、昔から様々な箇所でいたが、新宿は昔からやりやすい雰囲気を持っている街。表現できる街だからこそ集まっていった。危険な香りが人を惹きつける」と捉えている。

 

初めてのドキュメンタリー映画となったが、佐藤監督は、TVの仕事ではドキュメンタリーを作っていた。今作は、1年かけて撮影でき「贅沢な時間だった」と満足している。「ドキュメンタリーは対象の方がいて、フィクションのようにはコントロールできない。より観察しつつ探求していく」と考えており、今作を制作し「ドキュメンタリーは、対象の方への好き嫌いが半々で良い。客観的に観れる」と実感。新宿タイガーは気難しい人だと思ったこともあるが、最終的には「彼が好きになった。タイガーさんに知り合えて嬉しかった」と満足している。

 

映画『新宿タイガー』は、4月12日(金)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で公開。また、5月25日(土)より、九条のシネ・ヌーヴォと神戸・元町の元町映画館でも公開。また、京都・出町柳の出町座でも近日公開予定。

 

タイガーさんのような一風変わった人達を街中で見かけることは多く、どこかタイガーさんを身近に感じる部分があり、このドキュメンタリーの持つ魅力にどんどん引き込まれていった。タイガーさんのような街に1人はいそうな男性も世間一般では「社会から逸脱した人」というイメージがあるかもしれないし、タイガーさんを見てどこか心の中でそう感じてしまってる人にこの映画をオススメしたい。

 

何より驚いたのはちゃんとタイガーさんは働いていること。タイガーさんは毎朝新聞配達をし、休みの日は映画を観るし、居酒屋にも呑みにいく。私達となんら変わらない普遍的な日々を過ごしている。今を生きる我々の中に無意識下に存在してしまっている他者への壁はこの映画には存在しない。タイガーさんの性格や人の良さがあってのことなのだろうが、周りの人たちの優しさが観てるこちらにまで伝わってくる。特に、タイガーさんは褒め方が上手で、観た映画の感想にしろ美女に対する発言一つにせよ、その褒め方一つ一つを劇中では注意深く聞いてほしい。誰も傷つくことがなく、それゆえに彼の周りには様々な人が寄ってくる。中には芸能人や映画監督もいるから驚くしかない。決して大袈裟なことではなく、生きていく上で他人から愛されるということの真理を「新宿タイガー」という1人の男性を通して知れたような気がする。

 

生きていて普段何気なくスレ違う人々それぞれにそれぞれの物語が当然のようにあり、そこにフォーカスするだけでここまでおもしろくなるのか。何よりも本作を観ていると、タイガーさんのストーリーだから特別なのではなく、無作為に抽出した1人の男性の生き様を追ってるかのような感覚に陥いった。その瞬間こそ、我々の中で他者への壁が取り除かれ、偏見という枠組みから解放された瞬間であることを感じることができる。

fromねむひら

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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