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宗教的なテイストに騙されないで、現代アメリカの病理を観てほしい…『魂のゆくえ』牧師の青木保憲さんに聞く!

2019年4月11日

戦争で息子を失い罪悪感を抱える牧師が、教会の悪事に気づき、信仰と怒りの狭間で揺れ動く様を描く『魂のゆくえ』が、4月12日(金)より全国の劇場で公開される。今回、映画にも詳しい牧師である青木保憲さんに本作について伺った。

 

映画『魂のゆくえ』は、『タクシー・ドライバー』『レイジング・ブル』の脚本家であるポール・シュレイダーが構想50年をかけて完成させた人間ドラマ。戦争で息子を失い、罪悪感を背負って生きる牧師が、教会の抱える問題を知ったことから信仰心が揺らいでいく姿を描いた。ニューヨーク州北部の小さな教会「ファースト・リフォームド」の牧師トラーは、ミサにやってきた女性メアリーから、環境活動家である夫のマイケルの悩みを聞いてほしいと頼まれ、彼女の家を訪れる。そこでマイケルが地球の未来を憂うあまり、メアリーのお腹の中にいる子を産むことに反対しているという話を聞かされる。また、トラーは自身が所属する教会が環境汚染の原因を作っている企業から巨額の支援を受けていることを知り…
『6才のボクが、大人になるまで。』のイーサン・ホークを主演に迎え、『レ・ミゼラブル』のアマンダ・セイフライドが共演する。

 

本作は、ポール・シュレイダーが監督・脚本を担う作品。『タクシードライバー』や『レイジング・ブル』等、1970年代にマーティン・スコセッシ監督らが中心に活躍時代に脚本家として携わってきた。青木さんは「当時のテイストをさらにグッと大きくし、監督として突き詰めていきたいポイントを大きく引き伸ばしている」と感じている。多くの大物俳優を起用したアクションにとらわれていない作品だが「実は観客の内面をキリキリと締め上げる作風にしている」と受けとめた。

 

映画の冒頭は、曇った空気感の中でローアングルから教会を捉えていく映像から始まる。青木さんは、アメリカ大陸が発見された時代を起因にしながら「将来がどうなるか分からない中で地を這うごとく大陸にやって来た。やがて沢山の教会ができ、キリスト教を基にしてアメリカが立ち上がっていき、権力者によって牛耳られている現在をイメージしている」と説く。さらに、曇ったテイストのある映像について「完全な白黒をつけにくいことが繰り広げてられていく」と物語の展開を暗示させた。

 

日本の教会は、チャーチ(礼拝が毎週行われているようなパブリックな教会)のイメージが占めている。だが、アメリカではコミュニティとして存在しており、教会に通う方は熱心なクリスチャンであるという考えはイメージでしかない。実際は、大気汚染をしながらお金を儲ける企業が教会に多額の献金を行い都合のいい振舞をしているのが実態だ。幼い頃から教会に通い、大人になれば教会で結婚して家庭を作り、コミュニティ(共同体)が成立していく。大きな共同体は2000人以上の規模となり、メガ・チャーチと呼ばれ、数百もある。日本のキリスト教会だと平均34,5名、全く規模が違う。青木さんは「宗教的な映画だから自分達は関係ない、と思う日本人がほとんどだと思います。でも、宗教的なテイストに騙されないで、現代アメリカの病理を観てほしい。私達の社会にも同じような不条理がある」と訴える。

 

原題の「First Reformed」に込められているリフォームド教会とは、宗教改革で、ルターがルーテル派をつくり、その流れに対して改善したいと思った人々がヨーロッパ各地で作った教会。その流れでオランダ人が作り、大西洋を渡り、アメリカ大陸に到着し最初に作ったのが「First Reformed Church」である。彼らにとっては、自分達の新しいことや時代に合った、時代の最先端の象徴だった。だが、本作が映し出すように、250年を経て、教会は大きくとも数人が集まっているだけの状態。礼拝で語られている内容は250年前と変わらないが、形式的になっている。教会の背後には、ホスピタリティが充実したメガ・チャーチが実権を掌握していた。この現状に対し、青木さんは「First Reformed Churchの精神性や斬新なものは廃れており、物質主義に全て食い尽くされている。250年を祝うイベントにこそ伝統や権威が象徴されている」と解説する。

 

トラー牧師の立場を鑑みた青木さんは「僕はメガ・チャーチに迎合していく側にならざるをえない。本心ではそう思ってなくても、そうすることになるんじゃないか」と告白していく。さらに、ポール・シュレイダーが描いてきたキャラクターを踏まえ「彼は意気地がない。それでも、心の中では正しいことをしないといけないと思っている。そこに『タクシードライバー』や『レイジング・ブル』に共通するものを感じる」と表現する。トラー牧師の言動に対し「彼は語る事すらできない。だが純真である」と捉え「メガ・チャーチは『物質主義の何処が悪い』と考える。そのせめぎ合いは神学的にみればおもしろい」と分析していく。この社会構造について「現在のアメリカを象徴している。トランプ政権に対する隠喩的な非難が入っている」と受けとめている。さらに、映画だからこそ私達に訴えてくるメッセージがあると考え「自分の幸福を満たすために人は生きていいんだ、というアメリカの考え方に日本人も追随している。我々はアメリカナイズされている」と、日本の在り方にも言及した。

 

なお、『魂のゆくえ』という日本版タイトルについて、青木さんは「ダブルミーニングを込めた良いタイトル」だと評する。「トラー牧師がどうなってゆくのか。トラー牧師が挑んだ戦いはメアリー以外からは理解されないので、世間の魂はどこにゆくのか」と意味を挙げながら、さらには「本作を観て、我々自身がどこにゆくのか」と想像していった。最後に、これから作品を鑑賞するお客さんに向けて「作品の本質を理解するのは難しいですが、宗教的な装美に騙されないで、実は私達が持つピュアな思いと大衆に紛れた時の私達の行動の対比だと思って観ると、日本人にも分かりやすい物語になるんじゃないかな」とメッセージを送り、本作のおもしろさが伝わることを願った。

 

映画『魂のゆくえ』は、4月12日(金)より、大阪・梅田のテアトル梅田、なんばのなんぱパークスシネマ、京都のMOVIX京都、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸をはじめ、全国の劇場で公開。

言葉で表すのが難しいほど濃厚で狂気的な時間を過ごした。

 

アカデミー賞脚本賞にもノミネートされている本作。ポール・シュレイダーによる脚本も勿論凄いのだが、主演のイーサン・ホークの演技も秀逸。対話のシーンが多く、途中はドキュメンタリー映画を観ているような錯覚にまで陥ってしまう。トラー牧師の内に秘められた狂気が徐々に体外に漏れ出ていく様も見事。トラー牧師と話を交える環境保護活動家のマイケルは「将来この地球に娘が生まれた時に〝わかってて産んだの?〟と聞かれるのが怖い」と話す。この時、自分もトラー牧師と同じく、マイケルをどう説得させればよいのか、と頭を抱えたので、印象深い。

 

人類がこのまま歴史を重ねた時に恩寵はあるのか?苦しませるくらいなのであれば最初から生まない方が良いのではないか?映画を見終えたがこの部分に未だ明確に自分は答えを出せないでいる。本作は、宗教映画という括りではなく、現実の問題も交えながらトラー牧師の心の葛藤を描きながら物語が進行するのでおもしろい。そして、映しだされる映像のアスペクト比率も珍しく、ビデオカメラで撮影したかのような雰囲気も相まって、トラーの葛藤の日々を神秘的でありながらどこか日常的な状態で見せてくれる。

fromねむひら

 

どの場面も比較的シンプルだが、会話の情報量がとんでもない。宗教色がかなり強い作品になっていて、キリスト教に疎い私には理解しきれなかった表現が数多くあったが、死に救いを求める気持ちが理解できた。

 

狭い画角の中で動く人物をあえて追いかけず、奥行きを感じさせる撮り方が秀逸。前半がBGMが一切流れないこともあり、終始写真を見ているようだった。そして、イーサン・ホークの演技が本当に素晴らしい。決して表情は豊かではないのに、溢れんばかりの怒りと闇を感じ取れた。さらに、衝撃のラスト!正直あのシーンで半分くらい記憶が飛んだので、もう一度じっくりと観たい。

fromナカオカ

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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