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”見てはいけないもの”を見てしまったら、どのように主体的に行動するか…『おろかもの』芳賀俊監督と笠松七海さんに聞く!

2021年3月4日

結婚を控えた兄の浮気を知った女子高生と、その浮気相手の女性との間に芽生えた奇妙な共犯関係の行方を描く『おろかもの』が関西での劇場で3月12日(金)より公開。今回、芳賀俊監督と笠松七海さんにインタビューを行った。

 

映画『おろかもの』は、若手監督の登竜門として知られる田辺・弁慶映画祭の2019年(第13回)のコンペティション部門でグランプリを受賞した長編作品。同映画祭ではグランプリのほか、主演の笠松七海さんと村田唯さんの俳優賞や観客賞など5冠に輝き、第16回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の長編コンペティション部門でも観客賞を受賞するなど、多数の映画祭で高い評価を得た。結婚を目前に控えた兄・健治の浮気現場を目撃した高校生の洋子は、好奇心に突き動かされて浮気相手の女性・美沙と対峙するが、美沙の独特の柔らかさや強さと脆さにひかれていく。そして衝動的に、洋子は美沙にある共犯関係を持ち掛ける。

 

塚田万理奈監督の『空(カラ)の味』で撮影を担った芳賀監督は「笠松七海が素晴らしい。何かを見ていることが魅力的に映える素晴らしい女優。彼女を主演にして映画を作れないか」と考えていた。脚本家の沼田真隆さんと話しながら「脚本を書いてみるよ」と応じてもらい「”見てはいけないもの”がある作品がおもしろい」と発案。兄弟に関するストーリーにしようと「近い存在であり、批評性も生まれる存在。見てはいけないものを見てしまって、どのように主体的に彼女が行動していくか」と話を膨らませていく。「日本の社会や映画やドラマを見ていると、浮気相手の女性が悪者にされる傾向にある」と世論の乏しさを鑑みており「記者会見等で不倫した芸能人に対して物凄く石を投げて殺してしまうような勢いで、公開処刑のようなことが起きている。状況は変わらず、更に酷くなっている」と悲観せざるを得ない。「怒りや悲しみがある中でも人間はしっかりと生きている」と受け止め、相互理解がある作品を求めていった。

 

出来上がった台本を読んだ笠松さんは、自身に対する当て書きだと認識しながらも「洋子には自分に近いものがある。でも、洋子は17歳。撮影当時の私は20歳だったので、その3年の間に私が学んだり成長したりしている部分がある」と踏まえ、洋子の幼さや至らなさを理解していく。もし主人公の洋子が実在したら、と考えてみると「洋子と同級生だったら、けっこう仲良くなっているんじゃないかな」と想像し「よく観察している子。私も人の動きを無意識に見ている。そんな共通点で、面白く盛り上がれるかな」と興味津々。兄の健治や浮気相手の美沙がいたら、と思い浮かべてみると「高校生の時に出会っていたら、変な大人もいるもんだなぁ、と思う」と冷静に捉え「今、23歳で出会っていたら、夫々の痛みが分かるようになっているから、共感して完全に悪だと思えないかもしれない。仲良くなるかどうか分からない。でも、その痛みを感じてしまうことがある」と我が身を以て話す。

 

なお、洋子の友人である小梅は重要なキャラクターとして描かれている。芳賀監督は、観客に近い位置にいる人物として描いており「人生は近い視点で見たら悲劇だけど、離れて見たら喜劇だった」という格言を挙げていく。本作について「健治を中心にした近い円の中だと重苦しく痛くて悲しい大変なことが沢山起きている。カルマに囚われた人達が沢山登場してくる」と説き、小梅の存在によって「離れたところで”自分には関係ない”と見ることで、重苦しい部分を中和できる」と考えた。「高い緊張感を緩和させる魅力あるキャラクターでないと出来ない」と理解し、演じた葉媚さんについて「魅力的で、可愛らしい方なので、緩和する存在として有り難い」と感謝している。また、健治を演じたイワゴウサトシさんとは以前からの知り合いで「魅力的な人。人たらしで憎めない人」と信頼しており「映画では、憎まれてしまう悪役の存在。イワゴウさんの憎めない魅力ある笑顔には惹きつけられる。イワゴウさんに演じてもらうことに賭けた」と明かした。

 

撮影について「秒単位で30~40個のことを考えないといけない」と率直に話し「太陽の動き含め撮影条件だけでも何十個もあるのに、小道具の状況や轢いているレールの速度やフォーカスのタイミング、カメラの絞り、レンズなど撮影条件だけでもこれだけある。さらに役者の動きも考える。そういう状況を疲弊した状態で沢山の物事に同時に立ち向かうことは絶対に無理」と解説。「僕達は撮影前にどれだけ考えるか。大事故を起こした場合、こんなことで映画をの素晴らしい演技や物語やテーマが停滞すると思っただけで、自分の中で許されない」と律しており「物凄く準備して沢山のことを精密に決めて、事前に戦略を考えておけば、変なトラブルが起きづらくなる。起きても対処できる」と自信がある。「戦略を考えておけば、柔軟な発想ができ上手く対応して、さらにより良くおもしろいシーンが出来上がる。順調にいくための準備を沢山して計画以上の出来事が沢山起きて、奇跡を呼び起こす環境を作っておかないといけない」と最善を尽くしており「奇跡は予期せぬタイミングで沢山起きている。涙がこぼれ落ちるような瞬間でした。沢山の素晴らしい瞬間が訪れて捉えられたことは幸せなこと。良い現場だったな」と振り返った。撮影中の芳賀監督について、笠松さんは「私には言葉での演出が少ない。私が迷った時に相談したら応えてくれる。撮影前に演技や表情について指示せず、カメラの後ろから求めている」と感じており、意図をしっかりと読み取っている。芳賀監督にとっては「一緒に踊っている感覚」であり「彼女の踊りに合わせて僕も一緒にダンスしている。僕の願いを汲み取って演じている」と信頼しており「想像もしない表情や動きを毎回してくれるので、自分の構想を決めた時、思い描いた理想像を遥かに上回ってくれた時は嬉しく、積み重なって大きな作品が出来ました」と納得がいく仕上がりとなった。

 

現在も「世の中にはおかしなことが沢山ある」と捉えている芳賀監督は「伝えたいことの数だけ人を楽しませないといけない。様々な方法で楽しませながら、より多くのことを届けられたら」と願っており「観る前と観た後で違うところが生まれたらいいなと思える映画を沢山作っていきたい。笠松七海はミューズ、死ぬまで撮っていたい」と力説。笠松さんは「映画や映像を作る現場で物語を作る一員になれるのは楽しいので、現場でずっと働いていたい」と望んでおり、芳賀監督の期待を受け「また現場でご一緒する際には衰えず進化してビックリさせたい」と未来を見据えていた。

 

映画『おろかもの』は、3月12日(金)より京都・九条の京都みなみ会館、3月13日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォ。4月17日(土)より神戸・新開地の神戸アートビレッジセンターで公開。

婚約中の兄の浮気を知り、モヤモヤした気持ちを抱える主人公の洋子。あらすじを読むと、兄の不貞行為を暴き、浮気相手に制裁を加えるために立ち上がる!?……なんて展開を想像するが、正論を振りかざすことはしないのが本作のおもしろさ。一人の男性をめぐって生まれる女たちのバトル?友情?いやいや、感情はそんなにシンプルではないわけで。

 

今作のようなの愛憎劇はおそらく誰しもの身近なところに潜んでいるが、婚約者でも浮気相手でもない、妹という立場から物事を見たとき、物語は少し違った様相を帯びてくる。たった一人の肉親である兄の結婚を手放しに祝福できない洋子にとって、婚約者の果歩は疎ましい存在。一方で浮気相手の美沙に対しては、敵の敵は味方とでも言うべきか、同情に近い気持ちを抱いていく。洋子の視点を軸にストーリーは展開されるものの、果歩と美沙のキャラクターも丁寧に描かれており、それぞれどこか共感できる。おそらくスクリーンの中の彼女達も、お互いに憎しみきれない部分があるだろう。むしろ憎んでくれたら、憎ませてくれたらどんなに楽だろうかと思うが、それができないのは彼女たちが揃って同じ男性を愛しているからだ。(当の本人は蚊帳の外なのがまたリアル!)

 

水面下の静かな修羅場を描き、複雑な恋愛をしている人なら心をえぐられるような台詞も飛びだす本作。自分の中に「おろかもの」を抱える人は是非、心して劇場に。

 

「不倫」とは、倫理・社会的に”良い”とは決して言えない関係である。その関係を結んだ二人が幸福になることはほぼ無いだろう。現代の日本社会において「不倫」と聞くと責任の所在が女性の方に集まる印象だが、本作では一貫して不倫をする兄を一番の悪者(おろかもの)として描き切っている。

 

今年の映画ベスト10に入るくらいの破壊力(魅力)を持った映画だと断言してよい。インディーズ映画さながらのザラついたカットとありのままのようなキャラクターのアップの画、感情をそのまま乗せたかのような劇伴に、えも言われないほど感情を揺さぶられた。そして、何よりも愛人を理解しようとする主人公、洋子の存在感が群を抜いて秀逸だ。彼女は何を思ってか、兄の幸せを引き裂こうとする愛人である美沙に会おうと試み、悪者だと決めつけていた彼女と真っ向から対話しようとする。「愛人」について、あえて第三者目線で描いていることに他の映画にはない新鮮さを感じた。洋子が美沙を通して「真っ当な人間」とはなんなのかを考え、本当に彼女は悪い人間なのか、彼女自身を見つめようと心を動かしていく描写が愚かで、どうしようもなく愛おしい。

 

「おろかもの」は兄であり洋子でもあって美沙にも言える。全員が全員、それぞれ違ったおろかもの。そして、美沙という人物に共感し、繋いだ手を離さないでくれと洋子に願う筆者もまたおろかものである。こんなに機微に富んだ映画を今年早々に拝見できるとは…

from君山

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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