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説明過多にしなくとも作品のメッセージはキャッチされていく…『ソワレ』外山文治監督に聞く!

2020年8月25日

偶然出会った若い男女の、それぞれの焦燥と出会い、逃避行を描く『ソワレ』が8月28日(金)より全国の劇場で公開。今回、外山文治監督にオンラインでインタビューを行った。

 

映画『ソワレ』は、若い男女の切ない逃避行を描いたドラマ。俳優を目指して上京した翔太は、俳優では芽が出ずに今ではオレオレ詐欺に加担してなんとか食い扶持をつないでいる。ある夏、翔太は故郷の和歌山にある高齢者施設で演劇を教えることになり、その施設で働くタカラと出会う。数日後、祭りに誘うためにタカラの家を訪れた翔太が目撃したのは、刑務所帰りの父親から激しい暴行を受けるタカラの姿だった。とっさに止めに入る翔太、そして逃げ場のない現実に絶望してたたずむタカラ。翔太はタカラの手を取り、夏の街の中へと駆け出していく。
『燦燦 -さんさん-』の外山文治さんが監督を務め、村上虹郎さんと芋生悠さんらインディーズ映画界の注目株が共演する。なお、豊原功補さんと小泉今日子さんと外山監督らが立ち上げた映画制作会社である新世界合同会社の第1回プロデュース作品となった。

 

「豊原功補さんと小泉今日子さんが拙作「外山文治監督短編集」を観てくださり、私が自主製作で宣伝から配給まで手掛けていることを知り、『なにか手伝えることがあれば』とエールを頂きました」。偶然にもその翌日、和歌山での映画制作をオファーされた外山監督は7年ぶりの長編映画に挑むにあたり「ただの商品開発ではなく、この挑戦を一緒になって戦ってくれる人が必要」だと認識し、既存の制作会社に頼らず、豊原・小泉両氏にプロデュースを託すことを選択した。

 

脚本執筆にあたり、主人公の翔太は村上虹郎さんを前提に書いており「短編『春なれや』に出演してもらい、おもしろい表現者だなと感じました。『いつか長編映画をやりたいね』と彼にも話していました」と外山監督は明かす。二年越しに叶ったが「ただ約束していたからだけではなく、今の若者の葛藤や普遍的な悩みを表現する若者の象徴や肖像を背負って頂くには最も適している」と、起用の理由を話す。さらに、村上さんについて「大人なんですよね。若手俳優に対する目線で見ていない。1人の自立した表現者として向き合っている」と評した。

 

7年ぶりの長編映画に対して、短編映画とは全く違うことを実感しており「短編の枠を外して自由に表現出来たことは沢山あります。長編でしか描けないテーマがあり、ふさわしいストーリーを描きました」と振り返り「マラソンをしているような気持ちでしたね」と思い返す。まさに心身を削りながら制作しており「相当痩せますよね。3週間も続けば変化があります」と吐露。監督の立場として「自分が書いて撮るので、俯瞰して全体を見る必要がありますが、今回は皆で一緒になって戦っているようでした。役者と同じ目線で事件や逃避行と向かい合っていたので、削れていきますね」と冷静に語っていく。

 

1年がかりで本作の脚本を執筆しており「最初は台詞がそれなりにありました」と打ち明ける。商業的映画の脚本として書いていたが、プロデューサーの2人から「短編で今までやってきたものを発揮してほしい。それが外山の作家性だ」と云われ、改定する毎に台詞が少なくなっていった。「伝えたいことを説明しないので、お客さんが掴むしかない。でも、きっとキャッチしてくれるだろう」と信頼を以て撮影に挑んでおり「説明過多にしなくても、お客さんはきっと感じ取ってくれる。補ってくれることを念頭に置いた画作りですね」と解説。翔太が演じている芝居がチェーホフの戯曲『櫻の園』であり、タカラがいた施設の名前が「櫻の園」でもあり「誰にも気付かれないような運命の結びつきを、密かに仕掛けているところはありますね。そして結末を知ったうえで2回目に観た時にすべてのシーンが違って見えます。言葉に様々な意味があり、視点が変われば、全く違う受けとめ方が出来るシーンを作っています」と明かした。また、タカラの過去に関するフラッシュバックやネガティブな要因によって引き起こされるものとしてファンタジックな映像表現を使用し、ポジティブ寄りのシーンでは、可愛らしい幻想の世界を演出している。外山監督は「彼女が心の世界に入り込むことで、今まで辛い人生を生きてきたことを明確に示している。翔太への淡い想いもあります」と提示し「彼女はトラウマによって肉体的接触が出来ないですが、それでも密接でいたいという想いをシルエットを使って描いた」と女性の心象描写における影の重要性を説く。

 

なお、現在の状況に対して固唾を飲んで見守らざるを得ない心境ではあるが「『ソワレ』が放つメッセージの重要性は強くなっている」と受けとめている。自らの作品について「閉塞感を感じる人間をいつも描いていますが、世界的に行き詰まってしまった。皆の明日が見えないことも含めて、今だから観てほしい映画になってしまった」と痛感しており「こういったメッセージをキャッチして下さる方は増えるんじゃないか。だから今上映するべき」と今後も強く訴求していく。次に手掛けたい企画は沢山あり「相変わらず短編も企画しますし、短編や自主では出来ない規模の作品を考えていく。でも『ソワレ』がどう受けとめられ、世の中がどうなっていくか。それに尽きます」と注視しながらも「昔から、どの時代にもある普遍的なテーマが主題になっています。一貫して声が挙げられない状態にある人達を描いていきます」と変わらぬ作家性を貫く姿があった。

 

映画『ソワレ』は、8月28日(金)より、大阪・梅田のテアトル梅田、なんばのTOHOシネマズなんば、京都・二条のTOHOシネマズ二条、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸をはじめ全国の劇場で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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