農場とは何か。ジョンとモリーが手掛ける農場では、生物全てが手を取り合い、個々の役割を担う。害獣であろうと例外はない。全ての力があってこそ生命体としてのサイクルが回る。農場というより自然そのものだ。生き生きとして美しく、鮮やかな色彩で映し出される動植物が印象的であった。人が自然を操るなど到底できないと思い知らされる。ただ自然の力を借りるだけ。シンプルであるが故に難しく、一時として同じ表情がない故に忙しい。だからこそ映画全体を通して時間がリズム良く流れた。時に脅威を感じさせるほどに大きく、時に神秘的、時に儚い。生命の織り成す一瞬一瞬に胸が高鳴った。

伝統農法はダンスである、とアランは言う。共存のダンスだ。彼らの農業を通して地球上の自然を感じ、自分を囲うものの壮大さに驚かされた。自然における一人間の存在は非常に小さく、でも確かに自分もその構成要素なのだと気づく。生命体を成す一員として、私たちが担う役割は何か。誰とどんなダンスを踊れるだろう。スクリーンに映る美しい自然をそのままに保ちたい。壊さぬように、永遠に、多くの生命と手を取り合って踊り続けていこう。

fromため

農家を追うドキュメンタリーかと想像していたが、蓋を開けてみると、ある１組の夫婦が荒れた土地を生き返らせ農場として再生させる壮大な物語だった。地球上の小さな農場の中で、大きな生態系を再現することに重きを置くため、”ビッグ・リトル・ファーム”という作品タイトルが如何に秀逸であるか理解できる。

さて、土地を生き返らすとは簡単に言っても、やはり一筋縄ではいかないのが現実。記録的な干ばつや豪雨による地盤崩れ、様々なアクシデントが夫婦を襲う。トラブルに見舞われる度に多角的な視点で解決しており、映画として観ている我々はとても面白く感じる。夫婦にアドバイスをするアランが言っていた「生物多様性」という言葉が印象的だ。よく考えてみると、ファームの中に１つの大きな自然が存在し、多種多様な生物がお互いにバランスを取り合って命のサイクルを回している。人工的に群や自然環境を整えるのではなく、生物の力を借りて、あくまでも人間は手を添えるだけのようなイメージだ。

はずみ車のように自己永続的で自己制御可能な生命に満ちたサイクルこそが理想だ、と語るアラン。しかし、夫婦は、操ることのできない大自然を前に、命を守ることの難しさに再び直面する。果たして、アランの理想とする全てが循環する環境は実現するのか。本作は自然をテーマとするため、是非とも劇場の大きなスクリーンで夫婦の辿り着く結果を確かめて頂きたい。

fromねむひら