次代を担う長編映画監督の発掘と育成を目指す「ndjc2019」合評上映会!川崎僚監督、島田欣征監督、山中瑶子監督を迎え舞台挨拶開催!
次代を担う長編映画監督の発掘と育成を目指す文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」の2019年度作品が完成し、3月13日(金)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で上映される。本公開に先駆け、2月13日(木)には、合評上映会が開催され、各作品を手掛けた、川崎僚監督、島田欣征監督、山中瑶子監督を迎え、舞台挨拶が開催された。
文化庁委託事業「ndjc(new direction in Japanese cinema):若手映画作家育成プロジェクト」は、次代を担う優れた長編映画監督の発掘と育成を目指し、平成18年度より始まり、今年度で14年目になる人材育成事業。優れた若手映画監督を公募し、本格的な映像製作技術と作家性を磨くために必要な知識や技術を継承するためのワークショップや製作実地研修を実施すると同時に、作品発表の場を提供することで、次代を担う長編映画監督の発掘と育成を目指している。
8月に行われたワークショップから選出され、製作実地研修に進んだ3人の若手監督が、講師による脚本指導を経て、各制作プロダクションの協力のもと、プロのスタッフ・キャストと共に35mmフィルム撮影による短編映画を制作。フレッシュな感性と第一級の確かな技術が作り上げた個性豊かな短編映画3作品が上映される。
上映後、川崎僚監督、島田欣征監督、山中瑶子監督が登壇。意外性に富んだ作品達が勢揃いした今年度作品にはお客さんも湧いていた。
30分の短編を35mmフィルムを用いて限られた予算という条件による制作について、川崎監督は「フィルムは制限がある。デジタルだと何回もテイクを重ねられたり、予備のカットも撮ったりできるが、フィルムでは出来ない」と認識。「如何に最初から計算してカット数を割っていくか。現場で芝居を構築してテスト後に本番を撮り、如何に丁寧に調節していくか」と熟考し、本番では、スタッフとキャストによる一体感に震えた。島田監督は、普段はデジタルでよく撮っていたが、フィルムは初めて。「フィルムの機材が重く機動力が半減する」と覚悟していた。ヒヤヒヤしたが「フィルムに慣れた方が集ったので、予想よりもテキパキと進んだ」と一安心。「カットを言うタイミングは最初はヒヨッてしまい早めにかけてしまってしまいテイクを重ねてしまった」と打ち明けるが「撮影の段階から編集も考え尺の感覚を掴んだ。フィルムの現像待ちのドキドキやラッシュを見た時の安堵からフィルムは愛おしい」と楽しんだ。山中監督は、撮影前にフィルムが有限であると認識し「現場全体で緊張感が漂っているのかなぁ」と心配ぎみ。しかし、スタッフの皆さんから「フィルムで映画を撮るのは最初で最後だろうから好きなようにやろう」とポジティブな空気を受け取った。子役の存在を認識し「子供達にとっては関係ない。意外と良い空気感でデジタルと同じような緊張感で撮れた」と満足している。フィルムの現像後には、音のない状態でラッシュを観る機会を設けており「その時間が凄く良かった。ラッシュを編集で超えられるのか不安があるぐらい良い体験でした」と振り返った。さらに、各作品の着想について語られていく。
『魚座どうし』…
小学4年生のみどりはママと2人暮らし。パパは仕事で外国へ行ったきり、ほとんど帰ってこない。ママの心には穴が空いていて、みどりは自分がそれを埋められないことを知っている。学校へ行けば友達がいるけど、なんだか満たされない。同じく小学4年生の風太の家にもお父さんはいない。お母さんは宗教に熱心で、お姉ちゃんは中学生になって反抗しはじめた。子どもたちは今日も「起きたら何もかも大丈夫になっていますように」と願いながら眠りにつく。
山中監督は「自分の人生がどこで狂ったのかな」と思い返し「小学校4年生辺りだったなぁ」と発見。「自分の身近な大人、母親や先生が役割ではなく一人の人間である」と気付き、当時を振り返りながら、思い書き始めていった。
『あなたみたいに、なりたくない。』…
28歳の地味なOLの鈴木恵は、「婚期を逃した孤独な女性」と陰口を叩かれている先輩・小山聡子のようにはなりたくないと、結婚相談所に入会する。次から次へと婚活男性に会ってみる恵だったが、これまで自分自身としっかり向き合ってこなかったこともあり、相手を見つけられないまま疲れ果てていく。そんなある日、街で偶然会った聡子の自宅へ招かれた恵は、彼女の意外な一面を知る。主演は『2つ目の窓』の阿部純子さん。
川崎監督は、自身の婚活体験がベースになっていることを明かし「主人公と同じ28歳の時、いろんな人に様々に言われる。やはり結婚して子供を産むのが女性の幸せだという古い固定概念が残っている」と説く。「今はもっと自由に好きなことをやっていいはずなのに、まだ根付いている」と憤慨しながらも、結婚相談所に行ったりマッチングアプリも試してみた。されど「でも相手が選べない。なぜか。婚活は結婚相手を探す活動だと思っていたが、自分の生き方とは何なんだろうと考える活動だ」と気づく。「私はそもそも結婚したくなかったんだ」と気づかされ、スッキリとした。「自分が頑張るべき映画や脚本を書くことに専念しよう」と思い立ち「やっと今ここにいる」と認識。現在は「20代の女性は、皆の問題だと感じている。性別や年齢から解き放たれてほしい」と願っている。なお、本作の制作時には脚本指導を受けており、プロの方達に揉まれて、プロダクションでも揉まれて改稿していき初稿とは違う内容になった。当初は「主人公の女の子は、部屋がもっと汚かったりコンビニの春雨スープを食べているような子。先輩の部屋を訪れ丁寧で綺麗な生活をしていて玄米ご飯に焼き魚、という自分が出来ていない丁寧で余裕のある生き方をしていた」という設定で描こうとしていたが「女性目線が強くなりがちになるので、男性の制作サイドからアドバイスを受けて、出来上がっていきました」と振り返る。
『Le Cerveau – セルヴォ -』…
生活苦の中、最愛の息子・蒼太を必死に育ててきた前川早弥。しかし蒼太はネオン症という奇病に冒されてしまう。蒼太を救うための生体移植手術には、投薬を続けた早弥の身体が必要だった。ある夜、早弥は事故に遭い命の危機に陥ってしまう。見知らぬ研究室で目を覚ました早弥は、自分が大東アキという別人の姿になっていることに気づく。次々と起こる異常事態に困惑しながらも、息子を救うべく奔走する早弥だったが…
ndjc作品では、かなりのCG活用は初めてだった。島田監督は、取り組みたい題材が沢山あり「CGやSF、サスペンス、フィルム・ノワールも好きなので、その辺りからテーマは普段の生活から選択しないといけない」と苦しんでいく。「こうだったらいいよねと皆が言う方を選ぼうとする」と認識しており「人の幸せのために自分が我慢しなきゃいけないこと」に疑問を感じていた。「どちらを選んでもシコリが残る。その人自身の我儘で幸せになっていいんじゃないか」と考え、作品のテーマに据えていく。また「ハラハラするサスペンスを見た時に頭を引っ掻き回されながら、エンドロール後に答え合わせするのが好き」だと明かし「分かりやすさとどこまで説明するかの難しさが上手く出来たか不安ではあった」と告白。スタッフが真逆に解釈していたり、新発見があったりすることもあり「僕の技術不足があったかもしれないですが、良い分からなさ具合をやれていたか。理想は6,7割の方が分かってもらえるようになっていれば」と期待している。なお、劇中に登場する研究者を演じた子役が急遽登壇。映画出演はあったが「こんな天才科学者の役を演じるのは初めてでした」だと話し、島田監督について「優しくていろいろと演出をつけて下さるんですけど、オシャレで凄いな」と思っていた。島田監督は「長台詞なのにしっかり覚えてきてくれて、変えた台詞にも対応してくれた。細かい演出にも応じてくれた。どう子供と接していいか分からない中で、共演者にも救われていました」と感謝している。
「若手映画作家育成プロジェクト ndjc2019」は、3月13日(金)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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