濃厚な会話劇を最後まで楽しんで頂けたら…『冬時間のパリ』枚方T-SITEでトークショー付き関西先行上映会開催!
パリの出版業界を背景に、二組の男女の複雑な関係をユーモアを交えて綴っていく『冬時間のパリ』が2020年1月17日(金)より関西の劇場でも公開。12月26日(木)には、大阪・枚方の枚方T-SITEでトークショー付き関西先行上映会が開催された。
映画『冬時間のパリ』は、冬のパリを背景に、もつれた2組の男女の愛の行方や幸せを模索していく姿を、洗練された会話やユーモアとともに描いた恋愛ドラマ。編集者のアランは、押し寄せる電子書籍ブームの時代に順応しようと奮闘していた。そんな中、作家で友人のレオナールから、不倫をテーマにした新作の相談を持ちかけられる。内心で彼の作風を古いと感じていたアランだったが、アランの妻で女優のセレナの意見は正反対だった。アランとセレナの夫婦仲は最近うまくいっていないのだが、実はアランは年下のアシスタントと不倫中で、セレナもレオナールと秘密の関係を持っていて…
セレナ役のジュリエット・ビノシュ、アラン役のギョーム・カネ、レオナール役のバンサン・マケーニュらフランスの名優が共演。『パーソナル・ショッパー』『夏時間の庭』のオリビエ・アサイヤスが監督を務める。
今回、映画ライターの華崎陽子さんと蔦屋書店副店長の樋口弘さんが登壇。枚方T-SITE 蔦屋書店にある両壁を本に囲まれたカフェスペースで、まさに出版業界の今を描いた本作に最適なロケーションでトークショーが繰り広げられた。
関係性が複雑に垣間見える本作だが、華崎さんは「なぜか鑑賞後の印象は複雑になっていない不思議なお話です」と紹介し「冒頭から男性二人の怒涛の会話で始まるので、名前だけでも頭の隅っこにいれておくと映画の世界に入り込みやすい」と提案。樋口さんは「出版業界についてかなりリアルに描かれています。また語られるパリの実情は日本と共通する点も多く、見どころです。」と注目。華崎さんも「電子書籍に移行するという波は日本もフランスも同じで、それを編集長のアラン(ギョーム・カネ)が考え行動していく姿、フランスも変わらないですね」と説いていく。
オリヴィエ・アサイヤス監督について、華崎さんは「アサイヤス監督は久しぶりのフランス映画なんですよね。そして会話劇。この作品、本編107分のうち100分くらいは誰かが喋っています!」と解説。さらに「今回、ホームに戻ってきて、しかもジュリエット・ビノシュやギョーム・カネというフランスを代表する俳優とのタッグ。水を得た魚のように監督自身が今の出版業界だけでなく映画業界や様々な社会のデジタル化に対して抱えている思いを存分に俳優たちにセリフとして話させたのではないですかね」と推測していく。また豪華な俳優陣について「ビノシュは最近、是枝監督の『真実』にも出演されていたのでご存知の方も多いと思いますが、彼女のアサイヤスとのタッグは『夏時間の庭』、『アクトレス 女たちの舞台』に続き3作目。彼女は日本でいうと鈴木京香さんのような存在です」と紹介。そして「ギョーム・カネは…福山雅治さんですかね。奥様がマリオン・コティヤールというこれまたフランスを代表する女優さんなんです」と添える。さらに「中でも私の一押しは劇中でダメダメな作家レオナールを演じているヴァンサン・マケーニュです。彼は小劇場やインディーズ映画に多く出演していてそのときもダメダメな役が多く、ダメな人を演じさせたら抜群なんです!そんな規模の小さい作品でずっと頑張ってきた彼が、名匠アサイヤス監督の作品でビノシュのような大女優とともに大舞台に立てたというのが個人的にはすごくうれしいです。しかもビノシュの相手役で!」と熱く語り上げていく。
熱いトークを聞き、樋口さんは「フランス映画の魅力とはどういう点でしょうか?」と問うと「やはり“議論”は外せないですよね。いつでもどこでも議論が始まる。だけどその場の雰囲気がおしゃれなのできつくならない。柔らかな印象になるところが魅力」と応えていく。また「あと今回もいたるところに表れていたのですが、ちょっとしたしぐさ、目配せや一言が『あれ?この人浮気に気づいている??』『これ気づいてほしくてわざとしてる??』と観る側にそわそわさせるシーンが多くて、そういうエッセンスのちりばめ方や2,3回観ても新しい発見があるのも魅力です」と加えた。ウディ・アレン作品との共通点を見出し「確かに会話劇という点では共通するところもありますが、特にフランス的だなと思ったのは会話劇の中に恋愛の話があまり入らないんですよね。基本的に議論する内容は政治であったり、仕事や社会のこと。ウディ・アレン作品だとその内容が女とは男とは…に派生していくと思うのでそこが異なる点かと思いましたし、アサイヤスのこだわりなのかな」と指摘する。
出版業界を舞台にした本作だが、華崎さんは「日本も同じく電子書籍の波はありましたが、そんなに大きく環境が変わったということはなかったですよね?」と問いかけ、樋口さんは「そうですね。確かに電子書籍の波はありましたが活字を読むことに対する需要はそこまで変わっていないのかなと。確かに出版不況や町の本屋さんが少なくなっているとはよく耳にはするのですが、その代わり新しい読書の方法がいろいろ誕生しています」と応えた。具体例として「時間制で本の貸し出しを行う図書館のような場所を作って、コーヒーや食事を楽しみながら読書をするというものや、最近では住民へのサービスとしてマンションのラウンジに書籍のコーナーを作っているところもあります。あとは寝ながら本を読めて宿泊できる本屋さんなんかもありますよね。そういった意味では新しい本屋さんの形やそれぞれの手法が変わっているだけで読む人は減っていないのかなと感じています」と挙げていく。華崎さんは「そういう流れをアサイヤス監督も感じているんですかね。希望あるエンディングだったので」と本編のラストに言及。樋口さんも「まさにそうですね。それぞれの考える本の未来があって、今回のラストは私の心境ともリンクするところがありました」と共感を示した。
最後に、華崎さんは「冒頭でもお伝えしましたが107分中100分喋り続けている作品です。『ん??』と追いつけなくなりそうになったら一度リフレッシュしてまた戻ってみてください」と斬新な提案をしながら「最後まで鑑賞いただいて可能であればもう一度観ていただきたいです!次々と繰り広げられる彼らの会話劇を参加してるつもりで楽しんでください」と伝え、トークショーは締め括られた。
©CG CINEMA / ARTE FRANCE CINEMA / VORTEX SUTRA / PLAYTIME
映画『冬時間のパリ』は、2020年1月17日(金)より大阪・梅田のテアトル梅田、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸、1月18日(土)より京都・烏丸の京都シネマで公開。(全国公開は12月20日(金)、全国順次ロードショー)
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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