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厳しくも優しい自然に抱かれている家族を追いかけた…『山懐に抱かれて』遠藤隆監督に聞く!

2019年8月29日

四季を通じて牛を完全放牧し、草だけで育てるという“山地酪農“。そんな困難な酪農を岩手県の山間で営んでいる大家族の24年を追いかけた『山懐に抱かれて』が関西の劇場でも8月31日(土)より公開される。今回、遠藤隆監督にインタビューを行った。

 

映画『山懐に抱かれて』は、岩手県の山あいで、酪農を営む大家族の24年を追ったドキュメンタリー。テレビ岩手が独自に取材し、放送を続けてきたテレビ番組に追加取材と再編集を加え、開局50周年記念映画として公開。岩手県下閉伊郡田野畑村で5男2女と夫婦の9人で暮らす吉塚一家。父の公雄は「みんなが幸せになる、おいしい牛乳をつくりたい」との思いから、自らの手で山に牧場を切り開いて牛を完全放牧し、限りなく自然に近い環境で、草だけを餌に牛を育てる、安心安全の酪農「山地酪農」を実践している。プレハブの家でのランプ生活、大自然を駆け回り牛の世話をする子どもたち、父と成長した子どもたちとの衝突、仲間たちとともに挑んだプライベートブランド設立、第二牧場への夢など、実現困難を極める酪農に挑んだ家族たちが歩んできた24年を丹念に追っていく。ナレーションを、吉塚一家の牛乳を長年愛飲しているという女優の室井滋が務める。

 

農業ジャーナリストである遠藤監督は、農業問題として、食料自給率を上げていくことを意識していた。日本の農業や酪農は、輸入した穀物を使用しており、外国産という見解がある。山地酪農に取り組む吉塚家は全て純粋な国産。つまり、食料自給率100%が可能である。最初は山地酪農の紹介を目的にドキュメンタリー制作に取り組んだ。

 

吉塚家の大黒柱である公雄さんは、中学2年生の頃、将来を考えていく中で、父親がエリートサラリーマンで仕事人間だった姿を見て、同じ暮らし方は耐えられないと断念。千葉県の裕福な家庭で育った公雄さんは、夏休みに海の家を1軒借り切り家族で過ごしていたが、近所に牛を飼っている農家を発見。家族がいつも一緒にいる農家の暮らしが良いな、と気づき、漠然と農家をやりたいと思い描いていく。その後、東京農業大学に入学し楢原恭爾先生と山地酪農に出会った。

 

酪農を営む上で一番大変なのは糞尿処理。だが、山地酪農では全く要らない。山に垂れ流すが、餌となる草の肥料となるので一石二鳥だ。山地酪農は食料自給率を高められる理想的な農業だが、経済効率が良くない為に全く認められないまま、楢原先生は亡くなった。公雄さんは楢原先生に対する思い入れがあり、山地酪農を自身が行う農業の柱にしたくて志を抱く。そこで、千葉には山地がないので、岩手県の田野畑村に行って農業を始めた。父親にとしては息子にもサラリーマンになってほしかったが、親父の支援は受けない、と啖呵を切って貧乏暮らしになった公雄さんに対し、遠藤監督は潔いと称えている。

 

吉塚家にカメラを向けることについて、一家から反対は無かった。取材を始めた頃は長屋暮らしで貧しかったが、公雄さんの志は高く、話を聞いてくれる人がいることに感謝している。だが、取材に行った日はいつもカレーライスである状況を遠藤監督は危惧し、おなかに残るものを携えていく日々だった。なお、本作は、遠藤監督のカメラマンの2人チームで撮影。沢山のスタッフがいると、リアルな家族の姿を撮れない。ハプニングは必ず夜に起きていたので「大人数のスタッフでは実現しなかった」と感じている。現場で何かが始まった際には監督はそっと姿を隠しており、カメラマンが大変だと十分に感じていた。

 

牛の撮影にあたり、撮影を担った田中進さんは牛をよく知っており、牛が逃げない撮り方を分かっている。ドローン撮影については上屋敷大輝さんが担当。撮っている映像より半日早く撮り始め、少しずつ牛に近づいていく。半日経った頃には好奇心旺盛な牛が近づいてくるので、遠藤監督は計算して撮っていることに感心した。また、子供達との会話も大切にしている。次男の独立については、両親に話す3,4年前から聞いており「我々も父親には黙っていた。我々に話すことで問題を整理できていた」と近所のおじさんのような役割を担った。

 

TVでは「ガンコ親父と7人の子どもたち」シリーズとして4回放送しており、家族の物語として編集している。編集を担った佐藤幸一さんと一緒に取り組み、芸術祭等で評価も受けた。映画にするにあたり「自然と家族との関りや、家族の中での人を大事にする心など深いところに入っていく必要がある」と考え、発想を変えて編集していく。1000時間程度のテープを纏めており「柱がないと作品に出来ない。厳しくも優しい自然がある山懐に抱かれている吉塚家を描いていく。村の人達からの目に見えない力もある」と多様な視点を以て本作を制作した。

 

定期的に番組を制作しており、24年間も次々に撮り続け、現在も遠藤監督は撮っている。だが、いつもテーマを決めて撮っていない。編集時にテーマを考え出しており「撮っていると様々な事態が起こる。子供達が独立していくなかで、今後は、夫婦がテーマになっていきている。様々な困難を乗り越えて、現在は本当にいい夫婦になっている」と、現在も吉塚家に温かい眼差しを送っていた。

 

映画『山懐に抱かれて』は、8月31日(土)より、大阪・九条のシネ・ヌーヴォ、9月14日(土)より京都・烏丸の京都シネマと神戸・元町の元町映画館で公開。なお、8月31日(土)・9月1日(日)には、シネ・ヌーヴォに遠藤隆監督を迎え舞台挨拶を開催。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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