根本的な問題を解決できる仕組みをつくりたい…『ほたるの川のまもりびと』山田英治監督に聞く!
長崎県川棚町こうばる地区で、ダム建設計画に翻弄されてきた人々を見つめたドキュメンタリー『ほたるの川のまもりびと』が、3月16日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場で公開される。大阪での公開を目前にした今回は山田英治監督にインタビューを行った。
映画『ほたるの川のまもりびと』は、ダム問題に揺れる小さな集落に暮らす人びとの描いたドキュメンタリー映画。長崎県川棚川の下流にある小さな支流、石木川にダムを作る「石木ダム」計画。この計画は長崎県でもあまり知られていないが、現地に暮らす人びとはダム計画をめぐって半世紀の間、戦いを続けてきた。かつて同じ地域に暮らしていた人びとの一部は補償金を手に土地から去っていった。現在は13世帯54人あまりの人びとが暮らし、四季折々で変化する美しい自然の中でのダム反対活動は彼らの生活の中にいつしか溶け込んでしまっていた。「ただ普通に暮らしたい」という住民たちのごくあたりまえの思いが、映像を通じてつづられていく…
「ビックリしましたね」山田監督は、こうばる地区を初めて訪れた山田監督は素直に話す。「途上国では聞くが、日本で今行われようとしていることがビックリしました」と驚いた。近年では八ッ場ダムが話題になったが「マスコミはダム問題には鮮度がないと判断された」と感じており、石木ダムについては世の中に流れていないことに気づく。知人と共に訪れてみて、様々な驚きがあり「沢山の方にこの事実を伝えたい」と思い、映画化に向けて動き始めた。
初めてこうばる地区を訪れた帰りには映画の企画書を作成しており「その時、既に明確な方針が見えていた」と明かす。「小さな里山の暮らしや自然環境があり、住民のチャーミングさも含めて、東京で暮らす僕にとっては羨ましい素敵な里山ライフがそこに実現しているんだ」と感動し、映画の全てに込めていった。反対運動をしている人もイメージと全く違っており「素敵な里山の雰囲気を伝えたい。でも、ダム建設によって無くなってしまうかもしれない。その不条理が対比的に描ける」と直感。「ダム建設反対映画ではなく、小さな里山を支持する映画にする」と方針が決まった。撮影に入る前には、13世帯全員にインタビューしており「どういうストーリーがあるか理解し、どのように作品を構成したら上映できるか」と設計していく。設計図に基づいて撮影に臨み、修正を重ねながら「最終的に編集しながら、最初のコンセプトである、里山暮らしの素晴らしさを伝える程、無くなってしまう不条理が浮き彫りになるはず」と実感した。
なお、本作を制作するにあたり、山田監督は関連するドキュメンタリーをあまり観ていない。「反対を前面に出すような映像やニュース報道を見た時、心を閉ざしてしまう。劇場に足を向けなくなる。そんな描き方をしたくなかった」と固執する。ダム建設反対映画ではあるが「違った作品の見せ方がある」と提案。都市化されている日本において「地域コミュニティがしっかりと活きている自然豊かな暮らしには、これから生きていく上でのヒントがある」と確信しており、新たな視点に期待している。敢えて作品を挙げるなら『人生フルーツ』の文脈を取り上げ「人生を丁寧に生きていくことを伝える作品」と表現した。
現在の「石木ダム」工事は、ダムの本体工事ではなく、迂回路を作るため工事が粛々と続けられている。「おばちゃん達は重機の周りでバリケードを組んでいる。だが、止められない重機は進んでいっている。入口の道路なので、それほど進行していない」と説明。ただ山が崩されているように見えるので、ショックだったが「ショックと思うでしょ?これは時間がかかる工事だから、大丈夫よ」とおばちゃん達に慰められた。裁判についても、昨年、長崎地裁で国の事業認定への見直しが棄却されて、福岡高裁に上告して戦っており、一進一退の状況である。
上映活動を継続している山田監督だが、今後は「民主主義のあり方、対立している人同士の対話の大事さ、根本的な政治システムと有権者との距離感、根本的に解決する方法を考えたい」と検討中。ダム建設問題にも関わっていくが、根本的な問題を解決できる仕組みづくりに興味を持っており「映像表現で行うか、別の手段かもしれないが、対話の仕組みをつくれたらいいなと考えている。それを映画で追いかけたい」と模索している。次回作について「根本的な解決となる社会テーマのある作品を考えています。次はエンターテインメントでフィクションの世界でやれたら」と語り、目を輝かせていた。
映画『ほたるの川のまもりびと』は、3月16日(土)より、大阪・十三の第七藝術劇場で公開。
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- 映画ライター
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