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10年後の未来に思いを馳せて…『十年 Ten Years Japan』各作品の監督迎え舞台挨拶開催!

2018年11月4日

現在の日本が抱える社会の高齢化、原発といったさまざまな問題を見すえながら、10年後の近未来を描く5つのエピソードが展開される『十年 Ten Years Japan』が11月3日(土)より公開。10月4日(日)には、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で、早川千絵監督、⽊下雄介監督、津野愛監督、藤村明世監を迎えて舞台挨拶が開催された。

 

映画『十年 Ten Years Japan』は、香港で大ヒットしたオムニバス映画「十年」の日本版として、10年後の日本を題材に、5人の若手監督がメガホンを取ったオムニバス作品。エグゼクティブプロデューサーを是枝裕和監督が務める。石川慶監督が、政府の徴兵制の告知キャンペーンを担当する青年と老デザイナーを描いた「美しい国」のほか、国家戦略IT特区となった田舎町の小学校を舞台にした「いたずら同盟」(木下雄介監督)、亡くなった母がネット上に遺したデータに一喜一憂する女子高生を描く「DATA」(津野愛監督)、75歳以上の高齢者に安楽死を奨励する新制度を描いた「PLAN75」(早川千絵監督)、大気汚染によって地下への移住を強いられて地上の世界を夢見る少女を描く「その空気は見えない」(藤村明世監督)の5作品から構成されている。

 

上映後に、早川千絵監督、⽊下雄介監督、津野愛監督、藤村明世監督が登壇。それぞれが自身の作品について語っていった。

 

☆監督した作品について
早川監督:「PLAN75」

高齢化問題をモチーフにしているが、高齢者に限らず、社会的弱者に対して社会の風潮が厳しくなっていると近年感じている。社会の不寛容な風潮に対する憤りを基に、この作品を作りました。

木下監督:「いたずら同盟」

企画を頂いた時、子供が産まれて三日後だったので、10歳の子供についての物語を作りたかった。今年から道徳が正式に教科となり、国が教科書を検定したり、学校が評価したりしている。道徳における善悪の判断基準は、自分で行動して掴んでいく。自分の立ち位置を含め、10年後に観て頂きたい映画として作っている。

津野監督:「DATA」

記憶と記録の話です。近年、様々なものがデータとして残せるようになってきました。それは10年後・20年後、個人に関する詳細なデータが次々に残せる。だが、記憶にしか残らないものを私達は持っています。そういうものの存在をおざなりにしてしまうのではないか。危機感を以て描きました。

藤村監督:「その空気は見えない」

この10年で何が起こったか考えてみた時、自分の中で1番大きく変わったのが東日本大震災だった。原発事故によって、空気が怖くなったことが大きな変化であり、このテーマに選びました。生々しく説教っぽくしたくなかったので、ファンタジーとして瑞々しく描きたくて、この作品を作りました

藤村明世監督

 

☆是枝監督とのコミュニケーションについて

藤村監督:

脚本や編集の段階で、実際に観てもらった。脚本を最初に書いた時はSFだったが、普遍的な親子の方が共感しやすいんじゃないか、とアドバイス頂き、反映していった。

津野監督:

(所属する)分福は、若手が多いので、その中で企画コンペを常に行います。皆が自分の脚本を出し、意見を言い合って活動しています。上から目線で命令をしない方であり、作品の意図を自分の中で改めて考えさせて頂くようなことをいつも仰って頂ける。自分がやりたいことは何なのか考えて、いつも皆が企画を出しています。

木下監督:

子どもと馬の関係に集中していく内容となった。短編に様々な要素を詰め込みたくなり、その筋を通して頂けたので、引き締まった作品となった。

早川監督:

是枝監督は自分の考えを押し付けない方。脚本や編集の段階で、物語の本質に迫るような質問を投げかけて下さることが多い。ふとした質問によって、自分の中で作品が広がっていく。インスピレーションが湧いてくるような刺激を与えてくれるアドバイスが多かった。

津野愛監督

 

☆出演者とのやり取りや刺激を受けたことについて
早川監督:

準備や撮影の期間が短かったので、作品について事前に話し合う時間がとれなかった。主人公のバックグラウンドを事前に渡して現場に挑んだ。撮影時間が短く、演出して芝居を構築していく時間が取れなかったにも関わらず、イメージ通りに演じて頂いて凄い。

木下監督:

子供たちが馬を逃がすことが正しいのか正しくないのか、揺れ動く物語を描きたかった。國村隼さんは僕の脚本以上にこれまでの歴史を見ており、刺激を受けました。

津野監督:

杉咲さんと2回目で顔合わせした時、バーでのシーンのセリフを入れるかどうか悩んでいた。相談したら「私はぜひ言いたい」と気持ちを伝えて頂き、入れてよかった。

藤村監督:

池脇さんには出演して頂きたく、最初から当て書きして、念願叶ってご出演して頂いた。良い意味でドキドキした現場だった。撮影は昨年12月、場所も福島の廃墟を使っており、寒い撮影だった。子役達にとって良い環境ではなかったが、池脇さんが和やかな雰囲気を作って頂き、温かい現場になりました。

早川千絵監督

 

☆最後にメッセージ
藤村監督:

この作品は、これから全国各地で公開予定です。私達は新人の監督ですし、大きな作品ではないです。皆様の声が一番応援になり、広げる力になります。

津野監督:

これは、香港の若者達の思いを引き継いで始まったアジアのプロジェクト。タイ・台湾・日本で作品が出来ている。とてもおもしろいプロジェクトであり、映画の力を活かせる貴重なプロジェクトです。

木下監督:

この映画は五者五葉の監督が描いた未来がそれぞれある。皆が描いたものに対して感じるものはそれぞれ違いますが、感じたことを基に劇場を出た後に行動に繋がったら、映画にとって嬉しいこと。

早川監督:

今日観て頂いた皆さんに持ち帰って頂いて、10年後の未来に思いを馳せて頂けたら。

⽊下雄介監督

 

映画『十年 Ten Years Japan』は、11月3日(土)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田、なんばのなんばパークスシネマ、神戸・三宮の神戸国際松竹、京都のMOVIX京都で公開中。また、尼崎のMOVIXあまがさきでも11月17日(土)より公開。

生活保護を受けられず住む家もない高齢者が、路上で亡くなるのが日常的な風景となっている。75歳以上の高齢者は、国から「安楽死」のサービスを受けられる時代。そんな不気味な世界を描いた「PALN75」で、本作は幕を開ける。

 

この『十年 ten years Japan』が制作される元となった香港版の「十年」は、とても尖った作品である印象だった。近未来のフィクションの世界という体裁を用いて、その実は現在の国家体制を痛烈に批判している内容は、製作者たちの身を案じてしまう。日本版の本作は、近い将来に現実化しうる世の中への不安を描きつつも、どこかソフトな印象を受ける。鑑賞後には単に「個性的なSF短編集を観て楽しかった」と思う観客も多いのではないか。

 

オムニバス作品である本作を構成する5本は、いずれも20分前後の短編のため、各エピソードの展開は軽い。ちょっとしたオチのあるショートショートといった作りで、あっさりしている。だが、一見そう感じるのは、この構成が実は起承転結の「起」だけを提示されており、本当の「結」を見届けるのは10年後のあなた、と問いかけられているからだと気付いた時、なんとも言えないない不安に駆られてしまう。個人の力ではおそらく変えられない未来、そしてこの作品を鑑賞する大半の観客に訪れるであろう「10年後」の世界。祖父母や両親、あるいは自分が安楽死の選択を迫られたら?自分や周りの大事な人たちが徴兵へと駆り出されていったら?子供たちが監視され、感情表現をコントロールされる世の中になってしまったら?…そんな、荒唐無稽と笑い飛ばしきることのできない「if」を見せつけられる。

 

中盤の「DATA」に見いだせる希望に救いを感じた。いまはもう失ってしまった、大事な人のことを想うこと。たとえどんなに世界が変わっても、テクノロジーに支配された世の中になっても、人が誰かを想い続ける気持ちの尊さは変わらないから、そうあって欲しい、と未来に託す願いを受け取った気がした。

fromNZ2.0@エヌゼット

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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