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吉行和子さんは、とんでもないばあさんを演じてみたかった…『雪子さんの足音』浜野佐知監督に聞く!

2019年7月12日

“月光荘“という洋館を舞台に、大家の女性と洋館の常連女性、そして下宿人の男子大学生という3人の思惑が複雑に絡み合う様を映し出す『雪子さんの足音』が、大阪・九条のシネ・ヌーヴォでも、7月13日(土)より公開される。今回、浜野佐知監督にインタビューを行った。

 

映画『雪子さんの足音』は、第158回芥川賞候補になった木村紅美の小説「」を、吉行和子さん主演で映画化。「月光荘」という名の洋館で2階を下宿人に貸している大家の川島雪子は、放蕩息子の死をきっかけに月光荘の大部屋ををサロンとして開放する。サロンの常連でテレフォンオペレーターをしている小野田香織は、肉親や職場の人間関係に対して屈折した感情を抱いていた。ある日、香織は男子大学生の湯佐薫をサロンに招き、その日から夕食会や部屋への食事の出前、ぽち袋に入ったお小遣いなど、雪子と香織の過剰なまでの善意と援助が薫に向けられる。やがて薫は月光荘から逃げ出してしまうが、それから20年が過ぎ、雪子が孤独死したということを知った薫は、再び月光荘を訪れようとする。監督は『百合子、ダスヴィダーニヤ』の浜野佐知さん。吉行さんのほか香織役で菜葉菜さん、薫役で寛一郎さんが共演。寛一郎さんの父でもある名優・佐藤浩市さんも友情出演している。

 

2017年6月、浜野監督は、『百合子、ダスヴィダーニヤ』で信頼関係を築いた菜葉菜さんと吉行和子さんのマネージャーと呑んでいた。吉行さんは『第七官界彷徨 尾崎翠を探して』に出演して以降、浜野監督の一般映画には全部出演しており、監督と女優としての信頼関係が出来上がっている。吉行さんから「私、とんでもないばあさんがやりたいわ、と伝えてね」と、LINEメッセージが届き、吉行さんの心情を直球で受け取った。2001年に撮った『百合祭』では、吉行さんとミッキー・カーチスさんによる、老年のSEXが前面に描かれている。思い切ったないようではあるが、台本を読んだ吉行さんが3日もしないうちにオファーを承諾。「私ぐらいの年齢になると、誰かのお母さんやおばあさんといったポジションが多い。きちんと名前のある一人の女性としての生き様を描いてくれるような映画への出演オファーはない。この映画では74歳のおばあさんと呼ばれている女性が恋をして瑞々しく生き直し自分の性と愛を生きていくという役が出来る。私にとっては幸せなことです」と仰って頂いた。吉行さんの思いを知っているからこそ「とんでもないばあさんがやりたいわ」の意味を瞬時に理解していく。吉行さんは「80歳を過ぎているので、ばあさんの役ばかりになってしまう。日本の社会や映画界が想像するばあさんは、物分かりの良い家族に優しいばあさんか姑的ないじわるなばあさんしかない」と、ステレオタイプなお婆さん役しかいないことに理解は示しつつも「ばあさんだって、生まれて恋をして結婚して…という女の人生があるし、残りの人生がある。ばあさんの枠に取り込まれて生きてられない。ばあさんだって女だし人間だし。ばあさんと云われる年齢の女性が持つ心の中にある悩みや苦しみや性や愛やエロスを女優として演じたい」と仰っていただいた。それを聞いて、浜野監督は「吉行さんの、老婆ではなく老女としての女性を描きたかった。吉行さんを老いてなお心の中にある自分の欲望に忠実で己を信じて自分を生きる老女を描きたかった」と吉行さん出演作品を企画する。

 

しかし、吉行さんにどんな美しい老女を演じて頂くか、当時は最適な台本が簡単には見つからなかった。「吉行さんの楚々とした品の良い美しい女性の中にある芯の強さと欲望、自尊心を描くには日本の小説では無理だ。70歳以上の老女を描いている作品は滅多にない」と感じ、外国からの翻訳小説から探したり、高齢女性を描いた外国映画作品を観たりしながら探していく。また、2009年のスウェーデンでのマルメ国際女性映画祭に『百合祭』が招待され、映画祭を訪れたことも重要事項となっている。当時、映画祭のテーマは”なぜ男はどれだけ年老いても主役を演じられるのに、高齢女性はスクリーンに描かれないのか”だった。男女の映画関係者が集いディベートまで行われていたが「『百合祭』を上映しただけではこの問いの答えになっていない」と気づいていく。この問いの答えをいつか映画として制作したい衝動にかられながら、吉行さんからのLINEメッセージを受け取った際には「吉行さんと私がタッグを組み、とんでもないばあさんを映画に現出し、世界に向けて発信すれば映画祭の答えになるんじゃないか」と、ようやく結びつくこととなった。

 

その後、ピッタリとくる原作になかなか出会えない中で、2017年8月、文芸誌『群像』で『雪子さんの足音』が発表される。小説を読んだ浜野監督は、雪子さんの描かれ方から「これこそ吉行さんが望んでいる、とんでもないばあさん。私が映画祭に出品できる作品になるのではないか」と直感。原作者の木村紅美さんに連絡を取り、映画化に向けて企画がスタートした。だが「小説としてはおもしろいが、映画化するにはパンチに欠けていた。人間が実像として動くには何かが足りない」と満足でき着ない。すると、木村紅美さんから「雪子さんには原案小説として『たそがれ刻はにぎやかに』があるんですよ」と言われる。実際に読んでみると「印象的なシーンがあり、映画のプロローグとエピローグに用いれば、この映画はファンタジーラブストーリー、死んでいく老女の心の中に眠っている月の泉のようなエロスが表現できる」と気づき、映画化に向けて期待できる構想が出来上がっていく。「描きたかったのはエロス。女はいくつになっても女。いくつになっても人間。抱えたエロスは枯れない。男性社会が捉えたばあさん像を打ち砕けたら、どれだけいいだろうか」と期待を膨らませていった。

 

男性の視点として、薫はズルい立場に描かれている。雪子さんにひたすら食い殺されていくわけではない。最初は孫ごっこバイトのつもりでラッキーと思いながら、雪子さんの真剣な迫力に次第に負けていく。自身で背負いきれない怖さが迫っており、雪子さんをミザリーのような人物に捉えている。次第に恐怖による気持ちの綻びによって追い込まれていく。浜野監督は「薫君は、その恐怖に対してなぜ踏ん張ろうとしたのか。もしかしたら、50歳差の雪子さんという人物に絡め捕られていたのではなく、自分の中に愛という気持ちがあったのではないか」と表す。本作に対し「最後のシーンはお互いの深層心理を浮かび上がらせた異空間のラブストーリーにしたかった。女性の心から決して消えない性的欲望とエロスへの渇望を描きたい」と解説する。

 

菜葉菜さんとは『百合子、ダスヴィダーニヤ』で出会い、女優としての芯の強さを感じていた。原作で描かれている印象とは違うが「菜葉菜さんは小野田さんを作り上げてくれる。『百合子、ダスヴィダーニヤ』から8年を経て、菜葉菜さんの中に役者としての引き出しが次々に増えている」と全幅の信頼があり、役作りのアイデアも提案してもらった。寛一郎さんと菜葉菜さんは仲が良く「二人の関係性からなる演技にも表れている」と称える。

 

なお、原作は、高円寺にある昔ながらのアパートを舞台に展開していく。吉行さんのイメージには合わないと感じた浜野監督は「原作とは異なるが、月光荘という建物を、この世とあの世の間にあるような現実から離れた世界観を作りたかった」と渇望。監督の地元である静岡で旧エンバーソン住宅を見つけていく。小説の映画化にあたり「それぞれの登場人物が過ごす日常生活は全てカットした。それらを描くとリアルな現実世界になってしまう。月光荘というどこか分からない空間の中だけの話にしたかった。そこで歳を取った女性の中に潜む欲望を掬い上げる作業を私はやりたかった」と拘っていった。

 

吉行さんは、本作について「最後の主演映画」と冗談で話している。日本映画では80歳を過ぎた女優を主演にすることは滅多にない。吉行さんは「雪子さんという役を待ち望んでいたご褒美」だと言っており、浜野監督は「吉行さんがいくら仕事をしても感じる物足りなさを理解できる。そこまで言って下さるのなら、吉行さん主演作品をさらに一作撮りたい。吉行さんが90歳になった時にぜひやりたい」と意気込んでいる。

 

映画『雪子さんの足音』は、7月13日(土)より、大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開。8月3日(土)からは、神戸・元町の元町映画館でも公開予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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