今こそ明らかにしなくてはいけない…!『憲法を武器として~恵庭事件 知られざる50年目の真実~』稲塚秀孝監督に聞く!
(C)株式会社タキオンジャパン
1960年代に自衛隊は合憲か違憲かを争って注目された「恵庭事件」を現在の視点で問い直した映画『憲法を武器として~恵庭事件 知られざる50年目の真実~』が現在、大阪・十三のシアターセブンで公開中。5月3日(木・祝)の憲法記念日を迎えるにあたり、本作を手掛けた稲塚秀孝監督にインタビューを行った。
映画『憲法を武器として~恵庭事件 知られざる50年目の真実~』は、自衛隊と日本国憲法を問う意欲作。北海道恵庭町、自衛隊島松演習場。近くで酪農を営む野崎牧場の兄弟が通信線を切断した。長年戦闘機や大砲の騒音被害を受け、牛の乳量が落ち、家族の健康が損なわれ、約束が守られなかったことからやむにやまれぬ実力行使だった。国(検察)は自衛隊法121条「防衛の用に供する物」で起訴。自衛隊の公然化を国民に突き付けた。過去の事件として忘れられてはいけない、日本国憲法の歴史の中で重要な意味を持つ事件となった…
稲塚監督は、1967年3月29日、高校1年の終わりに「恵庭判決」を知る。地元紙夕刊には”肩すかし判決”と大きく書かれており「戦力、軍隊である自衛隊の憲法判断がされなかった」ことに驚いた。2年に進級した夏に恵庭町(当時)で酪農を営む野崎兄弟を訪ね、話を伺う。秋の文化祭で、戯曲”叫び”をクラスメートの出演で上演。台本と演出を行い、約1か月間授業前の”朝練”を行い「この体験はその後映像制作に身を投じるきっかけになったことは間違いありません」と確信。判決から50年の節目を見据え、一昨年春、野崎健美さん(兄)の取材をはじめ、健在される弁護士の方々の取材を進めた。その過程で、当時の法廷でテープレコーダーを回し、書き起こした”公判記録”を残されていると判明。全40回の公判記録を読み「言わば歴史の中に埋もれた記録。丹念に読み、今回の”法廷劇”の軸ができました」と感慨深い。その後の国に対し「恵庭裁判のトラウマから民間人を自衛隊法で告訴することはせず、既成事実を積み重ね、ついには南スーダンへの派遣までした。でも自衛隊は違憲の存在。今こそ明らかにしなくてはいけない」と決意するに至った。
本作では、渦中の人物と記録映像をまとめたドキュメンタリー形式だけではなく、ドラマパートもある。稲塚監督は「50年前の事件および裁判の内容を伝えるには、過去の映像や関係者インタビューだけでは限界がある」と感じた。公判記録はエキサイティングな内容で「被告も重要な局面で発言し、弁護団と検察も丁々発止のやり取りをしていた。司法の凋落が言われる今、戦後新憲法下の裁判所の活気を伝えたい」と思いを込める。ドラマパートの制作時には「その場にいた人間のドラマにするために、それぞれの人々にいかにして肉迫できるか」を考えた。裁判官や検察、弁護士の方々の多くは既に亡くなっているが「彼らが形作った”歴史”を表せたら」と願っている。さらに「”ドキュメンタリーは告発である”と考えている。恵庭事件や恵庭裁判を通じて、告発できるところを選び抜いた」と真意を明かす。また、作中の語り役として仲代達矢さんがキャスティングされている。仲代さんとは「海は甦える」(1977年、テレビマンユニオン/TBS)で出会った。主役とチーフ助監督として親交を深め、「野口英世伝」でも関わり、ドキュメンタリーとして取材してきている。役者としての大きさや凄さを間近で体感し「ドキュメンタリー『仲代達矢 「役者」を生きる』や映画『NORIN TEN 稲塚権次郎物語』を製作できたことはこの上ない喜び」と表す。
なお、現在の稲塚監督は、監督9作目として、全国高校野球選手権大会の大会歌「栄冠は君に輝く」を作詞した加賀大介さんのドキュメンタリー映画『ああ 栄冠は君に輝く』の製作準備中。本夏公開予定。また、来年以降に『最後の二重被爆者』(仮)等を準備中。
映画『憲法を武器として~恵庭事件 知られざる50年目の真実~』は、大阪・十三のシアターセブンで4月28日(土)から5月11日(金)まで公開。5月3日(木・祝)には、稲塚秀孝監督と竹内義和さん、5月4日(金・祝)には、稲塚秀孝監督と今井 一さんを迎えて、上映後にトークショーを開催。なお、京都・烏丸の京都シネマで5月5日(土)から11日(金)まで、神戸・元町の元町映画館で5月12日(土)から18日(金)まで上映し、各々の初日には稲塚秀孝監督の舞台挨拶を実施。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!