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ウイスキーには人生を変える力がある!『ウイスキーと2人の花嫁』武部好伸さん迎えトークイベント開催!

2018年2月17日

 

ウイスキーをこよなく愛する人々の姿を描いたイギリス映画『ウイスキーと2人の花嫁』が2月17日(土)より関西の劇場で公開。大阪・梅田のテアトル梅田での公開初日上映後には、映画・洋酒・ケルト文化をテーマに執筆活動をしているエッセイストの武部好伸さんを迎えてトークショーが開催された。

 

映画『ウイスキーと2人の花嫁』は、第2次世界大戦中のスコットランドで起きた貨物船座礁事件の実話をもとに映画化し、ウイスキーを心から愛する地元住民やそれぞれ結婚を控えた姉妹とその父親が繰り広げる騒動を描いたヒューマンコメディ。1949年に製作された同名映画『Whisky Galore』(日本未公開)のリメイク。戦況悪化のあおりを受けてウイスキーの配給が止められたトディー島の住民たちは、すっかり無気力に陥っていた。島の郵便局長ジョセフの長女ペギーと次女カトリーナはそれぞれ恋人との結婚を望んでいたが、周囲からウイスキーなしの結婚式はあり得ないと反対されてしまう。そんな中、輸出用に5万ケースものウイスキーを積んだニューヨーク行きの貨物船が島の近くで座礁する事件が発生。これを神様からの贈り物だと捉えた島民たちは、禁制品のウイスキーを「救出」するべく立ち上がる…

 

上映終了後に武部好伸さんが登壇。まずは「スコットランド・ケルト文化と映画とウイスキーをはじめ洋酒が大好きです。大阪も好きなので、大阪も絡めて色々と書かせてもらっています」と自己紹介。

 

武部さんは、スコットランドと縁が深く「40年前、大学4年生の時に卒業旅行でヨーロッパを1人で放浪していた。道中、モロッコからロンドン・ヒースロー空港に到着した際、怪しそうなひげ面でアーミー服を着ていたので、別室に入れられ、赤軍派の疑いをかけられ裸にさせられた」と苦い経験を振り返る。その際に、気分転換にロンドンから北へ向かいスコットランドを訪れた。当時、スコットランドに関する知識がほぼ無く、知っているのはネス湖やネッシーといった程度。インバネスからネス湖に向かい、アーカート近くの湖畔で座ってネッシーが出現しないかなと座っていると、今日は大学の卒業式だと気づき、大阪方面にウイスキーを抱えて、自身に向かって「おめでとうございます!」と言ったのがスコットランドだった。その10年後、シングルモルトウイスキーのグレンフィディックを親戚から貰い呑んで、神の啓示のごとく体に電流が走ったと感じる。当時、新聞記者だった武部さんは、ボトルが生まれたところはどんなところだろうと気になり、新聞社の10年休暇を利用してスコットランドを訪問。現地では「様々な蒸留所を楽しく見学し、スコットランドとイングランドの違いもよく解った。大学の時は、違いが分からずイギリスは1つの国だと思っていた」と気づかされる。日本帰国後に調べてみると、西暦500年頃、隣国のアイルランドに居たケルト系のスコット人がスコットランドの西海岸に上陸して作った地だからスコットランドという国名であり、アイルランドに由来していると判明。それ以来、ケルト文化が武部さんのライフワークになり「ウイスキーには人生を変える力がある」と感じた。

 

イギリスの正式名称は、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国であり、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの”国”から構成されている。スコットランドは、独自の議会もあり、軍事と外交以外は独自に運営。さらに、独自の紙幣があり、民間の銀行が4種類程度を発行し、イングランドの紙幣と相互に利用可能。グレートブリテン島の北部にあり、北海道より少し小さい面積で人口は530万人。元々は、イングランドと別の国でスコットランド王国だったが、1707年に南のイングランドと合体しグレートブリテンに。今作の舞台は、西方にあるアウター・ヘブリティーズ諸島内のエリスケイ島で第二次世界大戦中にあった事故をモデルにしている。

 

ヘブリティーズ諸島を訪れたことがある武部さんは「辺鄙で何もない。今でもケルトのゲール語を日常的に喋っている。スコットランドでゲール語を日常的に話しているのは5万人だけ」と解説。第二次世界大戦中のダンケルクでの戦いから9か月後の1941年2月5日、イギリスの貨物船であるSSポリティシャン号に5万ケース、約26万本のスコッチ・ウイスキーがイングランド西部のリバプールからニューヨークに向けて出港。ニューヨークへウイスキー、ジャマイカにピアノや家具を持っていく予定だった。本来ならリバプールから南西に下っていくべきだが「ドイツの潜水艦であるUボートが出没している情報があったので、あえて北のルートを横断しようとしていた時に浅瀬だったので座礁した」と本作のモデルとなった事件が起きた理由を述べた。貨物船が沈没する前に島民がウイスキーを全て持ち出したことについて、地元の作家であるコンプトン・マッケンジーが『Whisky Galore(いっぱいのウイスキー)』と題した小説として発表し、戦後は1949年に映画化された。本作は映画化作品のリメイクだが「最初の作品をスコットランドの図書館で観たが、今回は2人の花嫁の結婚を前提に置いて華やかなムードがあり、おもしろい仕上がり」だと感想を伝える。

 

実際にエリスケイ島を訪れた武部さんは「人口が150人で、皆が顔見知り。産業は漁業が中心で、ロブスターを養殖している。島のあちこちでピートを掘り出して乾かし、冬に燃料として活用している」と説明。島に唯一のパブ「SSポリティッシャン」に行ったが、朝10時からの営業にもかかわらず、既に満員だったが、現地の方と一緒に呑んだ。壁にはSSポリティッシャンの写真や座礁事故に関する新聞記事が貼ってあり、当時の島民が隠したウイスキーがパブにも残っていたが試飲は出来ず。映画のロケ地は本来ならエリスケイ島になることを期待するが「辺鄙な場所の為、資材が運び込めず。スコットランドの東側で撮影された」と明かす。映画に登場するウイスキーの銘柄は、ハイランド・ブルー、ハリス・マッカラム、グレンソイ、オルノーセイ、カイレイグ、と実在するような銘柄だが、全て存在しない。実際は「ホワイトホース、デュワーズ ホワイトラベル、キングスランサム、バランタイン、アンティクアリー、ジョニー・ウォーカー赤/黒。全てブレンデッドウイスキー。当時、シングルモルトは流通されていなかった」と解説。フェイクにした理由について「旧ボトルの形にせずラベルを作れば、ウイスキー通からクレームが寄せられる可能性があり、フェイクにしてコストを抑えた」と推理する。

 

世界には5大ウイスキーとして、スコッチ・ウイスキー、バーボン等のアメリカン・ウイスキー、アイルランドのアイリッシュ・ウイスキー、カナダのカナディアン・ウイスキー、日本のジャパニーズ・ウイスキーがあるが「今、世界最大の生産量はインド、消費量も凄く、これからインドが次々に出てきます」と紹介。またウイスキーの綴りについて「アメリカとアイルランドだけは”whiskey”と’e’が入る。スコットランドや日本にカナダは”whisky”。元々、全てwhiskyだった」と解説。100年前はアイリッシュウイスキーが世界を席巻しており「特にアイルランドの首都ダブリンでつくられたダブリン・ウイスキーが世界に名を轟かしていた。他と差別化するために’e’を入れたが、アイルランド内の業者に広がり、気づけばアイルランドの全てが”whiskey”になった。アメリカに行った移民もウイスキーを作り、アイルランド人が強かったのかスコッチと差別するために同じようにwhiskeyになった」と理由を説く。

 

ウイスキーという名称は、アイルランドやスコットランドの母国語であるゲール語に由来し、ウシュク・ベーハー(Uisge-beatha)が語源で「生命の水」を意味する。戦国時代だった12世紀のアイルランド南東部にある国の王様が、イングランドのヘンリー2世に助けを要請。イングランドの兵隊がアイルランドに行き植民地化が始まり、以降800年間、アイルランドはイングランド(のちの大英帝国)の植民地となった。その時、住民がウシュク・ベーハーと呼ばれる強いお酒を呑んでいたという記述が残っている。イングランドの兵隊が戦いを終え自国に戻り時代を経るに従い、Usquebaugh(ウスケボー)、Usqua(ウスカ)、Usky(ウイスキー)と転化し、1715年にWhiskyになったと謂れている。スコットランドでウイスキーという言葉が出てくるのは1494年、スコットランド人は自分達が作ったと言われているが「どうやらアイルランドが先。当時のアイルランドは修道院文化があり先進国だった。スコットランドにキリスト教が渡ったのも、アイルランド人がもたらした。ウイスキーを含め、全てアイルランドからスコットランドに伝わったのではないか」と推測。

 

1824年には、グレンリヴェット蒸留所がスコットランド初の公認蒸留所となり、現在もシングルモルトが有名。現在のウイスキーは琥珀色をしているが「昔のウイスキーは透明、ウォッカと同じ。熟成されて色が付いていった」と解説。熟成に至った経緯について「お酒は金になると気づいた政府が税金をかけた。スコットランドの街中にある蒸留所は反対し、皆が谷や山で密造酒を製造。しかし、収税官が来て税金を徴収されたので、ワイン樽等に隠していた。それを忘れて数年後、樽を開けると琥珀色に変化し美味しくなっていることに気づき熟成が始まった」と述べる。最後に「今作を機会にスコットランドとウイスキーが近しい存在になって頂ければ」と願い、20分程度の時間ではウイスキーについて語り足りないことを惜しみながら、トークイベントは締め括られた。

 

映画『ウイスキーと2人の花嫁』は、2月17日(土)から大阪・梅田のテアトル梅田、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。また、京都・烏丸の京都シネマでも4月以降に順次公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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