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『アルビノの木』京都・大阪で上映開始 初日ゲストトーク開催

2017年4月15日

4月15日(土)より大阪・十三のシアターセブンと京都・東寺の京都みなみ会館で自然と人間の関係を真摯に見つめる映画『アルビノの木』が1週間限定上映されている。公開初日のシアターセブンには金子雅和 監督と映画監督の西尾孔志さん、大阪市立自然史博物館を拠点に活動している骨格標本作成サークル「なにわホネホネ団」副団長の米澤里美さんを迎えてのゲストトークが行われた。

映画『アルビノの木』は、数々の短編映画を手がける金子雅和監督の「すみれ人形」に続く長編第2作。農作物を荒らす害獣駆除会社で働くユクのもとに高額報酬の仕事の依頼が舞い込んだ。それはかつて鉱山として栄えた山あいの村で、「白鹿様」と呼ばれる鹿を秘密裏に撃つことだった。ユクは普通の鹿と異なるというだけで害のない動物を殺すことに多少の疑問を感じながらも、山に分け入っていく。山の集落で静かに暮らす人びとと出会い、山々や木々など圧倒的な自然に触れるユクの前に白い鹿が現れる…

映画上映後、西尾孔志さんによる司会でトークショーは開催された。まず、西尾さんは金子監督に本作を企画するきっかけについて伺った。金子監督は「19歳の頃から映像作品を作り始め、2003年から2005年にかけて映画美学校で劇映画の作り方を学んだ。最初に映画として撮りたい思ったのが、風景の中に人が存在している、人と自然をテーマにしたものだった」と明かす。金子監督の作品ではよく動物が登場しているが、動物への意識について伺ってみると「本作では民話的な世界を提示できないかと考えていた。日本の各地にある白鹿伝説の話と猟師を題材にした映画の構想があった。白鹿と猟師、よくある題材であるが、現代劇にするのに時間を要した」と話す。「動物自体を題材にしようとしたのが今作が初めて。企画を始めてみると、動物を映画の中で用いるのはおもしろい」と気づいた。

西尾さんは、米澤さんに作品の感想を伺った。米澤さんは「鑑賞しながら、途中から森の中にいるような感覚になり、後でコメントすることを忘れて鑑賞していた。登場人物に監督の想いを語らせているなと印象に残り、自然の恵みから離れて都会で暮らしていることに胸が苦しくなった」と明かす。これを受け、西尾さんは金子監督に、主人公に対してどのような思いを託したのか尋ねた。金子監督は「街で生きている自分たちは決められたルールやシステムの中で生きている。自分たちが生きている中で生き物の命を奪っていることについて疑問を持たない。誰かの好きな人、誰かが大事にしているものの象徴として白鹿を描いた。人と生き物の間にある背景が見えた時に今まで通り自然に接することができるのか、主人公の行動に託している」と応える。

さらに、西尾さんは米澤さんに動物に関わる仕事に就いたきっかけについて聞いた。米澤さんは、幼い頃にアマガエルが宅地造成によってどこに行ったのかと思い、憤りを覚えたことがあった。考えてみると、住んでいる町もかつては生息していたことに気づく。「環境に悪いことをしないと生きていけない私たちが害獣なのか。大人になったら、せめて自然が好きで大切にしたい人を増やすような仕事に就きたいと思った」と明かす。また、米澤さんは、現在の自然の状況について「鹿は森の中で木々を食べてしまい、次の森が育たなくなり、やがて老木が倒れた後に生えてきた若い木は鹿に食べ尽くされてザラザラの山が残ってしまう。だから、鹿が害獣扱いになってしまう。崖崩れが起き、山の生き物も水の中の生き物も生きられなくなってしまう」と伝える。西尾さんは、映画の中で出てくる害獣駆除について現実を訊くと「行政では駆除の目標値がある中で、現在は異業種企業が参画し駆除が行われている。採算を考えると放置せざるを得ないが、出来る限り持ち帰り肉を食べたり皮を活用したりしている」と米澤さんは現状を話す。

本作のテーマについて西尾さんが訊くと、金子監督は「本作は自然対人間を描いているように見えるが、信仰が入ることで不思議な視点から作品を描いている。こだわったのは、一つの現象によって起こる人間のリアクションであり、立場が違えば、同じ人間でも違ってくる感じ方・考え方を描いている」と応えた。さらに「自然対人間の対立について、ストーリーに影響を与えたのが宮沢賢治の『なめとこ山の熊』」だという。「究極的には、どちらもそれぞれの環境の中で生きるためにやらなければいけないことがあるなかで、生きているフィールドが違うことで価値が合わずぶつかり合ってしまう。どんなに動物が好きでも自分たちが生きていくためには命を奪わなければ生きていけないという、避けられない問題を描きたかった」と明かす。

米澤さんからは、映画監督という仕事を通して社会に伝えたいことについて伺った。金子監督は、世界の多層性だと応える。「一つの物事も一人の人間も一言では言い切れず、様々な側面があり、切り捨てることができない。切り捨てられないからこそ大変だし生きづらく葛藤してしまう」と語る。「映画は、単純化した方がわかりやすく、伝わりやすい部分がある。状況によって伝え方は必要に迫られる。一つの答えでは言い切れない。様々な立場の人間が存在し其々の価値観がある中で、違う価値観を持った人達同士がどのように歩み寄れるか、問いかけたいが答えが出せない。作品を観た方の心の中がざわめき、波紋として残り、考えてもらえたら嬉しい」と金子監督は思っている。

 

西尾さんは、監督自身がカメラマンとして撮影するこだわりについて尋ねた。金子監督は、本作を2008年から撮り始め、ロケハンの時間が膨大だったと明かす。「季節や時間、天候によって現場に射す光が全部違う。それらを知るために同じ場所に何回も何年にも渡って行ってリサーチしている。場所自体へのアクセスが大変で、単純に撮りづらい場所が多い。自分が何回もロケハンし、撮影者として身体的に一番知っている。それを第三者に伝えたり機敏に撮影するのは難しく、自分でやった方が現実的」だと話した。

最後に、米澤さんから「山や森は存在している。都会に住んでいる皆さんにそういう場所があることを想像してもらい、自分たちの暮らしが大なり小なり影響を及ぼしていることを考えてほしい。『』の情景を日常の中で思い出してほしい」と伝えられた。金子監督からは「昨年の7月にテアトル新宿での公開が始まり、9ヶ月目になった。地方の劇場を1ヶ月に1,2ヶ所のペースで息長く上映している。映画の題材としてはマスなものではなく、多くの人が喜ぶものではないのかもしれないが、様々な方に観て頂いている。ご覧になって引っかかるものがあれば、他の方にも伝えて頂けたら嬉しい」と感謝を述べた。

映画『アルビノの木』は、4月15日(土)より4月21日(金)まで大阪・十三のシアターセブンと京都・東寺の京都みなみ会館で1週間限定公開。シアターセブンでは4月15日(土)~4月18日(木) 18時20分~19時51分、4月21日(金)15時35分~17時03分、京都みなみ会館では4月15日(土)~4月16日(日) 14時15分~16時15分(ゲストトーク込み)、4月17日(月)~4月21日(金) 18時40分~20時10分に上映される。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する
映画好き。映画ライター講座を受講し
関西の映画情報サイトを中心に執筆